「あー、なるほど」
間延びした返事に、どこかのんびりとした感じ。 こちらの懸命さが伝わらない様子に、むかむかっときた心のままに新一は容赦なく快斗の前髪を引っ張った。
「新一、痛いよ」 「…どこがだよ」
痛いと言いつつ、快斗は新一が殴ろうが蹴ろうがいつだって好き放題で。今だって、止めさせるでもなく苦笑しているだけだ。
「オマエな!オレとの間に距離があるっていうのになんでそんなに笑ってられるんだよっ」 「あー、いやそうじゃなくってね。どうやって新一に現実を教えればいいのか、ちょっと悩んでいただけで」 「は?ソレのどこが悩んで……って、現実ってなんだ?」
またワケのわからないこと言っていると思った新一だったが、意味不明な単語に首をかしげるとジッと快斗を見返した。 それを受け止めた快斗は、苦笑をさらに深くして新一を抱えたまま半身を起こした。
「わわ!いきなりなにすんだ!」 「ゴメン」
自分を上に載せたまま腹筋の力だけで起き上がるなんて、筋肉にものを言わせた行動は新一にとって気分のいいものではない。 反射的に抱きついてしまった両腕を腹立たしく思いながら、八つ当たりに快斗の胸をなぐろうとした。が。
「…あ?」
拍子にぷるんと弾んだモノに、ぴたりと動きが止まる。 その感覚に、何処かに沈んでしまっていた記憶がよみがえってくる予感。。 暑くもないのにじわじわと額に滲んでくる汗。断片的に頭の中に浮かんでくる昨夜の出来事。 ぶんぶんと首を振って、現実であることを拒否しようとするけれど。ついでに振動で揺れてしまうソレに、顔からは血の気が引いていくだけ。
「ウ…ウソ、だよ…な?」 「夢だと言ってあげられれば良かったんだけど」 「言えよ!遠慮なく言えばいいじゃないかっ!」
認めたくなくてそこら中を泳いでいた蒼の瞳が、必死になって見据えてくる。普段ではありえない恋人のかわいさにクラクラっときながらも、快斗はそのやわらかなふくらみに手を伸ばした。
「うひゃっ!」 「ほら、これが現実。今までになかったモノのせいで、オレたちの間にちょっとばかり距離ができてしまったんだよ」
止めとばかりに言い放たれて、新一はがくりと頭をたれた。
|