はドアに手を掛けたまま唸っていた。
扉を開けるでもなく、只伸ばされた自分の手をジッっと睨みつけ悩む。
(来ていいとは言われてるけどやっぱり怪しいんだよね・・・毎回先生公認で保健室でプールの授業サボってるなんて・・・ってーか、今の自分の状況も充分怪しいのよね。あ〜さっさと入れよ。自分!
だけど・・・だけど・・・!折角学校でカカシを避けてきてた意味がないのよこれって!
今までは他に生徒が居たからいいものの今日は居なかったらどうしようとか余計な事を考えて・・・あー!!もぅ、自分が嫌になってきた!!!)
 その場の雰囲気に流されて『好きだ』と言ってしまった梅雨の初めから大分過ぎ、もぅ夏休みも近い7月の半ばに差し掛かっていた。
恥ずかしさのあまりとにかく逃げる事が出来る学校内ではカカシを避け、家に帰ってもそれとなく避けていて自分だけぎこちない。
カカシはその行為が『照れ』から来ているのが分かってるからあんまりそれに対して突っ込んで来なかった。それが逆に『恥ずかしさ』を増す要因となっているのも気付きもせずに。
ガラッ・・・
「ひゃうっ!!」
あれこれと考えても無駄な自分の思考にある中、突然目の前のドアが開く。
それに驚き、は思わず目を瞑り耳を手で伏せ屈み込んでしまった。
「・・・・・」
ドアを開けたと思われる人から反応は無い。
そして、思わず屈み込んだは反射的に起こしてしまった行動に恥ずかしくてそのままに固まってしまう。
(ど・・・ど〜〜〜しよ〜〜〜恥ずかしい〜〜〜絶対変だと思われてる〜〜〜〜!!!)
こうゆう時こそ目の前に居るのがカカシであればいいのに、目の前に居る人は明らかにカカシではないと思われる。
「・・・おい。大丈夫か?」
少しの間をおき、聞き覚えのある声が聞こえる。
はこのままの状況であっても何も変わらないのは目に見えているので恐る恐る顔を上げ苦笑いを浮かべ、目の前に居る見知った少年と目を合わせた。
「う、うん・・・ごめんね。いきなり出てきたから驚いちゃって・・・」
嘘ではないが理由としてはかなり怪しい。
「いや・・・」
素っ気無く答える声音とは逆にに差し伸べられた手。
は「アリガト・・・」と一言礼を言うと少年の手を取った。
彼は、と同じクラスの同じく学級代表で優等生。
大半の女子に「クールだ」とか「カッコイイ」と評判で、こっそり(?)ファンクラブがあると言われている噂の うちはサスケ だった。
発せられる言葉は冷たいものの、サスケは手を差し伸べられるだけの優しさを持った少年だ。
だからモテるのだろうな・・・とはサスケを眺めた。
「ところで・・・サスケくん、どうしたの?」
「・・・?あぁ、ちょっと昨日寝てなくてな・・・フケてたんだ。」
「嘘ね・・・だってさっき英語だったもん。ガイ先生が嫌だったんでしょ?」
彼は優等生というのは名ばかり!と言うのではないのだが、偶につまらないからと言って授業をフケる事があった。
そんな事を知っている女子はそうそう居ない。
「ああゆう熱血教師好きじゃ無さそうだもんねぇ。」
クスクスと楽しそうに笑うに、図星をつかれたサスケは「まぁな・・・」と不機嫌そうに答えた。
「どうでもいいけど保健室前でなーにやってるの?」
少し呆れた面持ちで上から降ってきた声にとサスケは後ろに立つ声の主に目を向けた。
「別に・・・」
サスケはあからさまに不機嫌そうな表情でそう言うと「じゃあな。」とに一言言い、その場を立ち去った。
「次の時間・・・体育だから・・・」
はサスケを見送った後それだけ言うと目を逸らす。
(う〜〜〜やっぱりマトモに見れない〜〜〜)
は一つ深呼吸するとカカシに促されて保健室へと入った。

保健室には数名の生徒が居た。
結局の所サボリの連中らしく、カカシは手を持て余しているらしかった。
「ほら・・・お前らそろそろ授業始まるぞ。さっさと帰れ。」
少し苛立った声でサラリと言うカカシに「それじゃあ意味がない」と我侭を言う生徒。
軽くあしらいたいのは山々だが結構手強かったりする。
としてもサボリでいいから一人でもこの場に居て欲しいのだが、学校での優等生といった壁によってそれは脆く崩れ去る。
「教室で寝てるだけでも取り合えず授業参加点は取れるのに・・・このままじゃ高校も行けませんよ。先輩?」
静かにポツリと言い放たれた言葉に、その場は冷気に包まれる。
と、感じたのはカカシだけでは無かったようだ。
はニコリと笑顔を向けると相手はビクッと肩を震わせて「あ〜じゃあ、戻るわ・・・」と逃げるように立ち去ったのだった。
・・・?」
カカシは疑惑で満ちた頭の中を整理させようとの顔を覗き込む。
「ん?あぁ・・・バックにガイ先生がついてると思われてるのよねぇ・・・迷惑な話だわ。」
「ガイ・・・?」
「そぅ、青春熱血教師っていうのは嫌いでなくても苦手な人が多いからね。ま、使えるものは使わなきゃ?」
「あ、そぅ・・・」
明らかに呆れられたかな・・とチラリとカカシの顔を覗き見る。
(やっぱ・・・一人でも残しておくべきだった・・・?)
はひとつ溜息をつくと保健室の隅に設置されている長椅子に腰掛ける。
それを見やった後、カカシはキィ・・・っと音を立て椅子を引き、いくつかのファイルが広げられている机を前に腰を下ろした。
何やら難しそうな資料が挟み込まれていると思われる資料の上に無造作に置き放たれた眼鏡をかけ、カカシは資料に目を通しだした。
特に語りかけてくる気は無いらしいカカシに安著と半分『がっかり』といった複雑な溜息を吐いた。

 蝉の声が聞こえる。
 生徒の声が遠くで聞こえる。
 チャイムが鳴り、ざわざわとした音が急速に音を止めていく。
 そして、すっかりとは言わないが生徒の声は聞こえなくなった。

 蝉の声が聞こえる。
 開け放たれた窓から風が入り込み髪を揺らす。
 ザワザワと風に揺すられた木のざわめきが聞こえる。

 ―  静かだ  ―

「ねぇ・・・いつもこんなに静か?」
無意識に近かったのだろう。
呟くようには聞いた。
だけど距離もあまり離れていないし、静かなのでカカシの耳にはちゃんとの声が届いている。
「んー・・・そうだねぇ。今日はサボリ君達が居ないからいつもより静かなんじゃないか?」
カカシはくるくるとペンを指で弄び、窓の外を見て答えた。
「ふぅん・・・心地良いね・・・」
ゆっくりと、本当に独り言のようには言う。
「そう?」
カカシはキィ・・・と静かな部屋に椅子を動かす音を響かせの方へと向いた。
「うん。だからサボリ君達はここに来るのね・・・」
クスッと楽しそうに笑うの目は少し虚ろなように見えた。
それが、出会った当初の表情と重なったカカシは心配になり、の元へと歩み寄った。
「どうかした?」
「・・・なんで?」
 蝉の声がピタリと止む。
「なにか落ち込んだ表情だから・・・」
「そう?」
 今まで自分たちの髪を揺らしていた風がピタリと止む。
「うん・・・まるで・・・」
― まるで、何か大切なものを無くした時の様に・・・
クスッ・・・と静かに、自分を嘲るかのように笑う。
「心地良いの・・・こうゆう雰囲気・・・
静かなの・・・ゆっくり・・・まるで時が止まったように錯覚させてくれるゆっくりとした流れで時が進むじゃない?」
「あぁ・・・」
「好きだったのかな・・・嫌いだったのかな・・・?」
「何が?」
全く意図の取れない会話にカカシの中に苛立ちが生まれる。
それは自分の無力さを感じ、歯痒い時の感覚に近い苛立ち。
「弱くなったね・・・私・・・不安が増えたの。こっちに来てから・・・
幸せだから、不安が増えたの・・・壊れるのが怖くなったの・・・」
・・・?」
「もうすぐ・・・嵐が来るよ・・・」
はそう言うと窓の外に目をやる。
外は雲ひとつ無い快晴。
台風が接近しているなんてニュースも入ってきていないし、大体7月に滅多に台風なんてものは来ない。
同じように、がみつめる先を見るカカシに
「すぐじゃないよ・・・もうすぐ・・・きっと夏休み入ってから・・・ね。」
そう言ったの目には綺麗な深い深い紅の色が戻っていた。
「何で・・・そう思うの?」
カカシの問いかけには少しの間を開けて言う。
「・・・似てるから、かなぁ・・・雨には敏感なのよ。私・・・嫌なんだけどねぇ・・・」
カカシはポンポンとの頭を撫でる。
「今年からは大丈夫でしょ。俺がいるからねv」
カカシはニコッと優しく微笑んで言う。
しかし、こんな所で素直に『そうだね』だとか『ありがとう』と言った言葉が出ないのがだ。
「それはどうかな・・・大体カカシ先生嘘ばっかで信用しがたいもの。」
「酷いなぁ・・・」
「過言ではないわよ?」
「ハイハイ。それにしても残念だねぇ。」
カカシはさっさと話題を変えたいらしくそれ以上をつっこませない為に言葉を付け加える。
「何が?」
サラリと流れに乗って、が訊く。
の水着姿・・・例えスクール水着であっても見たかったのになぁ・・・」
心底残念そうに言って退けたカカシに真っ赤になる
「変態!それでも教師なの!?」
と、最もな台詞を吐く。
「家帰ったら俺にだけ水着姿見せてねv」
それでも尚、言って来るカカシに駄目押しとして「ダメ!私水着持って無いもん!!」と押し切る形で言う。
「うっわ〜。何それ!面白みの欠片も無い!!」
「面白くなくていいのよ!!・・・・もぅっ!これじゃああの時注意した意味ないじゃない!!学校では特に変態発言はしないでよ!!じゃないとホントに家でも『先生』扱いの上一生敬語で話すわよ!?」
一気に捲くし立てたにカカシは反省したのか少し落ち込んだかのように見えた。
しかし、カカシは「・・・チッ。」と舌打をし、諦めきれないといった表情を見せたのだった。

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 終業式も終わり、明日から夏休みだ!と浮かれた空気が漂う学校から逃げるように帰り、は部屋でゴロゴロとしながら暇な時間を過ごす。
夏休みなんて楽しくない。
去年からはこの部屋にいるから暑苦しくカカシが付き纏う以外に嫌な事はなかったが、その前までは逃げる場所がない長居日々が続いていただけ。
― そういえば私・・・誰かに助けを求めた事なんて合ったっけ?
もしかしたら、カカシが初めてかもしれない・・・と薄っすらと考え思考を消す。
「あ〜〜っつ〜い!!!」
伸びと一緒に言葉を発する。
暇で暇でしょうがない。
夏休みの宿題なんてものもあったなぁ〜・・・と鞄の中を探り出すがやる気なんておきなかった。
そんな時、壁一枚挟んだカカシの部屋から電話の音が鳴っているのに気が付いた。
「また・・・留守番にするの忘れてるし・・・」
は呟くと、小走りに部屋を出てカカシに無理矢理渡された合鍵でカカシの部屋を開け電話の前に行く。
相手に余計な時間と手間を取らせるのは可哀想という建前と、『もしかしたら』という期待。
「はい、もしもし・・・?」
少し息を荒げては電話を取った。
予感的中。『もしかしたら』の期待の方。
『あ、?ごめんね〜走らせちゃって』
電話の主はカカシだった。
カカシが留守電機能を使用しない理由はひとつだった。
[外に居る時、と連絡を取る手段の為]
の部屋には必要不可欠な電化製品しかない。
電話は掛かって来る事は滅多とない。
掛けて来る相手もヒナタぐらいで事情を知っているのでもちろんカカシの家に掛けて来る。
テレビだって、カカシの家に行けば見れる。
大体、殆ど見ようとも思わないからには必要ないのだ。
「いいけど・・・何?」
呼吸を整えてぶっきらぼうに答えるとカカシはいつもクスクスと笑う。
(何がそんなに楽しいんだか?)ははぁ、と浅い溜息をついて「だから何?」ともう一度問うた。
『あ〜・・・うん。今日ね、弱みに付け込まれて俺の家で飲み会することになったから色々買って適当に作って欲しいな〜とか言ったら怒る?』
「怒る」
即答するにカカシは一瞬黙りこくる。
「で?どれぐらい来るの?」
は(冗談だって・・・)と呆れた溜息を吐きながら訊く。
『あ。うん・・・ハヤテと紅とガイと・・・あと・・・』
そこで一旦止められた言葉に疑問を抱きつつは「あと?」と先を促した。
『紅の陰謀にてイルカ先生が・・・・・』
「はぁ!?」
向こうも無理矢理らしく渋々らしいが、そのメンバーで飲み会の上に理解はしてくれないだろうイルカを混ぜるという気が全く理解できないは一瞬固まり思わず「何で!?」と聞き返しそうになった。
「はっ・・・まぁ、イイケド・・・大した物出来ないけど適当にじゃなくてちゃんと作ってあげるわよ。どうせ暇だったし・・・じゃあ、今から財布取りに行くから・・・」
『ありがとvv』
「職員室?保健室?」
『多分、職員室の方に居る』
「ん。分かった・・・」
そう言うと、は電話を切り買い物する為の用意を一通り済ませきちんと戸締りをして再び学校へと戻った。


 ガララララ・・・っと音を立てて扉を開き職員室の中を覗くと、それをカカシはいち早く見つけた。
「ごめーんね。手間掛けて・・・」ひとこと言うとに財布を渡す。
「・・・・・お酒・・・ビールだけでいいの?」
財布を受け取り鞄に収めた後が訊くと、カカシの横からヒョッコリ顔を覗かせた紅が「日本酒も・・・v」と楽しそうに笑う。
「2升ぐらいあっても軽く飲めるメンバーでしょうね・・・」
ハヤテも横からポツリと口を挟む。
今まで奢らされた分はこうゆう所で返してもらおうという魂胆丸見えだ。
「っていうか、今そんなに金持ってないよ・・・?」
ここぞvとばかりに強請る紅とハヤテに向かって何故か勝ち誇ったように言うカカシに「ケチッ!」と紅がごねると、はそれを聞いてカカシに追い討ちをかけた。
「だと困ると思ってお金持って来ちゃった・・・」
それを聞いた3人は「えらいっ!」「さすがさんですね」と紅とハヤテは褒め称え、カカシは「・・・こんな所までシッカリ者っぷりを発揮しなくても・・・」と三者三様の反応を示す。
「他何かリクエストあったら・・・できるものは作りますけど?」
が更に言うと、カカシは諦めたように机に突っ伏した。
それを見て、は内心(なんか・・・楽しいかも・・・)笑う。
「じゃあ煮物食べたいなv」と紅は笑い、ハヤテもそれに賛同するように「純和風・・・日本食定番。みたいなのがいいですね・・・」と付け加えた。
「あ〜・・・もう、勝手にして・・・・」カカシのその一言に紅は「太っ腹v」と、先程とは全く逆の言葉を掛け喜んだ。


買い物を一通り済ませ、重たい荷物をカカシの家にドサッと置くと早速は調理に取り掛かる。
まずはリクエストのあった煮物からテキパキと調理を済ませていく。
次々と丁寧に仕上げていき、あっという間に時間は過ぎていった。
調理を終えたのは5時半を少し回ったぐらい。
カカシは「6時ごろ帰るから・・・」と言っていたのを思い出しは余った時間を持て余していた。
と、そこへ飲む前からどんちゃん騒ぎ+無理矢理引き連れられた男約1名が来るのが分かった。
「騒がしい・・・おもいっきり近所迷惑ね」
はポツリと呟くとカカシを出迎える為に玄関を開ける。
「おかえんなさい・・・・」
「ただ〜いまv」
ポンポンとの頭を撫でるとカカシはそのままひょいっとを抱き上げる。
「って!ちょっと!!」
が慌てて抵抗するとカカシは「まーだ猫被ってる・・・このメンバーなんだしいいでしょ?」と耳打ちした。
「い・・・っ!やだ・・・」
はギュッとカカシの肩口の服を握ると「ハヤテ先生・・・助けて下さい」とハヤテに訴える。
「ほら・・・コホッ。カカシさん。無理強いするのは駄目ですよ」
「嫌だ。」
「我侭・・・ゴホッ。」
「俺、猫かぶりなは嫌いだもん。」
「・・・・・」その一言には異常なまでに反応してしまった。
ズズズズ・・・っとカカシからずり落ちる様に降りるとニコッと嘘っぽい笑顔を向ける
「嫌いでいいよ・・・カカシなんかに好かれたくない。」
と一言言った。
(捻くれ者・・・)自分自身にそう言って料理を並べる。
「スゴイ!ちゃん料理上手ね〜・・・」
紅は見るからに美味しそうな料理を一目見て思わず感嘆の声を上げた。
「いいお嫁さんになるわ〜v」
定番とも言えようその台詞には照れたように笑うと「有難うございます」と礼を言う。
「ハッハッハ!くんは誰のお嫁になるんだ?」
要求される答えはひとつのその質問にはニッコリ微笑むと
「そうですね・・・これから出会う素敵な人とvってトコロですv」
とハッキリキッパリ、しかも『これから』を強調して言う。
「はいはい、出会えると良いね・・・素敵な人に」
「そうね・・・」
2人とも目が笑っていない。が、見た目はこれ以上ないくらいな笑顔だった。
要求されたひとつの答え。
その質問にのってやる気は今のには無かった。
― 嫌い ―
その一言が自分の中で思ったよりも重く圧し掛かってくる。
『自分が悪い』それが分かっているから余計に苦しい。
『だけどしょうがない・・・』そうやって逃げてる事を知っているから余計に悔しい。
『今にも泣いてしまいたい・・・』だけど、我慢する。
深く関わる事が無い人間に素顔を見せる気は無い。
それでいて同情や反感をかう気は無い。
それなら、独りの方がマシ・・・
それは今まで生きて学んだ事。唯一自分で学び取った事。
だけど、それをカカシの手によっていとも簡単に覆されたのだ。
何年も、何年も・・・そう、苦しみを耐えて、耐えて、耐え抜いて、やっと手に入れた自分の中での脆い柱。
それが間違った位置に立ち自分を支えていようとも今はそれを崩す事はできない・・・そう思っていた。
しかし、カカシは「それ、間違ってるよ・・・」と一言言って崩すのと同時に、自分には受け入れる事の出来ない大きな支えを埋め込む手伝いをしてくれるという。
それが馴染むまでの間は異質な柱・・・
それを受け入れられる大きな器は持っていない。
だけど、初めてそれを受け入れてやりたいとは思っていた。
その自分の考えに戸惑い、何をする事も出来なくなっているとカカシはいつものように見透かしては居ない。
だったら、知られるのは怖い。見せたくは無い。
『自分は隠すもの』そう学んできたのに、『隠さないで見せるべき人も居る』とそう教えられそれを認めてしまう事が怖いなんて、言えない。
もし、知れてしまったらこの人はどう思うのだろう?と思うと口には出せない。
 自分が苛々しているからそれをに八つ当たりしないように・・・とそっぽを向いているカカシには到底気付けないだろう事を意外にもそれまで疎外感を感じ、喋りかけられるまでは口を開こうとしないイルカが一瞬でが落ち込んでいる事に気付いた。
「あの・・・どうかしました?」
前を向いてほろ酔い加減に盛り上がる連中と、真正面に居るにも関わらず不貞腐れて窓の外を見ているカカシには気付かれないように自分の後ろで食べ終わった食器を片付けているに声を掛ける。
「え・・・?どうして・・・ですか?」
思わず裏返る声でバレバレか・・・とも思うが一応シラを切るにイルカは心底心配そうに
「何か・・・顔色も悪いですし休んだ方が・・・」
そう言ったイルカの目が少し揺らぎ、何かを決めたように少しキッとした目で訊ねる。
「あの、もしかして・・・・」
その続きは手に取るように分かってしまった。
(この人・・・顔に出るな・・・)
はそう思いつつ笑顔を向ける。
「違います・・・カカシ、先生は関係ないです」
このメンバーで唯一カカシを理解する事を拒むイルカに何を言っても無駄だろうが、その場でそれ以上の事を聞く勇気もない。
― 吐き気がする・・・
その名を聞くことで自分の中の何かが変わる。
自分でも不安定な位置である事を悟っているにとって用意に推測できるイルカの質問はキツイモノがあった。
苦笑いを浮かべるにイルカはそれ以上聞くことを諦め、「そうですか・・・なら、いいです・・・」と言葉を発した。

それが言い終わると同時だった。
『ドンッ!!』という大きな雷鳴が響きそれに引き連れザァァァァァァァ・・・・と大ぶりの雨が降ってきた。
「あらら・・・降って来ちゃったわねぇ・・・あ〜ビックリした」
と平然と言う紅と、驚いた顔で窓の外を眺めるハヤテとイルカ。
ビクッと肩を震わせた後、自分の心臓を押さえオーバーアクションで驚きを見せるガイ。
カカシは眉間にしわを寄せ「チッ・・・」と誰にも聞こえないほどの舌打ちをするとを見る。
予想はしていた。
だけど、ここまでも鮮明にフラッシュバックさせるような光景に出くわすとは思っていなかったはしばらく固まっていた。
「あ〜ビックリしましたねぇ・・・ゴホッ。」
「えぇ、ホントに・・・・」
「心臓に悪いな」
「飲みなおしね・・・・」
とカカシを覗いたメンバーは落ち着き払い、飲みなおしに乗じる。
ハヤテは幾分か心配はしたようだがここは自分の出る幕ではない事を重々承知していたので他の者に気付かれないようにと平然と振舞う事に専念した。
そのお陰で、強張った顔のにも、不安を抱えを見やるカカシの視線には紅、ガイ、イルカの3名には気付かれなかった。
「あ・・・・っ・・・。」
は誰にも気付かれない小さな声を上げると震える体を押さえギュッと目を瞑る。

怖い、怖い、怖い、怖いっ!!
激しく降りつける雨音が体の中でそれだけが唯一の音かのように響き渡る。

カカシはスッと立ち上がりの前にしゃがむとはビクッと肩を振るわせた。
差し出す手もパシンッと勢い良く怯えた目で跳ね除ける。
それにはさすがに回りも気付き、そちらに視線を向けてしまう。
・・・・」
「・・・・・・・・」
カカシの呼びかけには答えない。
答えられない。
声が、出せない・・・・
カカシは両手での両手を包むように強く握る。と、
「嫌っ!!放してっ!!」
と、怯える。
「放していいの・・・?」
カカシが静かに問うとは首を横に振る。
放して欲しい。
だけど、放されると不安で不安でしょうがない。
出来るなら無理矢理にでも握っていて・・・と目が訴える。
その瞳は必死で涙を堪えて潤んでいた。
「ん〜取り合えず深呼吸してごらん?」
見た目以上に情緒不安定になっているを落ち着かせるのが先決だと判断しカカシはの両肩に手を置くと真っ直ぐ引き込まれそうな深紅の瞳を見る。
はカカシに言われるままにゆっくりと息を吸い込み吐く。
それを2,3度繰り返した後、やっと落ち着いたのかはボーっとカカシの顔を見ていた。
「落ち着いた?」
カカシが訊くと、はコクンッと小さく頷いた。
「もう寝ようか・・・?」
優しく、落ち着きを覚える声で言うカカシに再び頷いたはキュッとカカシの袖を掴む。
その手は目に分かるほどに震えていた。
カカシはそれを見てヒョイッとを抱き上げると
「ハヤテ・・・後、任せていい?」
と疲れきったの顔を覗き込みながら訊く。
「はい、はい・・・何でも良いですから早く行ったらどうですか・・・?ゴホッ。さんそのままだと・・・」
「分かってる」
ハヤテの言葉を遮って、カカシは自分の部屋を出ての部屋へと向かった。

「さて、飲みなおすか。」
全てではないが、なんとなく事情を掴めているガイはパンッと手を叩いて場の空気を閉めた。
「そうね。折角の料理が冷めちゃうわ・・・」
余り干渉はしない。
の心の内に入り込んでいいのはカカシだけだと知っているから、自分たちはフォローぐらいしか出来ない事を知っているから深く関わらない。
「そうですね・・・ゴホッ。」
ハヤテはもう一度『頂きます』と顔の前で手を合わせると料理を口に放り込む。
「あのっ!!」
イルカだけは訳が分からないので周りのこの態度に慌てる。
それを制したのは無理矢理イルカを連れてきた張本人である紅である。
グイッと無理矢理酒瓶をイルカの口に押し込むと「ハイ。飲んだ、飲んだv」と嬉々と言う。
「あの・・・それはちょっと・・・・」
ハヤテが止めるのも聞かず紅は勢い良く酒を流し込ませると真っ赤になって今にも目を回し倒れそうなイルカに向かってもう一杯いかが?と酒を出す。
「い・・・いりまへん。」
すっかり呂律が回らなくなったイルカに「あら〜弱いのねぇ〜」と残念そうに言う紅にもう何も言えなくなったガイとハヤテは『弱くなくても今のはキツイ・・・』と思わずを得なかった。
























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