スクール・4 〜泥酔×戦争×自宅謹慎〜


翌朝。

「おーい、ズシ、学校行くぜ!」
今朝は珍しくキルアがインターフォンでズシを呼び出した。
というのも、いつもならゴンの役目なのだが、昨晩の事件を気にして、自分から呼ぶ勇気がないのだ。

「オス! 今行くっス!!」
ドアの内側から元気な返事とドタバタという物音が聞こえてくる。

「おはようっス!!」
「おう。」
「おはようございます、ズシ様。」
「・・・・・・おはよう・・・・。」
元気なズシとキルア、カルトと対照的にゴンだけが暗いオーラを放っている。
ものすごい違和感。

「ゴンさん、どうしたっスか? 元気出すっス!」
「・・・・・・・・・・・どうせ、オレなんか・・・、オレなんか・・・・」

どよ〜ん・・・・・・。
ゴンのまわりだけお葬式のような雰囲気が漂う。

「オレもさっきから元気付けてやろうとしてんのに、全っ然だめなんだよな。 ってか、お前は別に平気そうだな。」
「オス。 ゴンさんのおかげで今までやってこれたっスから、
 どんなことがあっても、ゴンさんに感謝してるのは変わらないっス。」
「つまり、吹っ切れたってことか。 問題はやっぱりゴンだな・・・・」

「・・・・どうせ、オレなんて、主人公のくせに、・・・・たまに目立ったと思えばドジばっかり・・・・・」

ゴンは何かぶつぶつ言いながら目に涙をためた。
「うわっ、何も泣くことないだろ!?」

ぷ〜ん、と鼻をつく匂い。

「・・・・・・・、この匂い、もしかして・・・・・?」
ズシが鼻をヒクヒクさせた。
「お酒ですわ・・・・。」

「そういえばこいつ、泣き上戸だったよな・・・・・・。」(←キャラクターinCD,No.4参照)
キルアは右手で額を抑えた。
「ったく、おとといのミトさんといい、ゴンといい、迷惑な家族だな・・・・」

あの後、ゴンは自己嫌悪になって夜通し飲んだくれていたのだ。

キルアとズシはお互いに無言で頷いた。
ズシはカルトの背後から両腕を回して、目をふさいだ。
キルアはゴンの口の奥深くに、人差し指と中指を差し込んだ。




「・・・・・・ハァ、ハァ、もう!!いきなりなにするのさ!!!」
ゴンは息を切らして、拳を振り回しながらキルアに怒りをぶつけている。
「いてっ! 人がせっかく酔い覚ましてやったってのに!! 大体そのまま学校行ったらやばいだろ!?」
「・・・・・あっ、そうか・・・・。」
「ったく、世話が焼けるよな・・・。」

「きゃっ、ズシ様が、ズシ様が・・・・・v」
「えっ、え!?自分何かしたっスか・・・・・?!?」
「・・・別に気にしなくていいよ。こいつ、妄想癖が激しいから。」
(何か今朝はやけに疲れるな・・・・・。)
キルアはポケットからお菓子を取り出して、早くもエネルギーを補給しだした。


「あの後ズシはちゃんと見つかったのか、
 ゴ・・・・、どうした、ゴン!すごくやつれているじゃないか!?」
昨日のダウジングチェーンがうまく行ったか確かめに来たクラピカは、
真っ青な顔をしたゴンを見て、思わず声をあげた。

(あのゴンがここまで暗い表情を見せるとは・・・・。
 そこまでとんでもないことがゴンの身に起こったというのか・・・!?)

「何があったんだ・・・・?」

「クラピカ・・・・・・! オレのせいで、ズシが・・・、ズシが・・・・・!」

「いきなりどうしたんだ! ズシに何かあったのか!?」
ゴンはクラピカの胸に顔をうずめて泣き出した。

「自分ならここにいるっスけど。」
「そ・そうか、・・・一体どうしたというのだ、ゴン!」

「チッ!」
キルアは舌を鳴らした。
(・・・・・・オレのゴンに抱きつきやがって・・・・・クラピカ、後で殺す!!!!!)

「ゴンさん、ダメっス。」
ズシは口の前に人差し指を立てて見せた。
変な噂を広めて、みんなから心配を浴びたくない。
「クラピカさん、ゴンさんを一人にしてあげましょうっス。」
「とはいっても、このまま泣いているゴンを放っておくことは出来ないだろう。
 確かに、気の滅入った時は一人にしておいてほしいという者もいるが、
 この場合、ゴンの行動から察するに、明らかに誰かの慰めや助言を必要としている。」
クラピカはもっともらしい理屈を捏ねて、自分に抱きついてきたゴンを放そうとしない。
「それならオレがゴンを慰めといてやるから、クラピカはおっさんのところにでも行ってなよ。
 だいたい、慰めるのがアンタじゃなきゃダメな理由はないだろ?」
「キルアさん・・・・!」
キルアはズシに味方する振りをして、クラピカからゴンを取り返そうとする。
「お前でなければならない理由もないだろう!
 大体レオリオは昨日無茶しすぎたせいで今日は欠席だ!!」
「クラピカさん、一体レオリオさんに何したっスか!?」
「だ〜、ズシは黙ってろ!!話をややこしくするなよ!」
「キルアさん・・・・!?」
クラピカとキルアはズシそっちのけで、壮絶な言い争いを始めてしまった。
「ゴンさん、こっちに来るっス・・・」
ズシはゴンの存在すら忘れて口喧嘩しているクラピカからゴンを引っぺがして、廊下に出て行った。


「ゴンさん、そんなに落ち込んじゃダメっス。 自分、もう吹っ切ったっスよ?」
「・・・・・・でも、オレのせいでズシが処分受けちゃうんだよ?」
「そんなこともう気にしてないっスよ。それに、ゴンさんにはすごく感謝してるっス。
 あの時ゴンさんが誘ってくれてなかったら、今の自分は無かったっスから・・・・。」
「・・・・・・ズシ・・・。」
「教室に戻るっス。」


「何・・・・これ・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ズシがゴンの手を引っ張って教室に入ると、ものすごい阿鼻叫喚騒ぎが起こっていた。
「・・・・・っざけんな!! だからゴンはオレが慰めるんだっつーの!!」
「分らない奴だな!! ゴンは私を頼って抱きついてきたのだよ!! チェ〜ン! チェ〜〜〜〜ン!!」
怒りの収拾がつかなくなっていたキルアとクラピカは、
お互いに高圧の電撃を発したり、鎖を狂ったように振り回したり、
しかも二人ともその攻撃を高い確率でかわすので、知らないうちに教室をボロボロにしていたのだった。
他の生徒たちは教室の隅に避難して、震えている。
・・・と、そのとき、ウイング先生が教室に入ってきた。
「な・・・・・・! この惨状は一体・・・!? まあいいでしょう。 出席を取ります。」

(いいのか!?)
他の生徒たちとゴンとズシは同時にそう思った。

出席を取り終わると、最後にウイング先生が付け足した。
「ズシ君、指導室に来てください。 それとゴン君もついて来てくれますか?」

教室が騒然となる。

「オス!」 「はい!」
ズシとゴンの覚悟したような潔い返事が響いた。


ズシは指導室の扉をたたいた。
「どうぞ。」という声を聞いて中に入ると、パクノダ先生がソファに座っていた。
「早速だけど、私の両脇に座ってくれる?」
面接のような形式を想像していた二人は、疑問に思いながらもそれに従った。
するとパクノダ先生はゴンとズシの肩に腕を回した。

「なるほど、そういうことだったの。 困ったわね・・・。」

「な・何したっスか?」
「あなたたちの心を読ませてもらったわ。 確かにあなたのしていたことは校則に違反する。
 だけど、あなたの置かれていた状況が状況だったから、処分を科すにはかなり不当なのよ。」
「「そ・それじゃあ!!」」
ゴンとズシは一瞬笑顔になりかけた。
「まだ分らないわ。 これから資料にまとめて会議に出してみないと・・・・。
 一時間目が終わるころにはどうなるか決まっていると思うから、担任の先生から聞いて。」
「そうっスか・・・・・。」
「もう帰っていいわ。 授業始まるでしょ。」
「「失礼しました(っス)」」


チャイムが鳴り一時間目が終わった。
「ズシ君、先生のところに来てください。」
ついにウイング先生のお呼びがかかってしまった。
ズシはぎこちない足取りで先生に近づいて行った。

「ほら、そんなに緊張しないで。」
「き・緊張しない方がおかしいっスよ! これから嫌なこと聞かされるって言うのに・・・!」
「まあまあ、結果を先に言うと、3週間の自宅謹慎です。
 あなたの置かれていた状況を考慮すると、確かに処分を科すのは不当です。
 ただ、あなたのアルバイト先がいわゆる水商売のお店であったという点が少々ネックになりました。」
「・・・・そんな、仕事で人を判断するなんて、ゴンさんやミトさんがかわいそうっスよ・・・・・・。」
「いえいえ、そういう意味ではなくて、未成年でお酒を扱うのがまずいということですよ。
 だから本当はゴン君の家のお手伝いというのも、まずいと言えばまずいのですが・・・。」
ウイング先生は必死に取り繕おうとするのですが、ズシは釈然としない様子。
「何か納得いかないっスよ・・・。 学校に通うために頑張ってたっスのに・・・・。」
「それです。 なぜ真っ先に私に相談してくれなかったんですか?
 相談すれば、別の策を立てることも出来たんですよ。」

「・・・・それは・・・。」

ズシはとても本人の前で、ウイング先生が苦手だったからと言うことが出来なくて、言葉を濁した。

「生徒の悩みを聞いてあげるのも、先生の大事な仕事です。
 それなのに、あなたは何でも一人で解決しようとした。
 処分を科す羽目になった一番の理由は、先生たちを信用してくれなかったことだったのです。」

「あ・・・・・・。」
ズシは一瞬めを見開いた。

「・・・・・確かに、自分、間違ってたかもしれないっスけど、
 自分に手を差し伸べてくれたゴンさんには、感謝してるっス・・・。」
「ええ、彼の友達を思いやる心はとても立派でしたね。 後で褒めておきますよ。
 だけれど、ズシ君。私から一つだけ言わせてください。
 先生たちにとって、可愛い生徒たちに頼りにされなかったり、
 信頼されなかったりするのは、とても寂しいことなんです。」
「・・・・・・・・!」
ズシは思わずウイング先生の顔を見つめた。
するとウイング先生は少し照れたように笑い、ズシの頭を撫でた。

(あ・・・、何か、この先生、そんなに嫌いじゃないっス・・・・・。)

ウイング先生は本当に生徒のことを思いやって、包み込んでくれるような先生なんだと、ズシは思った。
「じ・自分、3週間きっちり反省して戻ってくるっス!」
ズシは晴れやかにそれだけ言うと、ランドセルを背負って帰っていってしまった。

「あっ、ズシ君! ちょっと待ちなさ・・・、 ふぅ、仕方ありませんね・・・。」

ウイング先生はポリポリと頬を掻いた。



<あとがき>
ズシがついに自宅謹慎になってしまいました。
これでやっと本編に入れます・・・・。

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