二人で肩を並べて歩くと、必ず周囲の目が集まってくる。 快斗は紅子を横目に見て、仕方ないと思った。 透き通る白い肌、潤いに満ちた黒い髪、女性として完璧なプロポーション。 何よりも印象的なのはどこまでも見通すかのような闇色の瞳と、微笑みかければ心穏やかでないられなくなる朱の唇。 どこをとっても文句のつけようのない美貌は同性からも憧れを寄せられる程だが、彼女独特の妖しい雰囲気は容易に他人を寄せ付けるものではない。 だから、いつも遠巻きに見ている者に囲まれて咲き誇っている艶やかな高嶺の花だった。
「何かしら?」 「いや…」
見ていたのに気付いた紅子が、頭一つ分高い快斗を仰いでくる。 確かに彼女は美しい。 けれど、今まで快斗がその美しさを賛美した覚えはついぞないし、顔の美醜など皮一枚の違いでしかないから造形に拘るのは愚かなことでしかない。
「黒羽くん?あなたどこか変よ。一体どうしたの?」 「悪い」
心配そうに声をかけてくる紅子に、またも考えこんでいた自分に反省しながら謝罪をする。 しかし、それで誤魔化されるはずもなく快斗に言葉を重ねてきた。
「昨日も学校をさぼって公園でぼんやりとしているんですもの。その調子だと青子さんも気付くわよ」 「ああ…気をつける」
幼馴染の名前を出されれば、快斗とていつまでも自分の中に篭ってばかりもいられない。それをわかって紅子は言っているのだろう。 けれど、夢見の悪さに今朝も叩き起こされて、何とも言い知れないもやもやとしたものが心の中を支配している状態では形ばかりの返事しか返すに至らない。
『一体いつから付き合っているの?』
不思議そうに尋ねた母。 それに答えられなかったことに、快斗は今更な疑問を抱いてしまった。 どうして自分は彼女と付き合っているのだろう、と。
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