初めて逢った日にはじまって、告白した日、初キス初デートに一緒に暮らし始めた日。
このへんは、まあヨシとしても。
初めて笑いかけてくれた日とか、初めて手料理を食べてくれた日とか、初めて買い物に付き合ってくれた日とか、初めて事件よりも優先してくれた日とか、初めて本抜きで一日側にいてくれた日とか……。
いい加減にしろってくらい、快斗は記念日が好き。
special day
「ね、新一。今日が何の日か知ってる?」
朝起きて、"おはよう"の挨拶の次にそう言うくらいだから。
応えてもらいたいっていうか、知っていて欲しいと願ってのことだとはわかっている。
でも自慢じゃないが、自分の誕生日すら忘れるオレが、MY設定の記念日なんざ一々覚えているわけがない。
それをわかっていて態々聞くほうが悪い。
ポーカーフェイスの下で落胆したって、こそっとため息をついたって、オレのせいじゃないんだ。
最初こそ、
「今日はオレ自身が新一と逢った日なんだよ」
なんて言われれば、もう一年経ったんだなぁって感激したさ。
その日を祝おうって快斗が考えたことが嬉しくて、はしゃいだ。
だけど、
「今日は初めて新一がコーヒーを淹れてくれた日」
「今日は初めて新一が玄関まで出迎えてくれた日」
「今日は初めて新一が添い寝を許してくれた日」
などと、どうしてそんなのが記念日なんだっていうので騒がれれば、うんざりした顔をしても仕方ない。
それをどうとったのか、快斗は、「今日が何の日」かを聞いてくることはなくなった。
なんとなくいつもと違う朝の雰囲気に首をかしげて。
いつもよりも優雅な快斗の物腰に、妙に落ち着かなくなって。
そして、いつも以上に豪華な食事で、口にすることといえば。
「……今日は、何の日なんだ?」
わからないことに気後れして、恐る恐る聞くと。
「今日はね、初めて新一と親しく話しをした日なんだ」
そういう実に下らない理由なら、
「あ、そう」
ですむけど。
「今日はね、一生を誓い合った日だよ」
なんて言われた日には、愕然とせざるを得ないじゃないか。
IQ400の天才には常識的な判断もつかないのかと、呆れを通り越して怒りを感じた。
そりゃ、そういう大事な日を忘れているオレだって悪いけど、でも。そういう日こそ、朝起きた時に告げるべきものだ。
一日の終わり近くになって、大切な記念日だったことを教えられた身にもなってみろ。
せっかくの日を、驚きと怒りで締めくくらざるを得ないんだぞ。
快斗に対して、なにもしてやれなくて。
一方的にプレゼントを渡されたって、店が閉まった時間じゃお返しを用意することもできない。
本当に頭にきたんだ!
要するに自己満足でやってるんだ、あのオトコは。
自分だけが記念日だと浮かれて、楽しんで、お祝いをして。
付き合わされて振りまわされるオレのことなんてちっとも考えてない!
だから。
オレだって同じことしてやるんだ。
オレの自己満足につき合わせて、吃驚させてやる。
今日が何の日かわからなくて慌てふためかせてやるんだ。
と、意気込んでみたものの、問題がひとつ。
記念日なんて、オレは何もわからないんだよな。
オレで思いつくのなんて、快斗にとっては当然のことで張り切って祝うのばかり。
記念日にこじつけるにしても、快斗といつどこで何をしたとか覚えているはずがないし。
驚かして焦らすためには、絶対にわかりっこないのじゃないと意味はない。
なにかいいの、ないかなぁ………って、これは……。
決めた。この日にしよう。
快斗のことだから、ふたりの間にあった出来事なんてコンピュータ検索のようにすぐさま思い出すから。このほうが都合がいいや。
記念日を作ってくれた新聞社に感謝だぜ。
みてろよ、快斗。
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01.11.01
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