雨上がりの午後、新一は買い物に出かけた。
濁った空気が洗われて、清浄な空気に包まれると優しい気持ちになれる。
だから、雨も好き。
そう言って笑う人を想い出した。


空を見上げて、新一は意味もなく泣きたくなった。
あまりにも綺麗な藍色の空に吸い込まれそうで。



     今日は大切な人の一番大切な日。











+++ 目覚めの時 +++










「誕生日おめでとう」
「――――」
「快斗の好きな物、全部用意したんだぜ」
「――――」
「わかってる。俺も・・・」
そこから先は、言葉にすることは出来なかった。
言葉をかけても、返る事のない白色に覆い尽くされた部屋。
部屋の所々に置かれた、井天藍が花を添えている。
この部屋にいるのは、新一と眠ったままの快斗の2人だけ。
3年前のこの日、キッドの仕事を終えた後狙撃され倒れた。
新一の目の前で。
すぐに、阿笠博士と志保の所に快斗を連れ帰り、応急手術を施して一命は取り留められた
が・・・・・その時以来、快斗は目覚めない。


その日から、新一は快斗と暮らしだした。


こうして、毎日新一は快斗に話しかける。
新一が1日何をしたのか何を聞いたのか、あるいは事件の事も。
きっと、快斗が隣にいる時よりも沢山の事を言葉にして話している。
事件の時以外でも、これほど自分が誰かに自分の気持ちや考えていることを声にして語る
ことが出来るなんて知らなかった。
それはきっと、相手が快斗だからできたこと。
そして快斗を愛しいと想っている自分の心に気づく。
今日も不安になる気持ちを、無理やり押さえ込みながら眠る快斗に微笑みかけた。



   意識は戻るのか?
   それとも、一生このままなのか?



振り子の様に揺れる心を、誰にも気が付かれずに日常を過ごしてきたけれど・ ・・・・・
今日は彼がこの世に生を受けた特別な日。
そんな日に、1人でいるのは辛かった。
泣き言が言いたい訳ではない、この生活を選んだのは誰でもない新一自身だから。
ただ、消えた笑顔が哀しかっただけ。
返すべき言葉を返さなかったことを悔いているだけ。
自分はあれほど快斗から、いろいろな物をもらったというのに。
何一つ返すことが出来なかった。


「お姫様は、王子様のキスで目覚めるのが物語の定番だけど・・・・この場合、姫が王子に
ってお前なら言うんだろうな」
期待をしてする訳ではない。
そんな都合の良い話しなんてないこと新一は知っているから。
これまで、何度意識のない快斗にしてきたことか・・・・・。
「目早く覚ませよ。男前な顔がもったいないぜ」
顔を近づけて―――キス―――をした。









「姫のキスで、目覚める王子もありだろ」
後日、快斗は新一にそう感想を漏らした。
あの日、3年振りに見た快斗の笑顔に不覚にも泣いたのは新一。
それを抱きしめたのは快斗。
一度死んでもう一度産まれた大切な人。
取り戻した存在の熱を感じながら眠りについた最良の日。
新一はようやく快斗に告げることが出来た。



「快斗を愛している」






END & NEXT→ 




■thanks









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