心向く先はいつも
<貴方、結構顔色悪いわよ?>
そう言ったのは、隣人の小さな科学者、哀だ。たまたま、買い物から帰ってきたところで出会ったのだが、開口1番にそう言った。それ程に、自分の顔色が悪いということなのだろう。
「………………まいった、な」
快斗はふぅとため息を付いた。
新一が事件のために大阪に行ってから、もう、3日。
他の場所ならば、まだ耐えられただろうに。自分にとってもはや害としか言えないような人間が、新一の傍にいることに、どうしようもないくらいの苛立ちを感じてしまう。今持っている包丁で、何かをめった刺しにすれば気分は晴れるだろうか。なんて、普段は考えもしないようなことまで頭に浮かんできてしまった。
(………駄目だ、料理する気になれないや)
これまた普段はやらないような、作りかけの料理を全部捨てる。今日はコンビニの弁当でいいや。健康には悪そうだけど、何かを破壊するよりはいいだろうし。
サイフをポケットにねじ入れて、外に出ようとすると。手に持っていた携帯電話が振動した。すぐさま開いて通話ボタンを押せば、
<快斗?>
愛しい愛しい、彼の声。
透き通るような声に、憂えていた自分の心がすぅっと晴れていくのを感じる。事件が終わったからもうすぐ帰るという彼の言葉を聞きながら、快斗は、迫り上がってきた感情をそのままに口にした。
「――――愛してるよ」
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