拳を強く握り、やり過ごそうとするけれど。 時間が経てばどうにかなると思っていた異変は、治まるどころかひどくなるばかり。 「…くそ…っ…」 思わず悪態をついてしまう状態は、今まで経験したことがないせいだ。 額に滲む汗も、ずきずきと痛む頭も。心の奥底から沸き起こってくる、自分のものではないような未知の感覚も。 快斗自身どうしていいかまるでわからなくて、それが余計に混乱を来たす。 「どうして…」 こんな状態に陥いっているのか。 原因となったことは明確だが、自分に対してそれがどういう意味を持っているのかが理解できない。 「…あの、蒼…一体…」 あの瞬間、あのテレビに流れた映像。 視界に飛び込んできた"蒼"が強烈だったせいで、思い出せない。 街頭ニュースだから、公共性のある話題だったはず。 「……痛っ…!」 傾いでいた頭を上げようとして、頭に鋭い痛みが走った。 一定の間隔で繰り返し流しているから、見ていればもう一度同じニュースを目にする可能性はあるのに。 痛みに邪魔をされて快斗はどうしても視線をあげることができない。それどころか、ここにいることさえ辛くなってどうしようもなくなる。 訳のわからない恐怖は、かつて感じたことのなかった不安を呼び覚ます。 体を預けていたガードレールから離れると、快斗の足はひとりでに動き出した。 視線の先には、先ほど紅子が入っていった店がある。 (彼女に…会いたい…!) 自分のことなのに、快斗には理解できないことばかり。 それでも、心は素直に紅子を求めているのはわかる。 「…紅子」 入り口から姿を認めて囁くように呼ぶと。艶やかな黒髪がふわりと舞って、驚いた表情を見せた。 「どうしたの?」 音もなく駆け寄ってきて快斗の手をそっととる。 先日と同じで、重なりあった指先からは冷ややかな気配が伝わってくる。 (……あぁ…) みるみるうちに払拭されていく恐怖と不安。 穴があいた心を埋めるように、乾いた心が潤うように。ただ満ちていく心を感じる。 快斗は只管に安心した。 まるで紅子は快斗の心の半分か、そのもののような感覚さえしてきて。 なぜ彼女と付き合っているのか、わかったような気がした。
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