スクール・5 〜暇×お風呂×家庭訪問〜

学校もなく、アルバイトにも行けなくなり、思いがけず暇になってしまったズシは、
ベッドの上に座って、虚ろな顔をしていた。
必要最低限の物しかない殺風景な部屋には、暇を潰せるようなものが何もないのだ。
自宅謹慎を言い渡されて、自分のアパートの部屋に帰ってきてからまだ3時間も経っていない。
こうなったら部屋の掃除でもしようかと思うのだが、よく考えると、部屋が散らかるほど物を持ってはいない。
仕方ないのでベッドに寝転がり、その横の窓から外の景色をぼうっと眺める。
今日の天気は快晴で、だいぶ日が傾いたとはいえ青空が広がっている。
上空では風が強いのか、ものすごい速さで雲が流れている。
遠くの方から、迷い人の町内アナウンスが聞こえて来るのが物憂い。

(これから、どうやって過ごしたらいいっスか・・・・・・)

ズシは、風に舞い上がって空中を漂っているスーパーのビニール袋を目で追い、
やれやれと溜息をついているうちに、眠りに落ちた。




その頃、Mito'sでは
「ええっ!! 何ですって!!? それじゃあズシ君、もうお手伝いに来てくれないの!!?」
学校から帰ってきたゴンからズシの処分を聞かされたミトさんは思わず叫んでしまった。
「うん・・・、オレがヘマしちゃったせいで・・・・・。」
「もう!! せっかく理想のタイプに成長してくれそうな子だったのに!!!」
「ミ・ミトさん!?」
「だってあの言葉遣い聞いて分らないの? どう考えても逞しくて精悍な男性になるはずだったのよ?」
「・・・・ミトさんって、ガテン系フェチだったんだ・・・・・・・・・・。」(←キャラクターinCD vol.5参照)




玄関の方からチャイムの音がして、ズシは目を覚ました。
窓の外はもう暗闇になっていた。
「今出るっス!」
ズシは腕で目をこすってから、パタパタとドアを開けに行く。

「こんばんわv」
「先生・・・・!?」
ドアの外にいたのはウイング先生だった。
スーパーで買い物をしていたらしいビニール袋とお鍋を持っている。
「どうしたっスか?」
「今日配られたプリントと、晩御飯を作って持ってきました。」
ウイング先生はニコニコと笑みを浮かべている。
「外出禁止では材料も買いに行けなくて困るでしょう?」
「あ・・・、そうっスね・・・・。 けど、悪いっスよ。」
「いいですよv 気にしなくても。 私がこうしたいんです。」
「お・オス・・・・」
ウイング先生に頭を撫でられて、ズシはちょっと決まりが悪い。
そのままウイング先生はズシの部屋に上がりこんだ。

「意外と片付いてますね。」
「散らかるほど物も持ってないっスからね。」
「お皿を借りてもいいですか?」
「あ、オス。 その右の戸棚の手前にあるっス。」
ウイング先生はお皿と一緒に取り出したおたまで、なべに入っていたクリームシチューをよそった。
「ほら、テーブルに運びなさい。」
「オス。」
ウイング先生はズシにシチューの入ったお皿を二つ渡すと、飲み物を持ってズシに続いた。
「では冷めないうちにいただきましょうv」
「オス。 いただきます!! はむっ・・・・・んまいっスv!!」
スプーンを口に運んだ瞬間ズシは幸せそうに笑った。
「気に入りましたか? 良かったv」
ハフハフ言いながら食べるのが、ウイング先生にはとても可愛く見えて、思わず頬が緩んでしまう。

「あ・あの・・・・、今日は、その・・・・・・。」
ズシは少し照れくさそうに先生の顔を見る。
いままで苦手だと思っていた人に、こんなにも親切にされて、何て言ったらいいのか分からないのだ。
「・・・・・ありがとうっス・・」
「どういたしましてvv」
ウイング先生は嬉しそうに目を細めた。

「もぐもぐ・・・先生、はむっ・・・」
「こら、食べながらのおしゃべりは行儀が悪いですよ。」
「ごくっ・・・、お風呂一緒に入って行かないっスか? お礼にお背中流すっスよ。」
「・・・・・・・・・・・vv!」
瞬間、ウイング先生の動きが凍りつき、すぐさまだらしないぐらい笑みを浮かべる。
「うわっ、せんせ? ど・どうしたっスか!?」
「いや、な何でもないですよvvv(汗)!」
急なことで心の準備が出来ていなかったウイング先生は嬉しい混乱を起こしていた。
「じゃ・じゃあ、お風呂で今日学校で何があったかお話してあげましょうか・・・v。」
「何か、先生嬉しそうっス。」
「そ・それは、可愛い生徒とお風呂でスキンシップできるのだから、当然でしょう。」
「そんな人、初めて見たっス。 変わってるっスね。」
首をひねってウイング先生を見上げる瞳は不思議そう。
そんな仕草さえウイング先生には可愛く見えて。
先生は、きゅっと抱きしめたい衝動に駆られて腕を伸ばした。
しかしその時ちょうど食べ終わったズシがお皿をキッチンに戻しに立ってしまい、
ウイング先生の腕はむなしく空を切った。

(・・・・・残念・・。 ・・・でも、いきなり抱きしめるっていうのはまずいかもしれませんね・・・・・・・・。)
ウイング先生は一瞬切れかけた理性にブレーキをかけた。

「ぷ〜っ、おなかいっぱいっス。」
テーブルに戻ってきたズシは、口のまわりにシチューをいっぱいつけたまま、膨れたおなかを撫でた。
ウイング先生は苦笑いしながら、ティッシュでズシの口を拭いてやる。
その時に手がズシの頬に触れた。
それがマシュマロみたいに柔らかかったから、ウイング先生の心臓がドキンといった。
「もう沸いたみたいだけど、す・少し休んでからお風呂にしましょう。」
(いけないいけない、今入るのは危険だ。 落ち着かなくては・・・!)
「オス! そういえば先生って何歳っスか?」
「たしか25歳だったはずですよ。」
「じゃあ、奥さんはどんな人っスか? きれいっスか?」
ズシはシシシ、といたずらっぽく笑う。
奥さんが美人だったら、先生の家に遊びに行こうと思っているのだ。
「嫌味ですか。 私は独身です。」
「なぁんだ。 どうりで料理が上手いわけっスね。」
「今の時代、男性だって料理くらい出来ないと生きていけませんよ。
 それより、一人暮らしみたいだけど今まで食事はどうしてたんですか?」
「いつもはアルバイトに行ったときにミトさんがご馳走してくれたり、お弁当をもらったりしたっスよ。」

(・・・・・・ということは・・・)
ウイング先生はテーブルに肘をついて、親指と人差し指で額を押さえた。

「どうしたっスか?」
「いえ、大丈夫です。」
(毎日来てあげないと、ズシ君は飢え死にしてしまう・・・)

「もうそろそろお風呂入るっス。」
ウイング先生の耳がぴくっと反応した。 そしてニタニタと頬を緩めた。
「そうですか、入りますかvv」
「オス。」
ウイング先生の笑顔の意味が分かっていないズシは可愛らしく返事した。
「じゃあ行きましょうね〜vv」
ウイング先生はズシの後ろから肩を押して脱衣所に入った。

「やったっスv 一番っス!!」
ウイング先生の胸の内とは違い、ズシにとっては遊び感覚なのだろう、
ズシは素っ裸になると、ウイングさんの目の前で「えっへん!」とでも言わんばかりに仁王立ちした。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ちょうどウイング先生がズボンを脱ごうと屈んだ時に、目の前に一糸纏わぬ姿で仁王立ちされたものだから大変だ。

「ぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っvvvvvvvvvvv!!!!!」

ウイング先生はものすごい勢いで鼻血を噴いてしまった。
「わわわ・・・・!! 先生っ、どうしたっスか!!!!!!?」
「き・気にしないでいいですっ(汗)!!!」
ウイング先生は飛んでしまった鼻血をせわしなく拭き取っている。
「じゃ、先に入ってるっス。」
ズシはガラガラとお風呂の戸を閉めた。


掃除が終わってお風呂に入ると、ズシはかけ湯をしているところだった。
ウイング先生もそれに倣ってかけ湯すると、
ズシは先生の背中を流そうと、タオルに石鹸の泡を塗して、バスチェアの横に立って待っている。
「先生、ここに座るっス。」
「うん、それではお願いしようかなvv」
ウイング先生がニコニコしながら椅子に座ろうとすると、
足元に石鹸が落ちていたのに気づかず、盛大にしりもちをついてしまった。
はっきりと見えない方が、一緒に裸でいても変な気分にならないだろうと、めがねを外したのが徒となってしまった。
「・・・・・タタタ・・、私としたことが・・・・。」
「・・・くっ、クヒヒ・・・・・」
ズシは漏れそうになる笑いを堪えるのに必死だ。
「・・・・・・・笑ってないで、お願いします。」
先生は頭を掻きながら格好悪そうにしている。

(・・・・・ズシ君の目の前でこんな失敗をやらかすなんて・・・。)
ウイング先生はカクンと頭を垂れた。

「・・・・先生って意外と、面白いっスねv こういう先生って、自分、何か好きっスよ。」
逆にズシは次々と明らかになってゆくウイング先生の新たな一面に、親しみを感じるようになった。

(!!!!!何と!!! ズシ君が私を好き!!?)

地獄行き決定だったウイング先生は、一気に天国まで駆け上った。
ズシの「好き」は先生としての「好き」だと分かってはいるのだが、ついつい舞い上がってしまう。
「私もズシ君が大好きですよvvv」

(げっ・・・・、先生、何かキショいっス・・・・。)

ウイング先生が異常に嬉しそうに言うので、ズシは引いてしまった。

「ホラ、お願いしますよv」
「お・オス・・・。ごしごしごし・・・・」
別に掛け声をしなくても背中は洗えるのだけれど、ズシはそうした方がきれいになるような気がするらしい。
ひとりでお風呂に入るときもそうしているのかと思うと、ウイング先生はさらにズシが可愛く思えてくる。
「先生の背中って・・・・」

(・・・・もしかして「広いっスvv」ですか・・・? ほのぼのして良いですねぇv うんうん。)

「ガリガリっスね・・・・・」

(がくっ・・・・・・・・・)

「ちゃんと運動してないんじゃないっスか?」

(!!!!)

図星を指されたウイング先生は一瞬ドキっとした。
(可愛く見えて、意外と鋭いところが・・・)
ウイング先生の趣味といえば、
公園のベンチで読書することと、公園のハトに餌を撒くこと。
つまり、ボーっとしているのが好きなので、ズシの言うようにそんなに運動はしない。

「そんなんじゃ、いつまでたっても結婚できないっスよ?」
「コラ! 何てこと言うんだい? 私はしばらく独身で良いんですよ。
 これでも今の生活には満足してるんです。 でも・・・」
「でも?」
「昨日Mito'sにいたような女の子がいたら別ですけどねvvv」
「な・ななな何言ってるっスか//////////!」
ズシの頭からモウモウと蒸気が上がる。
まるでお湯の沸いたやかんだ。
男の子にとって、嫌々女装した姿を可愛いと言われるのはものすごいショックらしい。
でも可愛かったのだから仕方がない。
「もう! 冗談言っちゃダメっスよ/////!」
ズシは赤くなった顔もそのままに、ウイング先生の背中をお湯で洗い流した。

(プププッ・・・・。 カワイイvv)

学校ではとうてい見られないだろう表情。
ウイング先生はこれまで以上に愛しく思ってしまうのであった。

数時間ともに生活してわかったことは、
何気ない表情や仕草でもズシは一生懸命だということ。

ウイング先生は、赤く染まった頬をプクっと膨らましてプリプリと怒っているズシの背中に腕を回す。
「・・・・・今日は、来て本当に良かった・・・。」
低く穏やかな声。

ドキ・・・・・・・・・・・・。

ズシは、胸がチクリと痛んだのに驚いて顔を上げると、先生はズシの額にそっと唇を当てた。
「・・・・・・・・・。」

ふわっ、と少年特有の甘い匂いが漂う。
片腕で華奢な身体を抱いたまま、もう片方の手はズシの頭を優しい手つきで撫でる。

トクン・・・トクン・・・

ウイング先生の鼓動が聞こえる。

(・・・あ、何か、これって・・・・・。)

ズシはしばらく忘れていたものを思い出した。
この学園に転入してきてからズシは初めて心から安心できたのだった。

ウイング先生の腕の中の居心地が良くて、ズシのまぶたが段々重くなり始めた。

「おや・・・・? これは困りましたねぇ・・・・・。」
ふとズシの顔に目をやると、規則正しく寝息を立てている。
「仕方ないですね・・・・・。」


「・・・・・う・・・ん?」
ズシの身体を洗ってお風呂を上がり、
少々てこずりながらパジャマを着せたところでズシが目を覚ました。
「・・・・・あ、せんせ・・・・・・・」
「起こしてしまいましたね・・・。 湯冷めしないうちにベッドに入りなさい。」
「お・・・オス・・・・・。」
ズシは眠い目をパジャマの裾でこすった。
「さて・・・、私はそろそろおいとまですね・・・・。
 そうだ、残ったシチューは温めなおして朝ごはんにするんですよ。」
ウイング先生は、ズシと視線を合わせるためにしていた中腰から立ち上がった。

ドアノブに手をかけて外に出ようとしたとき、どこかが引っ張られたような感覚がした。
見ると、ズシの小さな手が先生のYシャツの裾をぎゅーっと握っている。
「どうしましたか?」
「・・・・・あの・・・、明日も来てくれるっスか・・・・・・?」
遠慮がちで、どこか寂しそうな目。

「ええ、もちろんです。」
ウイング先生はニコッと笑った。

「オス!」
ズシは嬉しそうにポーズを取った。



<あとがき>
今回はほのぼのを目指しました。
いつものことながら玉砕ですけど。
しかし、これから毎日ウイング先生がやってくるのでしょうか・・・?

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