授業中、窓の外を眺めていた新一は視界を何か横切ったような気がして瞳を凝らした。
すると、また上から下へと向かって動くものを見つめて
(あっ・・・本当に降ってきた)
内心ため息を落とした。
(ついてないよな〜傘、持ってきてねーし。やっぱり快斗の言うこと聞いときゃ
よかったな)
と、出掛けに傘を持って言ったほうがいいと散々騒いでいた快斗の顔を思い出した。
「今日は雨が降る。新一、濡れたら大変だから傘、持って行ってよ」
そう言って傘を手渡そうとした恋人であり、同棲している快斗に
「大丈夫だって、それにもし降らなかったらオレ傘忘れて来そうだし・・・」
そう言って結局、傘を持たずに家を出たのだが
雲の加減を見ればすぐあがることがない雨なことくらいは新一にもわかる。
学校から走って帰ったとしても、この雨だと濡れてしまうだろう。
(濡れて帰ったら快斗に怒られるな・・・でも、仕方ないよな)
そんな風に思いながら、新一は午後の授業を受けていた。
放課後、やはり止まない雨に昇降口の辺りで新一は考えていた。
そんな新一に
「なぁ、工藤。傘、持ってないのか?もしよかったら入ってくか?」
と、クラスメートの1人が声をかけてきた。するとその横から
「おまえは方向が逆だろ?工藤の家なら通り道だからオレが入れて行ってやるよ」
また別の友達が新一に話しかけてくる。
お前だけずるいぞ!などと2人で言い合いをしている様子を見て新一は苦笑いを
浮かべた。
自分はどちらの傘にも入れてもらうつもりなどはじめからないのに
自分の意見はまったく無視して言い争いだけが2人の間で大きくなっていた。
そろそろうるさくなってきて、新一がその言い争いを止めようとしたとき
自分に向かって真っ直ぐに歩いてくる、綺麗な青の傘を持った人物が瞳に留まる。
傘で顔は見えないものの、その雰囲気で新一にはそれが誰だかわかった。
そして、新一の前でピタリと足を止め、屋根がついているそこで傘を閉じると
「新一、迎えに来たよ。言ったろ?朝、今日は雨が降るって」
そう言って快斗は新一に向かって微笑みかけた。
「うん」
新一はただ返事をすることしかできない。
「早く帰ろう?」
そう言って手を差し伸べた快斗の手はさすがにそこで取ることはできず
恥ずかしそうに俯いた。快斗としては新一を巡ってバトルを繰り広げていたヤツ
らに自分たちのラブラブぶりを見せつけようと思っていたのだが
新一に恥ずかしそうな顔をされてしまっては無理にその手を掴むことはできなか
った。
快斗はその場から少し足を踏み出して、傘を開くと
「ほらっ、新一」
と、新一を手招きした。その手に誘われるように新一も足を踏み出すと
「じゃあな」
自分を送ってくれると言っていた2人に声をかけ
快斗の差している傘の中にその身を滑り込ませた。
そんな2人をただ呆然と見送った新一の友人は、
そのまま無言で1人寂しくお互いの家路に着いたのだった。
「ごめんな、わざわざ来てもらって」
自分が朝、傘を持っていかなかったばっかりに
快斗に迎えに来てもらうようになってしまったことに新一は申し訳なさそうに謝
った。
「そうだよ?だから言ったのに・・・・・・・って気にしてないから大丈夫だよ」
と、快斗は新一に気にしないように伝える。
「ほんとか?」
「うん」
快斗から返された微笑みに新一はほっと息をついた。
2人で1本の傘に入ると言うことはそれだけお互いの存在を近く感じる。
新一も快斗もその傘に守られているような空間が愛しく感じていた。
「happy spaceだね」
快斗が突然そんなことを言い出した。
「happy space?」
「そっ、新一の隣にいるととっても幸せな気分になれるから」
「だからhappy space?」
「んっ。よかった、この場所にいることができるのがオレで」
心からうれしそうに微笑んだ快斗に
「何言ってんだ。それだったらオレもそうだよ」
照れたように頬を染めながらも新一は自分も同じだと伝える。
「そっか〜。よかったvじゃあオレたち2人は2人一緒にいるからこそハッピー
なんだね」
「そうだな」
そう言って顔を見合わせて笑った2人。そこでふと思い出したように
「でも新一、さっきオレが迎えに行かなかったらどうするつもりだったの?」
快斗は気になっていたことを聞いてみた。
もし自分が行かなかったら、新一を送っていくと言い争っていたあの友達に
送ってもらうつもりだったのだろうかと。
すると新一は快斗を軽く睨んだ。その視線にきょとんとした快斗に
「ばーろっ。オレがおまえ以外のヤツの傘に入れてもらうわけないだろ?」
と、拗ねたように新一は答えた。
「じゃあ・・・」
「走って帰るつもりだったんだよ」
きっぱりとそう言い切った新一に、快斗はうれしそうに微笑むと
「間に合ってよかった。新一が濡れるなんてイヤだったから」
安心したように言った。
「ありがとな。快斗」
感謝の気持ちがいっぱい込められたその言葉に快斗は頷く。
「よしっ!帰ったらうまいコーヒー淹れてやるよ」
新一は突然思い立ったようにそう宣言した。
「じゃあ、昨日オレが焼いたクッキーでお茶にしよう」
「そうだな」
そう言って微笑んだ新一を見て、快斗も自然と微笑みを浮かべた。
そうしているうちに家に着いた2人は
今度はリビングをhappy spaceに変えるべくお茶の準備をはじめた。
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