板チョコと越前リョーマ
今日は2/14。世に言う、バレンタインデーというヤツだ。
今頃教室では女の子たちがそろって友チョコだとか、
そうでなければ、校舎裏に呼び出して告ってるんだろうな。
ほら、丁度見えた、告白の瞬間が。
あーあ、チョコだけ押し付けて逃げちゃったよ・・・
「ぼーっとして、何みてんの」
「うわっ」
りっリョーマの生首!!?
「そんなに驚かなくてもいーんじゃない?」
生首だと思ったリョーマは、ちゃんと体ごと上ってきた。
――屋上の入り口の上。
「なにさ、びっくりしたじゃない」
「別に、なんて驚かすつもりでもなかったし」
あ〜ぁ、と大きなあくびをして寝転ぶ姿を、あたしはちらっと見た。
「さしずめ、チョコもらいまくるのに疲れて逃げてきたってところね」
「まぁそんなところ」
日差しが暖かい。
さっきのコクられた人はまだ突っ立ってる。
リョーマは・・・寝ている。
「全く、どんなにチョコ好きにはたまらない一日なんだろうかねー!」
こんなにいい天気なんだし、と、おもむろに『自分のために買った』板チョコを取り出した。
パキッとなるこの音が好き。やっぱりチョコは板チョコよね。
「・・・なに一人で食ってんの」
「・・・悪い?あたしはチョコが好きなんだもん」
口の中にほろりと苦味が含まれた甘さが漂う。
うーん、幸せ!
「だから、オレのは?」
こういうときだけむくっと起きて、あたしの邪魔をするヤツなんだから。
「ねぇ」
何気に制服の袖つかんでるし!
「ガキかよお前・・・別にリョーマにあげる義理なんてないし」
「ちょうだい」
しつこいヤツ・・・
「あたし、義理チョコなんてあげるよーな女じゃないんで〜・・」
「オ レ が ほ し い の」
ぐいっと引かれた感じがした、
その瞬間。
パキッ
にやり、とした悪魔な笑みと、
明らかに低くなったチョコが視界に入った。
そして
あたしは倒れた。
「あ〜〜〜〜!!!」
事態の大変さを自覚して叫んだときには、時すでに遅し。
頭上で笑うリョーマの姿を見る限り、あたしは「してやられた」のだ。
その口元には・・・やっぱり「あたしの」チョコ!!
「サンキュ」
「サンキュ、じゃなーーーい!!
あんた、今なにやったのか、わかってんの?!」
かすかに打った後頭部の痛さも、その頭に上るもので忘れるほど。
とにかくあたしは、アンビリーバボーな一瞬を理解するべきか否かで迷った。
まさか、まさか・・・
「くれないから取っただけじゃん。
このチョコ、の味がするね、当たり前だけど」
「〜〜///」
なによ、あたしの味って!!
やっぱり食べかけのところだったんだ・・・予感は的中した。
「もう知らないっ!」
極力遠ざかるように端っこへ行った。
ふーっと後ろからため息が聞こえた。バカにしてるの?
「素直じゃないね」
ほんとあたしを小バカにしたような口調でヤツは言った。
「何がよ」
たずねるのも億劫だったけどなんとなくそのまま言わせておくのも腹立たしかった。
「オレもう知ってるんだからさ」
ぎくり・・・朝の場面が急に思い起こされる。
聞かなければ良かったと、めちゃくちゃ後悔した。
「オレにくれるつもりだったんでしょ」
やっぱり居たんだ・・・
朝、かばんの中身をハデにぶちまけてしまったあたしは、
急いで友達に手伝ってもらいながら、拾ったけれど。
やっぱり友チョコと本命ってのは気合が違うから
前々から言っていた、リョーマ宛のものだって気づかれたってわけだ。
けれどあの時誰もいなかったはず・・・?
そんな回想より、現実の羞恥の方が耐え難かった。
もうあたしは半ばヤケになって言い放った。
「そうだよ、あーそうですよ!
そうだってのに、、こんな板チョコ横取りするって、なんてバカらしいんだろうね!
まったく・・・教室じゃ恥ずかしくって渡せられるか、っての」
「で、そのチョコは義理じゃないんだ、さっき言ってたし」
あーもう!なんでこうズバズバ聞いてくんのよ!
「ヤメヤメ!もうあたし帰るよ!今までのは無かったことにして」
「ほら、の好きな板チョコ」
「え?」
とても拍子抜けした間だった。
そこだけ虚無の空間なのではないかと思った。
それでも、リョーマがそこにいて、手にチョコを持っていた。
「オレも好き」
さらに拍子抜けした。
「今、なんと?」
耳に手を当てて、ものすごく神妙な顔つきで聞いてみた。
内心――また倒れるんじゃないかってほどにドキドキしていたのだけれど。
代わりに、また大きなため息が返ってきた。
さすがにそればっかりはムッとしたけど、「いらないの?」と聞かれていそいで受け取った。
触れた指先が、少し温かかった。
「がくれそうになかったからこうしてオレから渡しにきたってのに・・・
まぁ口移しでもらえたからいいけどね」
ボッと赤くなって、思わず板チョコを落としてしまいそうになった。
あぁそういえば、とふと思った。
リョーマにアメリカの習慣があって、よかったのか悪かったのか・・・。
お互い素直じゃなかった。
けれども、やっと分かり合えた。両思いだった、ってことだよね。
階段を下りようとするアイツに、
もうひと欠片、パキッと割ってあげようかと思った。
Happy Valentine!
end*
:::::::::::::::あとがき:::::::
素直じゃない人を書いてみたものデス・・・。
生意気なリョーマとの対立がポイント。
ところで間接〜ってどうなんだろう。
こんな大胆なことをやってのけるのは
王子ならではなんじゃないかなぁと思います(笑)
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