「う〜ん」
新一はソファに座って俯き加減に視線を落としうなっていた。
「どうしたの?新一」
気になった快斗は新一の隣に腰をおろし、その顔を覗きこむ。
「ん〜」
快斗に呼びかけられても新一はまだうなっているばかり。
「う〜ん」
本当にどうしてしまったのかと、快斗までうなってしまった。すると
「・・・・・・・・おい。何でおまえまでうなってるんだ?」
新一が視線を上げて快斗を見ながら聞いた。
「だってさ。新一が何か考えて悩んでるのを見たらオレだって悩んじゃうよ」
「だから、何で?」
不思議そうに問いかけてきた新一に快斗はにっこり微笑むと
「新一の悩みはオレも一緒に悩みたいからだよ」
あたり前だと言わんばかりにそう言い切った。
そんな快斗に新一は呆れたような視線を向ける。
「おまえさ。オレがすっごくくだらないことで悩んでたとしたらそれでも一緒に悩むわけ?」
「うん!」
即答されたその返事に、新一は苦笑いを浮かべた。
「何?何がおかしいの?」
突然、笑い始めた新一に驚く快斗。
そんな快斗の膝の上に頭を乗せ、下から快斗の顔を見上げる。
「ち、ちょっ・・・ど、ど、どうしたの?」
いつもは自分が無理やりそうしている体勢を新一が自らしていることで
快斗の思考はすっかりパニック状態に陥っていた。
慌てる快斗を見て、新一は声を上げて笑い出す。
「おまえって、おもしろいよな」
「オレ、おもしろい?」
「ああ。でも・・・・・」
「でも?」
「なんだかそばにいるとホッとする」
「・・・・・・・新一」
新一は何に対して悩んでいたのかは言おうとしないけれど
自分の存在で、新一が自分のそばにいて少しでも安らぎを感じていてくれるならこんなに嬉しいことはない。
「なぁ、今夜は何かあったかいものが食べたい」
そんな風に夕食をリクエストしてくる新一に、その髪を梳くように指を通しながら
「あったかいもの?そうだなぁ〜。じゃあ、快斗くん食べる?」
そう言って口の端を上げ、ニッと笑った。すると間髪いれずに
「いらない」
と、即答されてしまったことに、快斗はがっくりと肩を落とす。
「ちょっとくらい考えてくれだっていいじゃ〜ん!!」
まるで子供のように駄々をこねる快斗。
「ばーろっ・・・逆だろ?」
新一はほんのりと頬を紅く染めた。あまりにも素直にそう返してきた新一に
「そうでした」
と、快斗まで恥ずかしそうに俯いた。
しかし、俯いても見えるのは大好きな新一で
「よしっ!今日はクリームシチューにしよう!!」
新一の顔を見ていた快斗は今日の夕食のメニューを決定した。そして
「それじゃ、夕食のメニューも決まったところで・・・」
快斗は膝の上に乗っていた新一をふわりと抱き上げた。
「なっ、何?」
突然の浮遊感に驚いている新一。
「ちょっと待っててね」
快斗はそう言うと、新一をソファに座らせてリビングを出て行った。
そして、外に干してあった布団を一枚持ってくると日当たりのいい場所にそれを置いて
「新一。一緒にお昼寝しよう」
と、ソファにちょこんと座っていた新一の身体をまた抱き上げて
ふかふかな布団の上におろし横にさせる。すると
「あったかい・・・」
新一は布団に頬擦りして、そのあたたかさを感じていた。
快斗も新一の横に身体を倒すと、片腕で新一の身体を抱き寄せた。
「新一。もう大丈夫?」
ぎゅっとその身体を抱きしめながら快斗は聞いた。するとしばらく間があって
快斗の胸に顔を埋めたまま新一はこくんと首を縦に振った。
「そっか、よかった」
と、快斗は安心したように呟く。
「・・・・・・・・・おまえもあったかい」
ふいにぎゅっと洋服を握り返してきた新一をさらにやさしく包み込むと
「新一もだよ」
快斗はそう呟いてそっと瞳を閉じた。
それから少しして、何も話さなくなった快斗。
新一は快斗の胸から顔だけをあげる。
すると、安心しきったような快斗の寝顔が見えた。
(オレの悩みなんて悩みってほどのものじゃなかったのに・・・)
快斗に心配をさせるほど、深刻に悩んでいたわけではなかったのだが
ふと口をついて出てきた声。快斗に言うほどのことでもないとあえてその内容は口にはしなかったのだが、快斗は自分が言いたくないと思ったのか
それ以上は聞かず快斗のすべてで自分に安らぎをくれた。
いつも、ふざけているように見えても常に自分のことを細かく見つめて気を配っていてくれている快斗。
決して押し付けはしないやさしさ、そんな感覚が嬉しくて
新一も快斗を抱きしめ返してそのまま瞳を閉じた。