熱と音に溢れた店内から一歩抜けると、四角く切り取られた夜空が見える。
いつだったか部活の合宿で見たあの見事な星空とは較べモノにもならない、薄い色。
火照った体にひんやりとした外気は心地よく、巻きかけたマフラーから手を外した。










=おほしさまほしい。=













毎年、誕生日は大勢で祝う。
特に意識をしているわけではないけれど、いつの間にかそういうことになっているのだ。気が付くと。
幼い頃は家族が、中高時代には部活仲間が、そして今ではサークル仲間が。
気が付けば誕生日会の計画を練っている。
その時々で集まるメンバーや規模もまちまちだったけれど、大勢で無駄に騒ぐのは嫌いではない。
それに何より自分のために、貴重な時間を割いて集まってくれたのかと思うと(単に騒ぎたかっただけのヤツらも当然いただろうけれど)素直に嬉しかった。

だから誕生日は、いかに自分が恵まれているのかを知らしめる良い機会なのだ。

うっかりすると忘れてしまいがちになる。
どれだけ仲間が大切なのか。
家族が自分を大切にしてくれているか。
友人達のぬくもりを。


こんなにもちかくにあるのに。
こんなにもちかくにあるから。



駅前のロータリーで自然解散となった後、折角集まったのだからと2次会へ繰り出す連中を見送った後で(主役だからと誘われても、どうにも行く気がしなかった)家まで歩こうと足を踏み出した。
バスもあったけれど、歩きたい気分だった。

賑やかな繁華街から住宅街へと景色が変われば、変に浮ついていた気分も大分静まってくる。
この辺りの家並みは、実家のある街のそれに似ていて、少しだけ懐かしさを感じる。
小学生の頃に引っ越して、去年まで住んでいた(両親は永住を決めたらしい)その街を思い出すときは、決まって当時入っていた部活のこともセットになって浮かんだ。


高校を卒業して、初めての誕生日。
あの頃はこうして別々の所で暮らしても、もっと頻繁に会ったり遊んだりするものなんだと思っていた。

当たり前のように包まれていた空気から、自分が離れてしまうなんて夢にも思わなかった。
今も友達は沢山居るし、それなりに毎日を楽しんではいる。
けれども何かにひたすら夢中になったり、本気で喧嘩したり、試合に負けて泣いたり、レギュラーになれて死んでも良いと思ったあのがむしゃらな熱は、記憶の中にしか多分存在しない。
毎日イヤでも顔を合わせていた面々とも、卒業を機にパッタリと顔を合わせなくなってしまった。
アイツとも。



引っ越しだなんだで連絡もろくに取らずに過ぎた1ヶ月。
アポ無しで会いに行ってみて、結局直接会うことのなかった5月。
うやむやのうちに過ぎていく時間の中で、タイミングを掴めずに途方に暮れた休み前。
新しい仲間に引きずり回され、それなりに楽しくて(なにせ2年ぶりの夏休みだった)はしゃぎ回っていた長い夏。
会いたいと思う気持ちが分からなくなって、そんな自分が恐ろしく思えて封をして閉じ込めた、落ち葉の中。

言い訳に過ぎないということは分かっている。
もっと本気で動けば、会えないコトなんてきっとなかった。
けれどやっぱり、不安になる。
会いたいと思っているのが自分だけだったら。
あの日、見送ってくれた笑顔が、決別を意味していたのなら。



答を出してしまうのが怖かった。
そうして、動けないで居る自分がどれだけ愚かだったとしても。
ギリギリの所でそれでもまだ、繋がっていたいと思った。





アパートの階段を音を立てないように気を付けて上る。
階下に住むおばあさんの家には今、連休を利用して娘夫婦とお孫さんが帰ってきている。
途中、本屋に寄ったりコンビニを覗いたりしていたらすっかり遅くなってしまった。
もうそろそろ夏場なら空が白んで来る頃だ。
明日の受講は午後からだから少し寝て、家には起きてから電話でも入れようと思う。

そんなことを考えながら最後のステップを上りきると、ドアの前に誰かが座っているのに気が付いた。
誰だろう、と暗がりに目を凝らす。
ジッと見つめて、瞬きをして。
それを何度か繰り返した後に、ようやく脳が回転を始める。



見間違えるはずもない。
熱を失った頬が、急激に熱くなる。
手のひらにじわんと滲んだ汗を、ズボンで拭った。
それは。そのひとは。
見間違えるはずもない、ずっと待ち侘びていたのだから。
また会えることを。

恐る恐る歩み寄ると、微動だにしないその人の脇に、音を立てないようにして膝を突いた。
そっと手を伸ばして、膝を抱え込んでいる腕にジャケット越しに触れてみる。
マフラーからはみ出て赤くなった耳に鼻先をこすりつけると、懐かしい匂いがした。

「・・・くすぐったい。」
ようやくもそりと動き出したカタマリに笑いかけると、あの頃と変わらない笑顔の中に、あの頃にはなかった色気を感じて返り討ちにあった。
「寝てたの、」
「寝かけたトコロ。危うく死ぬトコだった。」
暗に帰りが遅い、と含ませてそっぽを向く横顔に、何て言ったらいいのか分からない。
どうしようか、幸せすぎる。


「今日さ、誕生日なんだよ、俺。」
「・・・昨日、」
「そっかも。ね、おめでとって言ってよ。」
「今更?」
「拗ねんなよ。だって嬉しいんだもん。」
「だもんて・・・・・・・、おめでと、」
「あんがと。」
「・・・、」
「会いたかった、」
「・・・ん、」
「会いたかった?」
「会いたかった。」
「そか、ならイイや。」
「・・・・そう、」
「うん。」

「会いたかった。」
「会いたかったね。」
「何度かこっち来たんだけど、何かいつもいなかったから、」
「俺も。てか事前に連絡とかすればいいのにね、俺ら。」
「同感。・・・でも、」
「うん、・・・怖かった。」
「けどまぁ、」
「ん、会えたしね。」


分厚いジャケットの中から指先を探し出して、自分のそれと絡める。
並んで座ると少しだけ抱き寄せられた。

「中、入ろっか。」
「寒い?」
「てゆかさ、もう鼻声じゃん、お前。」
「そう、」
「そーだよ。コーヒーでも飲む?」


頷いて微笑むその顔が、肘が、喉が、つま先が。
そこにあること。
胸にせり上がってくる懐かしさとそれ以上の温もりに、満たされていく。

まだ明けない空とこの街を背にしたこのひとが、どうしようもなく優しく首を傾げたりするから。
泣き出してしまいそうになりながら、どうにか堪えようと、鍵を開ける手を早めた。
振り返りざまに見た夜空はやっぱり灰色がかっていて、それでも星は(少しだけでも)あって、何だかひどく安心した。


























*お誕生日おめでとうのみっつめ。
大学生くらいの英二と、・・・誰かさんです。
相手を特定に絞りたくなくて、かなり反則ちっくに(汗)
読む人の好みによってちゃんと相手が変われば良いなぁ、なんて思うのですがどうにも失敗してそうですね。。がく。
(書いていて私には副部長にも王子にも同級生にも思えていたのですが・・・)

もっと甘くて可愛いのを書こうよ・・・。誕生日なんだからさぁ・・・。
王子の生誕記念にはリベンジしたいです・・・!(クリスマスなのでイベントなので大菊も書きますが)


021120 



水丘紗綾様から奪取させていただいた、英二ハピバ小説v
なんとなくドリーム風だったのでこのサイトでもOKかなぁと。
米良の夢で満たされない甘さを補ってくれるようです。(^^;
もうこの文章の巧さといったら!とても尊敬です!!
ありがとうございました〜♪



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