信じない。


オマエの言うことなんか。


信じられるわけないじゃないか。


俺を好きだなんて。


でも。


――――――信じたい。


怪盗が、探偵を好きになることだってあるんだって。


ふたり寄り添える未来が、あるんだって。


そう、信じたいよ。










MY SOUL










「好きです」

「・・・・・・・」


真正面から睨みつけるように、目の前の白い男がそう言った。

俺は溜息を吐いて、呆れた顔を作る。


「・・・やっぱり、信じてもらえないんですねえ」


今度はアイツが溜息を吐く。


「・・・オマエ、年は?」

「名探偵と同じ」

「性別」

「オトコ」


ニコニコと答えていく、世紀の大怪盗。


「まあ、そんなの見ればわかるけど」


あまりにあっさりと答えるからつい、俯いてそう言うと、


「・・・名前は黒羽 快斗! 江古田高校のお祭りオトコといえば知らない人は少ないくらいの有名人だ。特技はマジック!」

ちなみに母一人子一人の母子家庭! だけど、家督問題はなし!

「――――――」


これでどうだ! とばかりに自分のプロフィールを口にする怪盗に、俺は一瞬呆然となった。

実のところ、その正体を知らなかったわけじゃない。でも、まさか、自分から言うなんて・・・。


「ば、かじゃねえの? なに? またからかってんのかよ・・・」

「どうしてそうなんのかなあ・・・」


すっかり怪盗としての仮面を脱ぎ捨てた彼に、どうしていいのか分からなくなる。

でも、それは彼も同じのように見えた。


「いったい、どうすれば信じてもらえる? 新一に信じてもらえるなら、なんでもするよ?」


悲しげな顔と、言われた言葉に心臓が早くなった。


『新一』

名前を呼ばれたのなんて、初めてだ。


だめだ・・・勘違いなんかするな!

コイツは、怪盗なんだから。

いつも、女性と見ると花をあげて、手の甲に口付けて。

なんでターゲットを俺にしたのかは知らねーけど、きっと、受け入れたりしたら痛い目を見るのは俺の方なんだから!


「・・・新一」

「う、うるさい!」


それでも、名前を呼ぶな・・・なんて、とても言えなかった。

会えば惑わされる。

必死に抵抗しても、その手を掴んでしまいたくなる。

好きだといってくれるその言葉を、信じたくなる。

会わないのが一番いいのに、こうして予告のあるたびのこのこと中継地点に来てしまう俺。

どうしようもないくらい、バカだ・・・。


「新一」


目を逸らしてしまった俺の耳に、真剣な声が届いた。

思わず身が竦む。

怒ってる感じではないのに、どうして――――。

その場から逃げ出したくなった。

だけど、そんなの怪盗が認めてる【名探偵】がすることじゃない。

だから、俺は拳を握りしめてその場に留まった。


「なんでも、するって?」

「もちろん」


さっきの言葉を言質とばかりに、俺は顔を上げてヤツを睨みつける。


「じゃあ、そこに立て」

「そこって・・・フェンスの上?」

なに、ゴムなしバンジージャンプとか?


だれがそんなこと。

第一意味ねえじゃねーか。

いつだって飛び降りてんだから。


「上じゃなくても、なんでもいい。下の様子が見えれば」

「下の?」


キッドは、言われるままにフェンスに手を当てながら下を見下ろす。

俺も、その隣に行って見る。


「ひと、いっぱいいるだろう?」

「そうだね」


そこから見渡せる場所は、深夜だというのにひどく明るい。

通りはたくさんの人がいて、店だって殆どのところが営業中だ。


「さっき言ったこと、もう一度ここで大声で言ってみろよ」

下にいる人、全員に聞こえるくらい。

「さっきって、プロフィール?」

「・・・・・・・・」


そうだ。

そんなの、言えるわけないよな。

たかが探偵一人からかうのに、そんなリスク負えるわけがない。

だから、さっさと撤回しろ。

そんで、もうからかいませんて苦笑でも何でもして、帰ってくれよ・・・。

そうでないと俺は――――っ


「ふうん」


隣から聞こえてきた声に、俺は思わず顔を上げた。

そこにあったのは、やはり苦笑。


ドキッとした。


もしかして、幻滅した?

こんなことを条件に出すなんてって、呆れた?


思わず青くなっていると、キッドは徐にフェンスに手をかけて、ひらりとその上に立つ。


「キッド・・・?」


囁いた声が聞こえたのか、彼は下から見上げる俺の顔を見て、ニッと笑った。

そして。





「Ladies and Gentlemen !! 」





腕を広げて、そう怒鳴った。


なに・・・するんだ?


「家路をお急ぎの方も、恋人と待ち合わせの方も、しばし私にお付き合いください。――――怪盗KIDです」


大声で名乗って、一礼。

すると、下から聞こえていた喧騒が、通りの音楽、車のクラクションやエンジン音を除いて、静かになった。

そして次の瞬間、爆発したかのような歓声でいっぱいになる。


ああ、やっぱりコイツは人気者なんだ・・・。


なんて、俺は真っ白になった頭の端で思った。


「今宵は皆様に、私の知られざる秘密をお教えしましょう。まず、年はじゅ・・・」

「ばっ」


言わんとすることを察して、マントを掴んで勢いよく引っ張った。


「うわっ」


バランスを崩して、後ろに倒れこむ。

俺は転がったキッドの横に立ち、


「なに考えてんだよ!!!! そりゃ、ここで公表したって誰も信じないだろうけど、疑われはするだろ!? 黒羽 快斗の私生活だって面白半分に注目浴びるんだぞ!?」

いくらオマエを狙ってる組織がもうないからって!!


思いっきり怒鳴ると、今度はヤツが俺の顔を見上げた。


「・・・新一に信じてもらえるなら、なんでもすると言ったろう。そんなリスク、なんでもない。第一、俺はそう簡単に捕まらない」

名探偵以外にはね。


――――――っ


微笑みながら言われて、俺は力が抜けたように座り込む。

そんな俺の顔を覗きこんで、キッドは、驚いた表情を見せた。


「・・・・・・ごめんっ」


なんだ?


「謝るから! 泣かないでくれよ・・・」


泣いてる? 俺が?


「泣いてねえ」

「・・・じゃあ、これは?」


俺が睨みつけながら言うと、苦笑して俺の頬を指でなぞる。


「っ」

「ねえ、信じてくれた?」

新一が止めなければ、俺はちゃんと全部言ったよ?


なかなか止まらない目から溢れてくるものに、キッドは唇を寄せる。


「好きだ。名探偵が・・・工藤 新一が、好きだよ」


間近で囁かれた言葉に、俺はもう、逃げることはできなかった。









「・・・信じて、いいのか?」

「もちろん」





「俺のこと、好き?」

「愛してる」





「実は冗談だった、なんて、嘲笑ったりしないか?」

「あのね・・・これで信じてくれなかったら、ほんとにどうしていいか分からないよ?」





「・・・き・・・・。好きだよ、きっと、オマエよりずっと前から!」

「・・・新一・・・・・・」





言っても、キッドは嘲笑ったりなんか、しなかった。

からかっただけだなんて、マントを翻して去ったりもしなかった。


目を、大きく開いたかと思ったら、子供のような笑顔を見せて、俺を抱き締めてきたのだ。


「ちょっ き、キッド!」


慌てて離れようとしたけど、強い力で抱きしめられた腕は、とても動きそうにない。

顔が熱い。

どきどきする。


「ありがとう、新一」

「・・・・・・・・・うん」






空の月が、微笑んだような気がした。







「なあ・・・」


「なに? まだ何か訊きたいことある?」


「・・・明日になっても、消えたりしないか?」


「・・・・・・明日の朝は、すぐ隣で一番に「おはよう」って言ってあげる」





与えられた口付けと共に言われた言葉を、俺はようやく、素直に信じることができた。






2003 02 15

fin.




ふたりとも、早く逃げないとです!
騒ぎを聞きつけた中森警部が来ますよ!(笑)
このようなものでスミマセン〜っ
しかも、本当はもっと短いはずでしたのにいつの間にやらちょっと長めに;
お目汚し失礼しました(><)
テーマ的にはありがちですねえ・・。




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崎美郷さまからいただきました♪
もう新一がね〜とってもかわゆいのです。KIDが好きだけど、相手の気持ちがもし本当ではなかったら。本気の恋をしているからこそ感じる不安、躊躇い。その葛藤に対して、想いの通じないことに哀しくなりながらも一歩もひくことなく受け止める快斗がとてもステキです。
そして、最後のシーン。月明かりのなかで誓いのキスをするふたりにはうっとりしました。快斗くん、早速?!なんて妄想が膨らむセリフに萌えながら、幸せな気分を大満喫です。
崎さま、本当にありがとうございました!
                             03.02.17








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