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blue memo
月の眠り <3-2>
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「黒羽くん」 「…あ」 何時の間にか立ち止まって前に回りこんでこちらを見ている紅子に、名前を呼ばれ我に返る。 注意されたばかりなのにこの有様では、さすがに罰の悪さを感じる。謝罪をしようにも先ほどしたばかりだから、真実味もないだろう。 当惑して返す言葉を探していると、気にした風でもなく紅子が口を開いた。 「青子さんに頼まれたものがあるの。ちょっとそこのお店に行ってくるからここで待っていてもらえるかしら?」 「ああ、わかった」 「そんなに時間はかからないわ」 言い置くと踵を返して、指し示した店へと入っていく。それを見送って、快斗はガードレールに寄りかかりながら改めて周囲を見回す。 洒落た店が連なるショッピング街の一角は、紅子と別れる交差ロから少し先にあるところだ。 きっと、ここに寄ることを歩きながら話題にしていたはずだ。だが、快斗は聞いてもいなかったし、いつもと違うところを通っているのさえ気付かなかった。 (まったく…どうしたっていうんだ…) 夢のこととか、母の言葉とか。そういう釈然としないものに惑わされているのは確かだけれど。 (なんだろう…これは…) 心を支配しているもやもやは、ジレンマにも似た焦りのような感覚だ。重く沈んだ澱は、本当ならきちんと昇華できていたはずのもの。 「ハァ…」 軽く頭を振りながら、重苦しい気持ちを追い払うように息を吐く。 昨日から繰り返している失態は、父の背中を見て育ってきた快斗にとっては実に情けないことだ。 気分転換とばかりに、辺りを見回す。 梅雨時の空は今にも雨が降り出しそうな暗い空。それと裏腹な鮮やかなカラーのショウウィンドウやポップな看板。そして、道行く人たちの夏らしい涼やかな身なり。 (―――あ、) 何気なくさ迷わせていたはずの視線は、必ず色彩に合わさっている。無意識の行動に、快斗は昨日のことを思い出す。 紅子が声をかけるまで、ずっと空の青を見ていた自分を。 「探しているのか…?」 (…あの蒼を…?) どうしてかは分からないけれど、それほど夢の名残が強烈だということだろう。そうとしか説明がつかない。 快斗の記憶には、夢以外で見た覚えはないのだから。こんなにも乞う理由なんて心当たりがない。 (そもそも、どうしてあんな夢――) 堂々巡りのように最初に戻ってしまう疑問に再び突き当たって。それでも、視線はそこらをさ迷っていて。 「―――っ?!」 ふと目に留まったのは、ビルに掲げてある大きなテレビの街頭ニュース。何の映像か認識する前に、快斗の意識に唐突に切り込んできたもの。 (眩しい…ッ) 目が眩んで、ぐらりと傾ぐ体。 咄嗟にガードレールに手をついてやり過ごすが、小刻みに震える指先に愕然としてしまう。 (な、んで…?!) 自分のカラダの只ならぬ変化。そして、忙しく動いている鼓動の様相に、今全身を駆け抜けたものが何であるのかを快斗は知った。 「…恐怖、なんて…」 どうしてそんなものを感じなければいけないのか。 心にあいた穴を埋めるように、そんな風に求めているはずだったのに。 探していた"蒼"を、快斗はまともに見ることさえできなかった。
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2005/07/03 (日)
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