Hey,
darling!〜13
「あ、新一。ダメじゃないか」
「…なにが?」
一体何がダメなのか。首を傾げながら、快斗の視線にさらされている自分のなりを見る。
寒くないように厚手のジャンバーを着て手袋だってはめているし、快斗にもらったマフラーだってしている。
「夜の冷え込みは昼間とは段違いだよ」
「大丈夫。だってこの前は…」
「この前っていつ?」
この前といえば、前回怪盗が予告を遂行した日のこと。似たような格好をして現場で張っていたけど、大して寒いとは感じなかった。
「え…っと、10日ぐらい前…かな?」
「そのころは寒気団がひっこんでいたからね。今はもう寒さは本格的だ。ほら、こっちに代えてこれとこれを着て。それからこれもな」
「こんなに?!」
快斗が渡してきたものに目を見張る。
エアテックのズボンにベスト、タートルネックのセーター、足首まで隠れそうな裾長のカジュアルコート。それからイヤーマフのついた帽子。
「ああ、ジャンバーは脱いでいいよ。これ、セラミック素材のコートだから」
「ふーん」
言われた通りに着替えてみると、確かにさっきよりもずいぶんと暖かい。しかも、コートはほとんど重さを感じないから動きやすい。
ちょうどいいところにあるポケットに手を入れたりしながら、着心地を確かめていると。指先に硬いものがあたった。
「なにこれ?」
左右の両ポケットに入っていたものを取り出す。右手は手の中に納まるほどのスプレー缶と、左手にはピンポン玉のようなものが三つばかり。
「防護用具。スプレーは目潰し兼催眠剤、こっちはかんしゃく球だ。投げつけたら爆音と煙が出るから、人の注意をひきつけるには最適だ」
「…なんで?」
「身を守るためだろ」
「そうじゃなくて!」
確かに新一も護身用に、博士が作ってくれた麻酔針を仕込んだ腕時計をしている。それは力のなかった自分にはどうしても必要なものだったから。今は習慣になってしまったからしているだけに過ぎない。
新一の担当は推理で捕り物なんてものに参加はしないし。何より、本日の現場では全く使いようがないとさえ言える。
「快斗は知らないかもしれないけど、KIDは暴力なんて振るわない。二人っきりになっても危険なんてこれっぽっちもないんだ」
だからこんなものはいらないと、新一は手の中のものを快斗へ突き返す。
「今まで安全だったからってこれからもそうだとは限らないだろ」
「そんなことない!だってKIDはいつだってオレを…」
言いかけて、はっとする。
少し前までの闘いのことも、KIDに助けてもらったことも知られてはいけないこと。何よりかの怪盗KIDと個人的な関わりがあるだなんて、普通の者が聞いたらどう思うか。きっと、こんなかばうような発言ですら、眉を顰められて当然のことだ。
他人からどう見られたって新一は平気だけれど、快斗だけは違う。それでも、どうしてもKIDのことを誤解されるのは堪らなかった。
「……KIDは…ただの犯罪者じゃないんだ。こんなこと言うのはヘンだって思うかもしれないけど…KIDには独自の正義ってもんがあってさ…その正義のために闘っているんだ。やってることは犯罪でも…でも、KIDは…っ」
うまく説明できなくて高ぶった感情のまま、新一は快斗へと手を伸ばす。胸元の布地をしっかりと掴んで、そこから気持ちが伝わるように。そして、探偵にあるまじき発言を快斗がどう受け止めるかが怖くて、縋り付くように。
「わかった」
変わらない穏やかな声に、恐る恐る眼差しをあわせる。猜疑の色も蔑視もなく、新一は肩から力を抜いた。
「でもな、新一。危険なんてどこから降りかかるかわからない。何より、犯罪が横行する夜中に出掛けるんだから、このぐらいの備えはしておくもんだ。特に今は不景気で、世情だって悪いからな。凶悪犯にいつ出くわすとも限らない」
「オレ…そんなに非力そうか?」
道具に頼らなければならないのが、やはり新一としては納得のいかないところ。力足らずを補填するためというのが頭から離れない。
「そうじゃなくて、自分の身を自分で守るためだよ」
「自分で?」
「そう。誰の力も借りずにね」
「…じゃ、もってく」
手を差し出して、先程返したものを受け取る。
しっかりとポケットに仕舞うのを見届けて、快斗は先に立って玄関へと行く。扉をひらくと、門扉のところに迎えの車が止まっていた。
「刑事さん、もうきてるよ」
「あ、うん」
慌てて手袋を嵌めていると、脇にはさんでいたマフラーを快斗がとった。そして、通学時にするのと同じようにカイロをくるくると包んで、新一の首にに巻く。
「ありがとう…って、あれ?」
礼を言いつつ、靴をはくとなにやらぽかぽかしている。
「靴用のカイロを入れてる」
「へぇ、なんかすごく気持ちいい」
にっこりと笑いながら振り仰いできた新一に、帽子を深くかぶらせながら快斗は口付けた。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
車が発進するのを見届けて、快斗はドアを閉める。
「工藤くんってあなたの言うことは何でも聞くのね」
振り返ると、呆れたような表情をしている哀がいる。博士が留守のために一緒に食事をして、出掛ける新一に何時ものごとく苦言を呈しなければならないのかと伺っていたのだが。使わずに済んだ労力を愛しく思う。
「そろそろあなたも行かないといけないんじゃないの?」
「ああ。帰りは新一と一緒だから、心配はいらないよ」
「ええ」
警備に加わることを嫌がる担当警部を慮って、新一は余計な口出しも邪魔になることもしない。それでも出向くのは、解読した予告状の最終確認のためと、暗号に隠された中継地点で怪盗を出迎えるため。そして自分の用事が済めばさっさと帰る。
得てして新一は、求められない限り深く関わろうとはしない。KIDのことに限らず、事件においても同じ。パトカーで送ってもらうために現場に悠長に留まるなんてことはせず一人で帰るのだ。前回怪盗と相対した時だって場所が近くということもあり、歩いて帰ってきた程。
それを後から聞いた哀は、頭を抱えてしまった。どこに組織の残党が潜んでいるとも知れない上に、深夜の一人歩きの危険性なんて全く認識していないのだから。
「本当は行かせたくなかったんじゃないの?」
「そう見える?」
「だって、危険なのでしょう?」
疑問符でありながら、哀の言い方は断定的だ。
快斗は返答しないことで、肯定する。
「護身具は、工藤くんが納得する最低限ものだけど。あのベスト、まるでそんなふうに見えなくても防弾チョッキだし。コートは赤外線サーチにかからないものだし」
「鋭いね」
「ねぇ、私はあなたを手伝えるわよ」
軽い口調を変えて。表情にしても真剣さがひどく滲み出ている。
新一が危険だということはとばっちりを食った場合。本当に命の危険にさらされているのは、怪盗の方。
「必要ない。哀ちゃんが気にすることじゃないからね」
「でも!私たちはあなたにいっぱい助けてもらったわ。こうして生きていられるのだって…!」
「自分たちで掴み取った勝利だろ」
謙遜をにおわせることなく、快斗はきっぱりと言い放つ。そこに微塵も付け入る隙はなくて、哀はもう何も言えなかった。
マフラーを鼻先まで持ち上げると、外気に晒されているのは瞳のところだけ。冷たいと感じつつも、体はぽかぽかしているので寒くはない。
(快斗の言う通りにしてなかったら寒かったろうなぁ)
暑さに弱くて、寒さにも弱い。こんなビルの屋上で、真夜中に人待ちをするなんて自分でも酔狂だと思うくらい。
ちらっと腕時計を見ると、そろそろ予告時刻。怪盗がここに現れるのもまもなくだ。
(どうせ簡単に手に入れてくるに決まってる)
警備体制についていくつか指摘しそれとなく手を加えたが、付け焼刃といえるもので怪盗には通用しない。一度、警備全体を指揮することができたらと思わないでもないが、動かすコマがコマだけに、結局は怪盗には適わないだろう。
小さな姿のとき、目の前で盗られたことは何度となくあった。不思議と悔しいと思ったことはなかったけれど。
例え結果がわかっていても、怪盗との勝負をやめるつもりはない。制約のなくなった身で思う存分の駆け引きをする―――ずっと楽しみにしていたから。
対等に扱ってくれた怪盗に、探偵として拮抗する。組織との闘いに手を貸してきたことをお節介と思いつつも、それなりの感謝はしていたから。ライバルと認めてもらうことは、己の力量を認めてもらうこと。それは、怪盗の力に成り得ると認めてもらうことでもあるのだ。
なのに先日の怪盗は。
「私は、自分がやりたいことしかしませんよ。もちろん、あなに恩を売ったつもりもありません。せっかく復活されたんですから、余計なことに頭を悩ますのはおやめなさい」
まるで、力足らずで危なっかしかったから手伝ったと言われているよう。
そして、力不足ゆえに関わりあうなと言われているみたいで
。
とても腹がたった。
(もう一度…言ってみようかな)
確かに怪盗に軽くあしらわれて熱くなってしまったけれど、今は然程の憤りも残ってはいない。
出掛けに怪盗を弁護する羽目になったせいか、闘いの最中に怪盗に対して覚えた共感が戻ってきた。
どのみち、新一は怪盗を捕まえることはできない。勝負に勝ちたいと思っても、捕まえたいとは思っていない。
怪盗の正義を正しいものと認めた時から、新一は目的を達成できることを願ってしまったのだから。
「あ、れ…?」
夜空を見上げていた新一は、この場に近づいてくる気配に気づく。
感覚を辿ってみると、背後の扉からだ。怪盗が出現するには些かおかしな場所であることに首を捻る。
(警察か?でも、あの暗号が解けたとは思えないけど…)
もしかして怪盗の敵かもしれないと思考を掠めるが、それなら気配を押し殺すくらいするはず。足音だって気にせずに立てていることからして、危険性はないに等しい。
身を隠すこともせずに、新一は扉が開くのを見守った。
「やあ!」
警備の巡回あたりと踏んだのに、扉の隙間からひょっこり出てきた顔はよく見知ったもの。にこにこと笑いながら片手を挙げてくる姿に、つい脱力しそうになった。
「いやぁ、寒いね。新一くんは平気かい?」
「……なんでこんなところにいるんだよ」
裏地に高級そうなファーをあしらったコートを着こんで、寒いといいながらも悠然と夜風に吹かれているのに、げんなりしてしまう。
「…っていうか、なんでまだ日本にいるんだ?」
「おやおや、パパにむかってそういう言い草はないだろう」
冷たく言い放っても堪えた様子を見せないのに、ため息をつく。そんな新一に、優作は時計を見ながら云った。
「そろそろだね。彼が現れるのは」
偶然に、この場所この時間に来るはずはない。そう思っていても、新一は優作が怪盗に興味を持っているのは意外な気がした。
「予告状を見たのか」
「新聞にのっていただろう」
「だからって、わざわざ?」
「そりゃあ、久々に彼の予告日に居合わせたんだから。会いたくなるのが道理というもんだよ」
「…ふーん」
優作の書斎には、怪盗のファイリングがあった。新一にしてみれば、自分が惹かれるほどだから父親が興味をもってもおかしくなく思える。それでも、新一が知る限り怪盗に関わったことはなく、話題にすらしたことはなかった。
今さらどうしてなのかと思ってしまう。
「ところで、快斗くんとはうまくやっているのかな?」
考え込んでいたところに、出歯亀的な発言をされてちょっとばかりムッとくる。
「関係ないだろ」
「あるに決まっているだろう。だって、パパからのプレゼントだからねぇ」
非常に楽しそうな表情は、10日前のことを思い出しているせい。一緒に暮らすのを嫌がった新一が、うまくやっているなんて言えた口ではないから。
「快斗をモノ扱いすんじゃねぇよ」
「おやおや。人見知りの激しい新一くんが、余程快斗くんを気に入ったと見える」
良いことだ良いことだ、と繰り返す優作をギッと睨みつける。
「ここは現場なんだからな。不謹慎な話はするな」
「話をそらそうったて駄目だよ。なるほどねぇ、快斗くんは昔っから新一くんを大切にしていたから心配はしてなかったけど。予想以上に仲良くやっているようでパパは嬉しい」
「ふざけんなよ。何を根拠にそんなこと…っ」
図星を指され、ついでに照れくささも手伝って、新一は頬を真っ赤に染める。それに対し優作は、おやっと目を見開いた。
「ほぉぉ。そうかそうか、新一くんは快斗くんのことが大好きなのだね。それで?キスくらいはしたのかな?」
「いいかげんにしろ!さっさと帰れ!」
人のことを遊び道具にしか思っていない父親に、とうとうキレる。だが、おかまいなしに優作は肩をすくめてみせた。
「帰れだなんて。もうそろそろ彼のお出ましだというのに」
「ただの野次馬だろ!」
「ふーん?彼に会うのに、パパは邪魔かい」
「え…」
言われた言葉の思いがけなさに、唖然とする。何気なく言われた他意のないことで、揶揄されただけなのに。新一は感情を高ぶらせた状態から、一気に我に返った。
そのとき。
背後に突然、ひんやりとした気配が生まれる。
誘われるように振り返った先には、月の光が形をとったと思わせるひとがいた。
「おや、これは」
待っていたのが新一だけでなかったことに、怪盗はさして驚くこともせず二人に向かって一礼する。
「今晩は、名探偵。それから、名探偵のご父君」
「私のことをわかってもらえるとは光栄だね」
「当然でしょう。私に名前を下さった方ですから」
世界的に有名な小説家だからではなく、そう言い放つ。
"1412"を文字ってKIDと名づけた若手小説家――それが優作だったとは新一も初耳で、浅からぬ因縁を秘めている二人をまじまじと見やった。
「君がそのことを知っていたとは」
「どういうことでしょう?あなたに名前をいただいたからこそ、私は"KID"と名乗っているのですよ」
「そうかい?かれこれ十数年経つが、それにしては君は…」
「昔話をするほど年をとってはいませんよ。それより、私の用を優先させていただきたいのですが、よろしいですか?」
優作の言葉を遮ると、KIDは懐に手をいれて今夜の獲物を取り出す。了承を求めはしても形だけで、自分以外を簡単に空間から切り離した。
祈るように月へと石を翳す。
それはいつ見ても、新一の心に切なく響いてくる行為。
月光を受けて輝くモノクルのせいで、怪盗の顔をうかがうことはできない。ただ黙って、怪盗が自分のいる世界へ戻ってくるのを待つだけ。
「お待たせしました。どうぞ」
手の中の石を、新一へと差し出してくる。それは怪盗の探しものではなかったということ。
優作ではなく自分へと向けられた怪盗の手に、どうしてか新一はほっとした。
動かずにいると風の揺らめきとともに近づいてきて、そっと手をとり石を渡す。
「KID…この前言ったけど…」
影に覆われている怪盗を見据えて、先日と同じことを告げようとした。しかし、怪盗は一歩下がるとふわりと鉄柵の上へと移動する。
「どうやら時間切れです」
「あ…」
耳を澄ますと、パトカーのサイレンの音が大挙して押し寄せてきている。上空にも接近しているものの振動が響いていて、邂逅の終わりを知らせた。
「残念だね。色々と話てみたいことがあったのだが」
「貴方と私とでは、話が合わないと思いますよ」
新一へと向けて行った視線を優作に向けて、KIDは静かに言った。
「では、新一とは合うのかな?」
揚げ足とりのようだが、声とは違い瞳に面白気な色はない。真っ直ぐに見つめる眼差しは力強くて、受け取るKIDもかつて見せたことのない鋭さがある。
二人に漂う雰囲気はさっきまでとはガラリと変わって、新一は驚くのと同時にひどく戸惑う。
「―――いいえ」
そう返すと、怪盗は夜空へと舞った。
「いやぁ、実に鮮やかだ。あっという間に彼方だねぇ」
鉄柵から身を乗り出して、白い軌跡を追っていた優作は感心する。
だが新一は、最後に残された言葉が心に突き刺さってしまって、どうにも朗らかな気分になんてなれない。
楽しそうに向き直ってくる優作を一瞥して、さっさと踵を返した。
「新一くん?どうしたのかな?」
「帰る」
「じゃあパパも帰ろう」
強いて早足で階段を下りようと、ゆったりとした動作ながらも歩幅のある優作を引き離すことなどできなくて。どうしてか苛立ちだけが募る。
階下へと行くに従い、サイレンの音は大音響になる。踊り場についている申し訳程度の非常灯の明かりが、いつしか真っ赤な反射光へと摩り替わった。
出口にいくとすぐ傍にパトカーの一団が停車していて、刑事たちが地図を広げてなにやら怒鳴りあっている。怪盗を追ってきたはいいが、飛び立った姿を目撃できなかったようだ。
「もう1時過ぎというのに、ご苦労だね。あ、もしかして私たちもまだ帰れないんじゃないのかな」
一応、怪盗と会って今夜の獲物を返却されたのだから。
そんな優作に、新一はくるりと振り返ると手の中のものを放り投げた。放物線を描いて、きれいに目的地へと到達する。
「え?新一くん、これ…」
「父さんから返しといてくれ。事情聴取も一人いれば十分だろ」
じゃあ、と後ろ手を上げて米花町の方角へ足を向けた息子に、優作は少しばかり焦る。
「ちょっと待ちなさい。歩いて帰るんじゃないだろうね」
「タクシーなんてここらへんはこねぇよ」
「パトカーで送ってもらえばいいじゃないか」
それなりの貢献をしているのだから当然の権利とばかりに、パトカーを指差す。対して新一はあっさりと首を振る。
「待つの面倒だから。じゃあな」
「新一くん、危ないから待ちな……」
肩に手を伸ばして押しとどめようとしたとき、パトカー以外にいなかった通りに黒のセダンが現れた。そして、新一の前にピタリととまる。
スポーツタイプの車体は、自宅のガレージにあるものと同じ。
運転席が開いて降りてきた人物に、新一は瞠目した。
「快斗…」
「新一、迎えにきたよ」
眩いばかりの白が目に焼きついたあとだからか、黒のレザーの上下を着ている快斗の形は何故かほっとするものがある。
気持ちと同様にかくっと肩から力が抜けて、体が強張っていたのがわかった。そして緩んでいく精神に、緊張していたことも。
「どうして…ここに?」
「言ってたじゃないか。中継点はきっとここだって」
「あ、そ…か」
助手席へと回ってきて、快斗はドアをあけた。暖房で暖められた空気に包まれ、そして促すように背中にまわされた手に、心底安堵する。
「ほら、早く乗って。寒かっただろ」
「ううん…快斗のおかげでそんなには…」
「それはよかった」
にっこりと微笑んだところに、背後から声がかかる。
「甘やかされているねぇ、新一くん」
楽しそうな口調に揶揄されて、新一はぷいっと顔をそむけた。
「いいなぁ、ついでに私もホテルまで送ってもらおうかな」
「事情聴取逃げんなよ。快斗、さっさと帰ろう」
「はいはい」
シートベルトをして準備OKな新一に急かされ、快斗はドアを閉め運転席側へと戻る。
「気をつけて帰ってください」
「パトカーに送ってもらうよ」
「そうですか、じゃあ」
ドアを開けて乗り込もうとした快斗に、優作は思い出したかのように言った。
「そうそう、快斗くん。君と色々話したいことがあるんだけどね」
和やかに言葉を綴りながらも、眼差しは見事に裏切っていて。
「今、忙しいですから。暇になったら伺いますよ」
同じ色の瞳で、快斗は応えた。
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02.11.28
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