「もう十時過ぎか。まぁ寝たのが遅かったから仕方ないな」
時間を確認すると、取り合えず起きるべく自分の上に乗っている恋人ごと快斗はベッドから出た。 その荒業に頭を抱えて唸っていた新一は、否が応でも現実に立ち向かわされる羽目になる。
「オイ、オレはどうすればいいんだよ」 「どうすればって、いつも通りでいいんじゃないか?」 「いつもと全然ちがってるってのに、どうやっていつも通りにやれるって言うんだよっ!」
新一にとって今までとは体質が180度違っているというのに、この恋人の悠然とした態度にはついキレてしまう。 ポーカーフェイスが上手な相手だから、必死で取り繕っている結果だとすればまだ可愛気があるというものだが。実際、非現実的な才能をもっていて、非現実的ななかで生きてきただけあって容易なことでは揺らがないとわかっているだけに、余計に腹立たしさが増してしまう。
「何言ってんの。生活していく上では、女の子だろうとそうでなかろうと同じことだろ」 「そりゃそうだけど…」
案の定、平然としたまま当然のことを言い返されて逆に言葉を詰まらせるのは新一の方。 そして。
「オレにとって今目の前にいるのが"新一"なんだから。姿なんて何のイミもないよ。小さかろうが女の子だろうが、オレの愛する新一に何の変わりもない」 「かいと…」
さっきまで顔色をなくしていたのがウソのように、新一の白い頬は真っ赤に染まる。 (くそ…っなんでこんなに恥ずかしいことをすらすら言えんだよ…っ) 真っ直ぐなまでの気持ちをもらって簡単に絆されてしまうのも、いつも新一の方である。
「さて、哀ちゃんもそろそろ起きる頃か。ブランチにしてもそろそろ用意しないといけないな」 「ブランチ?」 「そ。寝たのが遅かったせいで朝食の時間には起きれないだろうからって。それにどうせ今夜はご馳走だから」
そういえば昨夜そんなことも言っていたなぁと思い出していると、着替え一式を渡される。
「あ?」 「取り合えず、フロに入っておいで。昨日はそのままで寝たからね」 「げ、ホントだ」
自分のナリをよく見てみると、事件帰りのままの白いシャツと紺色のパンツ姿。快斗にしても、仕事帰りのままの青いシャツと白いスラックス姿だ。 ともにしわくちゃになっていて、見るも無残な様相である。
「そっか、そうだったよな」 「思い出した?」
あんまりしみじみと思い出したくはないが。原因がわかって元に戻れる術がないと突きつけられて、ショックのあまり呆然とした新一は宥める快斗に抱きしめられたまま寝入ってしまったのだ。 縋りつくように眠ってしまったために、着替えをすることもさせることもできずに快斗も寝たのだろう。
「じゃ、フロに入ってくる」
こんな日常茶飯事的なことで一々落ち込んでこんでもいられないと、新一はさっさと風呂に行くことにした。
スリッパをはかずに素足でぺたぺたという音も立てながら、階下にあるいつもつかっている風呂へと直行。 渡された着替えを棚において、入る準備をすべくシャツに手をかけてハタとする。
「…………」
腕にあたっているのはやわらかな感触。視線を落した先には丸みをおびた物体。
「な…なにが"同じこと"なんだよ…オ、オレにコレをどうしろって…?」
またも目の前に突きつけられた現実に、ひくりと新一の顔は引き攣った。
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