さわやかな青空が広がる午後の公園のベンチで、ある一人のお兄さんが、
サンドイッチを食べながら、集まってきたハトにパンくずを撒いていました。
お兄さんの名前はウイングといいました。
実はウイングさん、若くしてハンター協会の役員という超エリートなお兄さんなのです。
なのに、髪の毛ははねたまま、シャツがズボンから出っ放し、ヨレヨレのズボン・・・etcで
まったくもって、厳格そうな雰囲気とはかけ離れています。
まあ、ハンター協会の役員とはいえ、そんなに会議があるわけでもないし、
実務もほとんどありません。 ハッキリいって暇で暇でしょうがないのです。
「今日もいいお天気ですね。」
ウイングさんは独り言を言っているのではないのです。
自分の前に集まってきたハト達とお話しているのです。
ウイングさん自身、優秀なハンターでもあるので、動物とのお話はお手の物です。
「クルックー、ポッポッ(そんなの見りゃわかるって)。」
一匹のハトからお返事が返ってきたので、ウイングさんはニコニコと笑顔になりました。
そのとき、かすかだけれど、聞き慣れない動物の鳴き声が聞こえました。
ウイングさんは、肩に乗ってきたハトに聞きました。
「今の鳴き声はなんだい?」
「ポポポポッポポ(ヘイ、くまの赤ん坊が腹空かせて泣いてまっせ)。」
急にウイングさんはベンチから立ち上がって、声のしたほうへ歩き出しました。
するとダンボール箱の中に、小さなくまの赤ちゃんが一匹捨てられていました。
『かわいいくまの男の子です。可愛がってあげて下さい。』と箱に書いてあります。
ウイングさんは箱の中を覗き込むと、何かをすがるようなぶどう色の瞳と目が合いました。
そうとう衰弱しているらしく、くまの赤ちゃんはあまり動きません。
「・・・これは一刻を争う・・・・・。」
ウイングさんは、サンドイッチと一緒にミルクも買っていたのを思い出し、
くまの赤ちゃんを箱ごと抱えてベンチに戻りました。
ほ乳瓶など持っていなかったウイングさんは、
しばらく考えて、ミルクを口移しで飲ませてやることにしました。
「少し待っていてくださいね。今ミルクを飲ませてあげますからね。」
ウイングさんはビンのふたを取り、ミルクを口に含んで、くまの赤ちゃんの口に流し込みました。
そして、何回かその作業を繰り返すと元気を取り戻したらしく、口を離してウイングさんの頬をペロッとなめました。
どうやらくまの赤ちゃんはウイングさんを気に入ったみたいです。
「コラコラ、やめなさい。くすぐったいですよ。そんなことしたら連れて帰っちゃいますよ。」
すると今度は頬をウイングさんにすりつけてきます。
そのあまりの可愛らしさに、キュピーン!と何かがはじけました。
「よしよし、おまえは今から私の子だよvv。」
かくして、くまの赤ちゃんはウイングさんに飼われることになってしまいました。
これで暇を持て余していた毎日が楽しく過ごせそうです。
それに、動物に好かれるのは、優秀なハンターの条件なのです。
部屋に帰ってきたウイングさんは、とりあえずくまのあかちゃんの体力を回復させるために
自分のオーラを少しずつ送ってやることにしました。
当の赤ちゃんぐまは、初めて見るウイングさんの部屋の中を物珍しそうに見回していました。
「おいで。」と手招きすると、赤ちゃんぐまは素直にウイングさんのひざの上に乗りました。
「いい子だね。」
ウイングさんはそう赤ちゃんぐまをあやしながら、気付かれないように練を行って
段々と送るオーラの量をふやしていきます。
その瞬間・・・・
くまの赤ちゃんはまばゆい光に包まれ、その光が天に向かって伸びてゆきました。
そして、まわりがサイバーな背景に支配されます。
「ベビーベアモン 進化! ズシマルモン!!」
(↑デジ○ンアドベンチャーちっくに・・・)
なんと、光の中から現れたのは、半獣の少年です。
ウイングさんは混乱しました。
「な・なんですかあなたは・・・!!宇宙人だったりしませんか・・・・?」
「・・・ズシ丸っちゅ。」
なんと驚いたことに、人間の言葉が話せるようです。(←赤ちゃん言葉だけど)
「どうして急に人間の姿になったのです!?」
「お腹いっぱいで、元気になったからっちゅ。」
およそ想像とかけ離れた答えに、ウイングさんは眩暈を感じました。
「うーん、・・・・・・・もしかして魔獣というやつですね。」
「なんちゅか、それ」
ズシ丸は大きなお目めをぱちくりさせて、不思議そうにウイングさんを見上げました。
そして、小首をかしげて、また目をぱちくり。
その仕草が犯罪的なほどラブいので、思わずウイングさんは抱き上げて、すりすりしてしまいました。
「んぅ・・・くちゅぐったいっちゅ。」
ズシ丸は、すりすり攻撃から逃ようとしましたが、ウイングさんの力がすごくて出来ません。
「コラ、おとなしくしないと食べてしまいますよv。」
するとズシ丸の、ぬいぐるみみたいな耳がぴくっと反応して、急におとなしくなりました。
さすがに食べられてしまうのは嫌みたいです。
そして、なんだかかわいそうになってしまうぐらい目をうるうるさせます。
「・・・・食べちゃイヤっちゅ・・・・・。」
そんな目で見つめられたら、今度は違う意味で食べてみたくなってしまいます。
ウイングさんは段々と変な気持ちになってきます。
「ハハ、食べたりなんかしませんよ。その代わり、味見させてくださいなv。」
そう言ってウイングさんはズシ丸の身体をまさぐり始めました。
四肢は、茶色くてふかふかの毛で覆われて、おしりにはちっちゃな可愛いしっぽが生えています。
「かわいらしいしっぽだねvv。」
短いしっぽをきゅっとにぎると、ズシ丸は「きゃうん!」と高い声を上げました。
意外な反応にウイングさんは一瞬驚きます。
(・・もしかして・・・・・)
さっきよりも少し強くにぎってみると、「ひゃっ・・・!」とかわいい声とともに腰を揺らします。
それに気をよくしたウイングさんは、しっぽをくすぐります。
「んん、っや・・イヤっちゅ!」
ズシ丸は頬を真っ赤に染めて、いやいやをします。
(やっぱり・・・vvv。)
段々とウイングさんのイタズラがエスカレートしてくるので、
耐えられなくなったズシ丸は、ウイングさんの腕に噛み付きました。
いくら子供とはいえ、皮膚に突き刺さる犬歯は、とんでもない攻撃力です。
そのあまりの痛さにウイングさんはポロポロと涙をこぼしながら、ズシ丸の頭を叩きました。
「コラ、痛いじゃないですか!飼い主に歯向かうとはどういうつもりです!」
すると、ズシ丸はお耳をぺたんと寝せて、涙目でウイングさんを見上げます。
こうなるともうウイングさんの負けです。
「ああっ、ごめん。 今のは私が悪かったね。」
少し情けなさそうに頬を紅く染めたウイングさんが笑いかけます。
それを見て、ズシ丸もニコっと笑いました。
しばらくして夜になると、ズシ丸は赤ちゃんぐまの姿に戻ってしまいました。
どうやらまたお腹が空いてしまったようです。
「がうがうがう!(お腹ちゅいたっちゅ!)」
ウイングさんの脚にまとわりついて、食べ物をくれとおねだりをはじめました。
ウイングさんは、冷蔵庫をあさりますが、今日はお買い物に行かなかったので、
何にも食べるものがありません。
しょうがないので、おなべに入っている、昨日の残りのおでんを火にかけました。
ズシ丸は、早くくれとウイングさんのズボンに爪をかけてひっぱります。
「もうちょっと待ってくださいね。すぐ出来ますから。」
まわりにいい匂いが広がるので、赤ちゃんぐまの目は期待で輝いています。
「ほら、できましたよv。」
ウイングさんは平たいお皿にちくわを1本とって、ズシ丸の前に置きました。
すると、ズシ丸はすごい勢いでちくわにかぶりつきました。
「あ、少し冷まさないと熱いですよ!」
ウイングさんの注意は間に合わず、ズシ丸はあまりの熱さにびっくりして、
白目をむいて飛び上がってしまいました。
ウイングさんは、やれやれと苦笑いして、ちくわをふうふうと冷ましてズシ丸に持たせてやりました。
ズシ丸は、それをは両方の前足で持って、はぐはぐとおいしそうに食べました。
「ぷうっ、」とお腹をふくらませたズシ丸は、また光を放って半獣の少年の姿に戻りました。
そして半獣の姿に戻るや、ズシ丸は大あくびをします。
「ふわああ・・・、眠いっちゅ・・。」
ズシ丸は、あくびで涙のたまった眼を前足でこすりました。
「おやおや、おねむですか。今日はもう遅いし、寝ようか。」
ウイングさんはズシ丸を抱え、寝室に連れて行きました。
そして、自分のベッドの横にちょうどよい大きさの木箱を置いて、中にふかふかの毛布を敷いてやりました。
「ここがズシ丸のお布団ですよ。」
「おっちゅ。」
木箱の中に優しく置いてやると、ズシ丸は丸くなって、大きな目を閉じました。
ウイングさんはそれを笑顔で見守って、自分ももう寝ることにしました。
「おやすみ、ズシ丸。」
ウイングさんは明かりを消して、ベッドに入りました。
それから2分ぐらいすると、ズシ丸が木箱の中でなにやらゴソゴソと動き出しました。
そして、ウイングさんのベッドの上に這い上がり、布団の中に入ってきました。
「どうした?寝たんじゃなかったのかい?」
「・・・暗いの怖いっちゅ・・・・。」
なんて可愛らしいお返事なのでしょう。
胸キュンのウイングさんは、ズシ丸を抱き寄せました。
「なら、私といっしょに寝れば怖くないでしょ?」
「おっちゅ。」
こうして、ウイングさんとズシ丸は一緒に寝ることになりました。
ウイングさんは幸せをかみしめながら、眠りに落ちてゆきました。
次の朝、
ベッドのシーツに大きな染み。
犯人は言わずもがな。
このままシーツをバルコニーに干せば、勘違いされること請け合いです。
「ごめんなちゃいっちゅ・・・。」
ズシ丸はうるうると涙をためて、上目遣いでウイングさんに許してもらおうとします。
その可愛らしさにやられて、ウイングさんは許してしまいました。
「そんなに気にしないでもいいですよ。ハハ・・・・」
ウイングさんは、かわいいしっぽが隠れてしまうのは少し惜しいけれど、
ズシ丸におむつをはかせることにしました。
そして、泣く泣くシーツをバルコニーに干しました。
「あのシーツ干してある部屋って、確かエリートのウイングさんの部屋よね?」
「やーね、いい齢して。」
外からおばちゃま達の立ち話が聞こえてきます。
しっかりと聞いてしまったウイングさんは、目に涙をためて、いじけてしまいました。
そこに悪魔の一言。
「洗ってから干ちぇばよかったっちゅのに。」
「ふぇぇぇ〜ん、ズシ丸のいじわる〜〜。」
ウイングさんは情けなくも泣いてしまいました。
おしまい
<あとがき>
ハンターキャラで、デジモンをやったらどうなるか、と思って書いた小説です。
書きながら、「カワイ〜vv」独りもだえていました。 もうダメ人間ですね。
近いうちにズシ丸のイラストを描いてUPします。
(前のHPにはUPしてあったんですが・・・。)
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