ホットチョコレートと菊丸英二




っ!っ!」

いきなりガラッと窓を開けて、英二の顔がにゅーっと出てきた。
私が窓側の席だからいいものを・・・

「何、英二。恥ずかしいからうちのクラスに来るときはちょっと静かにしてよ」

「静かにできるかっての。今日が何の日か、世の男子諸君はみーんな知ってるんだからさ」

そういいながら、窓から体を乗り出して、両手を差し出し、
いかにも『ちょーだいv』的なポーズでニコニコしている。

「で?」

「えぇ?!なんだよー、決まってるだろー早くくれよぉ〜」

この時期に英二がクラスに来てもらうととても困る。
ただでさえ、普通の日でも姿を現すと一斉に女の子たちがきゃーきゃー言うのに、
今日はそれプラス痛い(明らかに攻撃的な)視線が私に集中攻撃してくるのがわかる。

なるべく振り向かないようにして、廊下に出て英二を呼んだ。

「だから、昨日の帰りに、放課後ウチに来てっていったじゃん。
学校には持ってきてないよ、つーか持ってこられなかったから」

「ふーん、そういえばそうだった。それじゃ放課後また待ってるから。
けど昼ごはん物足りなくなるなー」

「他の女の子からチョコもらったんでしょ。ソレ食べてればいいじゃない」
去年の様子を思い浮かべて、思わず噴出した。
抱えきれないほどのチョコをもらった、人気者英二は、
先生に紙袋をもらって持って帰ったのだ。

「うんにゃ、今年は全部断った」

「えっほんとに?かわいそー」

そのチョコ全部私がほしかったのに、という邪念が浮かんだが、
それと同様勇気を出して渡した女の子に同情した。

「だって本当に好きな人からしかいらないじゃん」

英二らしいかどうかわからないセリフを、
まっすぐ私の目を捉えて言う本人が、今私の彼氏なんだという現実が、
私の心の中に甘く溶かされていくような気がした。


「・・・ありがと」


「とにかく放課後楽しみにしてるからねん♪」

そういうと、スキップしながら帰っていった。












「お待たせ、ということでこれがえーっと・・・
まぁバレンタインプレゼントということで〜」
私の家につき、早速作って出した。部屋に甘い香りが漂う。「ホットチョコレートだけど・・・」

今年もたくさんもらうんだろうなぁと予測していたから、
やっぱり手作りならでは、出来立ての温かいものを出したいと思ったということなのだ。

果たしてこれで良かったのかなぁと顔色を伺った。

「うわぁすんごくあったまる!
ホットチョコレートだけに、ホッとなるってねv」

「なにそれー、サムくなっちゃうよ」

アハハ・・と笑いあって、お互いマグカップに顔を埋める。



「――こうして今2人でいられるなんて、私はなんて幸せ者なんでしょうね」
指がじわじわと熱を持って、顔が湯気にあたる。
「一年前はもしかしたらチョコを受け取ってもらえなかったかもしれないのに」

「それは違うなー」

スプーンでホイップクリームをすくいながら英二は言った。
「だってのは絶対もらうって決めてたもん」

「あぁ・・・そう」
なんだか頼りない返事をしてしまって、また一口飲んだ。

「こうやってさ」ホイップで遊ぶ英二が顔を上げて、にっこり微笑んだ。
「あったかいものを一緒に飲めるなんて、オレたちの特権だよなー」



特権ってどんなんよ、と笑いながら、
それをを持つことができたこのポジションを、いま幸せに思い、
甘いぬくもりに包まれていた。



Happy Valentine!


end*



:::::::::::::::あとがき:::::::::


なんとなく「プレゼント」を
連想させるような感じですが;;;

出来立てをもらえるのはやっぱり「そういう関係」
だけかなぁと思って書きました。(まんま)






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