Forever you
「なぁ、快斗。今日は天気がいいからどこかいかねーか?」
いつもだったらそんなことを言わない新一が突然快斗を誘った。
すると、ソファに寝そべって雑誌をめくっていた快斗はがばっと身体を起こし
「行く、行く!」
とはしゃぎ始めた。
「それじゃ・・・」
そう言って腰をあげた新一に
「ねぇ、どこ行くの?行きたいところあるの?」
快斗が聞いてくる。別にどこへ行きたかったわけでもない新一は
そんな快斗の問いかけにゆるく首を振った。
「いや、別に行きたいところなんてないぜ。ただ外に行きたいなって思っただけで・・・」
「そっか・・・あっ!じゃあ公園でサッカーしようよ!新一がボール蹴ってるの最近見てないし」
「そうだな」
「じゃあ新一は先に玄関に行ってて?オレ、サッカーボール持ってくる!」
そう言うと、快斗は勢いよく今までいたリビングから出て行った。
そんな快斗の後ろ姿を優しい視線で見つめた新一は
軽く上着を羽織ると、一足先にリビングへと向かって歩き出した。
「お待たせ〜!」
新一が玄関についてからほんの数分もしないうちに、快斗はサッカーボールを手に玄関へとたどり着く。
「さっ、行こう!」
片手にはサッカーボール、そしてもう片方の手には大好きな新一の手を握り締め
快斗はせかすように新一を外へ連れ出した。
新一は快斗に引きずられながらも家に鍵をかけると公園へと向かって足を向けた。
春と夏の間のこの季節は吹き抜けていく風がとても心地よい。
そんな中、新一と快斗は誰もいない公園でサッカーボールで遊んでいた。
新一の華麗なリフティングに快斗が感嘆の声を上げ、自分もやる!と言ってはたいして続かず
「このサッカーボールは新一の方が好きなんだ!」
とボールのせいにして怒っている。
「そんなわけないだろ?」
新一は苦笑いを浮かべながらも、快斗からまたサッカーボールを受け取ると足の上で何度も弾ませた。
「こうやってると頭が冴えるんだよ」
「ふーん。新一って本当にサッカーが好きなんだね」
快斗の口からふとこぼれたその言葉に新一はなぜかドキッとしてボールをミスキックしてしまった。
「ありゃ?」
滅多に失敗などしない新一のミスキックに快斗は首を捻りながらも
ボールが転がっていった方に走って行く。
快斗がボールを取りに行っている姿を見ても新一はまだその場から動くことが出来なかった。
何で快斗のあの言葉に自分はドキッとしたのだろうか?
新一は自分の想いを考え始めていた。
考え込むとつい取ってしまう顎の下に手を持っていき1点をじっと見つめるその体勢を見て
ボールを持って帰ってきた快斗は
「はい!新一、ボール蹴ったら考えてる答え出るかもよ?」
そう言ってにっこりと笑った。新一は快斗からサンキュ・・とお礼を言ってからサッカーボールを受け取ると
またボールを蹴り始めた。そしてそのまま考え始めたが、答えは簡単だった。
“本当にサッカーが好きなんだね”
そう言われた言葉にドキッとしたのではなく、その言葉を発した快斗の声にドキッとしたのだ。
普段とは違う、快斗の落ち着いたそれでいて想いがいっぱい込められているその言葉。
そんな快斗の声が自分の心臓をはねさせたのだった。
(何か・・・オレっていつの間にこんなに快斗のこと好きになってたのかな?)
新一自身も気付いていなかったその想いだったのだ。
しかし快斗にはちゃんとわかっていた。
新一が自分からどこかへ行こうなんて言ってもらえる相手はこの世界中を探したって
片手でも余ってしまうくらいだろう。その中に自分が入っていられること。
そんなことに幸せを感じて、快斗の心は自然とやさしくなっていて
心の底から愛しさを込めた言葉を新一にかけていたのだった。
その後、公園にあるベンチに座りジュースを口にしている2人。
「何かこういうのって幸せv」
快斗は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「これのどこが幸せなんだ?」
新一にも快斗が言った言葉の意味がわかっていたのだがあえて快斗に聞いてみた。
すると快斗は新一を真っ直ぐに見つめて
「新一のそばにいられるからに決まってるでしょ?」
と、さらりと言ってのける。
「何言ってんだか・・・」
そう言った新一に
「新一は違うの?」
快斗は逆に聞き返す。
「違うわけじゃないけど・・・」
「だったら一緒だね!」
にっこりと微笑んでそう言った快斗に新一はこくんと頷くしかなかった。
「新一・・・オレね、そばにいるのが自然に感じられる2人になりたいんだ」
頷いた新一に快斗はそんなお願いをしてみる。
そして自分の方に視線を向けた新一に
「だから、こうして一緒にいよう?そしたらきっとそうなれるから」
続けて願いをかけていた。そんな快斗に新一はふわりと微笑むと
「オレは少なくてもそう感じてるつもりだったけど?」
そう言って手にしていたジュースの缶を口元へと持っていき、一口喉へと水分を染み込ませると
「こんなオレにしたのはおまえなんだからな、責任取れよ?」
ビシッと快斗を指差してそう言った新一を快斗はぽかんとした表情で見つめてしまった。
しかし、新一の言葉が体中に浸透していくとその表情が緩んでいき
「まかせてよ!一生かけて責任取らせてもらうから」
その愛しい存在を思わずぎゅっと抱きしめたのだった。
「うわっ!バカ!!こんなところで抱きつくなっ!!!」
「ムリムリ!だって新ちゃんかわいいんだもんvオレガマンできないよ〜!」
「無理でも離せっ!!」
「やだよ〜!」
「離さないと捨てるからなっ!?」
「う゛っ・・・!それは困る・・・じゃっ早く帰ろうよ〜」
そんなやり取りを続けながら2人は公園を後にして、
2人きりになれる空間へと帰って行くのだった。
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