morning after 






スムーズに車線内に車が止まる。
ドアを開けて外に降り立った新一は、日差しの強さに眉を寄せた。

「今日も気温があがるんだろうな…」
「そりゃ、真夏だからな」

運転席から降りてロックしている快斗の言葉に、もっと嫌な顔をする。
でも、昨年までとは違って、今年の夏は比較的楽に過ごせるはずだ。
くすっと笑って、車のボディをポンと叩く。

「持つべきものは車持ちの彼氏だ、なんて思ってんだろ」

見透かしたように告げた快斗に、新一は俄かに赤くなる。
実にその通りで、"足"があることはとてもありがたい。大学まで満員電車に乗る必要もなく、炎天下を歩かずにすむのだ。
もちろんマイカー通学するためには構内の駐車場を獲得しなければけなかったが、どれだけ高い倍率でも運の強い快斗がゲットできないはずがなかった。
けれど、新一の頬が仄かに染まったのは図星をさされたからではない。

「か、彼氏なんて言うな!誰かに聞かれたらどうするんだ」
「聞かれなくたって、わかる人にはわかると思うけど」
「オマエまさか、思わせぶりなこと口にしてるんじゃないだろうな?!」

ぎょっとして新一は快斗の胸元のシャツを掴む。
乱暴な行為ではなかったが、快斗は大げさに倒れ込んで車体と自分の体とで新一を封じ込めた。

「か、快斗!!のけっ!!」
「やだな、新一が抱き寄せたんじゃん」

首筋に顔をうめて耳元で囁かれる。背筋にぞくぞくとしたものが走り、新一はさらに顔を紅潮させた。

「ほら、そういうのが一番バレるもとなんだよ。いかにも昨夜、ナニしましたって反応は」

あからさまな反応をしてしまっただけにぐうの音もでない。
だけど、どんな時でも感覚を呼び起こすきっかけを与えるのは快斗の方だ。一方的に自分が原因だと示されて、新一はムカッとくる。

「大丈夫だって。それだけじゃないから」
「だけ、じゃないって?!」

恋人の心なんてお見通しな快斗が安心させるように言うが、新一にしては爆弾を落とされたようなもの。
力の入らない手で胸を押すと、あっさりと離れた快斗を睨みつける。

「そんな怖い目で見るなよ。オレは新一との約束はどんなことだって守る。知ってるだろう」
「まあ…それは…」

真っ直ぐに見つめられて、つい視線を外してしまう。快斗に無理を言ったのは新一のほうだったから。



『恋人だなんて言いふらすなよ!一緒に住んでるのも内緒だからな!誰にも言うなよ、絶対に!!』

快斗と恋人同士であることが恥ずかしいわけではない。バレた時に茶化されるであろうことが恥ずかしいのだ。
遠慮と言うものをしらない服部や白馬、幼馴染たちにどれだけ冷やかされるか。それに、高木や白鳥に佐藤の刑事連中なんて好奇心と年上だという強みで、どんな破廉恥な質問をするかわかったものじゃない。
対人関係が苦手なこともあって、そんなことになれば顔を真っ赤にして何を言っていいかわからずに言葉に詰まる自分の姿を容易に想像できて。新一は、避けれる危険はできるだけ避けたかったのだ。
四十六時中、快斗が一緒にいて、全ての対処をしてくれるならともかく。

(………やっぱり、そういうコトをしているってのが一番恥ずかしいんだよな……)

昨夜の余韻をまだまだ引きずっているせいもあり、頬が火照ってくる。
自分でもその手のことには淡白で一切興味はないと断言さえできていたのに。快斗と夜を過ごして以来、新一はとんでもないことに気づいてしまった。
快斗を求める心は果てることなく、恐ろしいほどの執着がある。それが嫌ではないし、むしろどれだけ快斗を愛しているか誇れることだと思っている。
でもだからと言って、他人に話題を提供するのも興味を満たしてやるのも真っ平。快斗との間にあること全てを根掘り葉掘り聞かれるなんてたまったものではない。



快斗に理不尽な約束を強いた負い目なんてさっさと忘れて、新一は今一度しっかりと言い含めておくことにする。

「快斗が約束を守ることはわかってる。でも、言わなくたって態度で示すようなことをしたら同じじゃないか」
「でも、これは不可抗力というか、当然至極な結果というか。もちろんオレじゃなくて、新一くんの方だけど」
「…どういうことだよ?」

とても人の悪い笑みを見せる快斗に、嫌な予感がする。聞かなければ良かったと後悔が先に立ってくる。

「愛しあった翌日って、新一はとりわけキレイだよ。艶っぽさも格別で、香立つほどの色気もあって。ま、このオレが丹精込めて愛したんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど」
「な、なに言ってるんだ!!」
「その上、とっても甘いんだよなぁ。オレを見つめる瞳、話し掛ける声。こうしてふたりの間に流れる空気とか。もちろん実際に甘い匂いもしてるんだけどね」

真っ赤になった新一の頬に、快斗は鼻先を摺り寄せてくる。だが、新一も反論を試みる。これ以上、自分ばかりのせいにされてはたまらない。

「オレだけじゃないだろ!快斗だって甘い匂いがしてる!」
「そりゃそうさ。移り香だもん」
「へ?」
「だから、新一の匂いをまとってんの。新一は朝起きたらシャワー浴びたけど、オレはそのままだから」

一瞬、頭の中は真っ白になる。
昨夜の名残をそのままにして大学に来るなんて、まともな神経とはとても思えない。こんな平然としたカオでいることすら信じられない。

「冗談じゃない!今度からちゃんとシャワーを浴びろよ!!」
「ヤダよ。新一くんが一緒に浴びるっていうなら考えないでもないけどね」
「う…」

一緒にバスルームになんか入ればどんな目にあうか。
今までの経験上、墓穴堀になるようなことに諾と言えるはずがない。
それなら、こちらから条件を提示すればいいと切り替える。

「……今日一日、オレに近付くな。これから、シャワーを浴びなかった時もだ」
「ふ〜ん。そういうこと言うか」

面白くなさそうに呟く快斗に、自分の要望が通ったと新一は確信するが。

「『あれ?黒羽くん、コロンつけてんの?』『うん、新一をつけてるんだ』『ええ〜?工藤くんを?!どういうこと?』『それはね、一緒に夜を過ごしたからだよ〜』ってな会話をしてもいいのかな?見張ってないとこういう可能性大だぜ。恋人だとか同棲してるとか言ってるんじゃないから、約束破りにはならないし」
「脅迫するのか?!」

女声を使ってまでの一人芝居に唖然とするが、快斗に悪びれた様子は欠片もない。

「ふざけんなよ!オマエが匂いをつけてんのに気づくヤツなんているもんか!」
「じゃあ、どうして事件以外では鈍い新一くんが気づいたわけ?」
「そ、それは…!」

快斗は裏の仕事のせいがあって、普段は体臭すらさせない。だから、こんなに甘い匂いをしていれば、新一でなくても気づくのは当たり前かもしれない。そこで言い方を変えることにする。

「オマエにそんなこと誰が聞くって言うんだ…!」
「新一が側にいれば近寄ってきはしないけどね。自分より断然美人と張り合おうなんてヤツはいないから」

逆に新一がいなければ言い寄る者は数知れないと暗に示したことが、自惚れでないぐらい知っている。
ハンサムで陽気で明るい性格、人付き合いだって上手とくればもてないはずがない。実際昨日、少しばかり席を外して戻ってくると、快斗と親しげに話している者がいた。
ふと思い出したことに、新一は胸がむかむかしてしまう。

「女は敏感だからさ、匂いと情事とをすぐに結びつける。性質の悪いのになると、さも自分がつけたような顔をしてべったり引っ付いてまわるぜ。それとも新一は、自分のカモフラージュができて丁度いいなんて思ったりする?」
「もういい!勝手にしろ!」

新一は苛立った声で言い放ち、校舎へと向かう。
ずんずん歩いていく後ろで、くすくす笑っているのが癪にさわる。心を読まれていると思うと余計だ。
どうせ快斗はわかっている。
快斗にではなくて、彼にまとわりつく輩に対して新一が腹を立てていることを。嫉妬心を煽られて、勝手にしろと言いつつ自ら前言を撤回したことを。

「ほら、新一くん。機嫌なおしてよ、いいものあげるからさ」
「ガキみたいにものでつるな!」

追いついた快斗が差し出すものから、顔をそむける。
だが、快斗はぐいと新一の腕をつかんで自分と向き合わせた。

「なにすんだよ!」
「こんなとこで大声だしたら、いかにも痴話ケンカしてるって言ってるようなもんだけど」
「え…」

さっきまで人気のなかった駐車場とは違って、そこら中に人はいる。しかも、ちらちらとこちらを伺い見る者達も少なくない。
注目を集めてしまったのは自分の不注意だと、新一はバツが悪くなる。

「はい、これ。受け取んないならここでキスするよ」
「よこせ」

目の前のカードをひったくる。
ふざけた口調でも快斗はやるといえば必ずやるのだ。身に染みて知っている新一は脅しに屈する方がマシだった。

(冗談じゃない。こんなとこでキスなんて…!)

乱暴に二つ折りのカードを開いて、そこに書かれてあるものに目を瞠る。

「予告状…いつ出したんだ?」
「昨夜」
「昨夜?ならどうして昨日くれなかったんだ」
「お楽しみの前に渡すほどバカじゃないからね。その後は、新一くん、ぐっすり眠ってしまったし」

言い返せない言い訳をされ、新一はさっさと暗号に意識を切り替える。
何はともあれ、快斗の暗号ほど新一を満足させてくれるものはないから、自然と顔も綻んでしまう。


(あ〜かわいいなぁ〜)

瞳を輝かせながら暗号に取り組む新一の横顔は、他人に見せるのは非常にもったいない。とっととこの場を後にするに限る。

「新一、講義室に行くよ」
「………」

返事なんて期待していない快斗は、これ見よがしに新一の肩を抱いて歩き出す。

(いつになったら気づくのやら)

悪戯を成功させた子供のような顔で、新一を見つめる。
予告状はふたりきりのときには決して渡さない。
どうしても外せない用事で快斗が出かけるときか、学校がある朝と限定している。断然、後者の方を快斗は好んでやっているのは、こうして人前でべたべたできるからだ。

(しかも、事件が入っても行かないしなぁ)

暗号が解けるまでは、別のことに推理力を使おうとはしない。お呼びがかかっても、スペアが控えているから自分でなくてもいいと事件に対して消極的にすらなる。
何よりそれが快斗には嬉しい。
放課後には大抵解けているから、家に帰ればちゃんと相手もしてくれる。答え合わせが終わると、機嫌のよさも最高潮に達して、快斗の大好きな時間がやってくるのだ。

(さあ、今夜も頑張っちゃうぞ。二晩続けてだから、晩ご飯はスタミナのつくものにしよう)

メニューを色々思い浮かべながら、快斗は視線の主たちへのサービスとばかりに新一のやわらかな黒髪に口付けた。






end
02.08.03



   ■story


"morning after "= 二日酔い。
相変わらずの意味のこじつけタイトルです〜(^^;)。
誰が誰に酔ってるかってことで、なんとなく意味は通って
いると思っているのですが。どうでしょう(笑)?






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