「貴女、まるで囮みたいだってずっと思ってたの。やっぱりそうだったのね」 非難の色を乗せてそう口にすれば当然でしょう、とでも言うように彼女が笑った。 立てた人差し指を軽く振りながら唇だけ持ち上げる笑み。不敵な笑顔に何故だかとてつもなくいらついた。 「貴方には、気付かれるんじゃないかなって思ってた。やっぱりね」 「やっぱりね、じゃないわよ。気付かれる云々より先に言っておいてくれれば」 「言えばどうなった?」 同じことでしょ、と言外に込めた口調。 「ほんもののプリンセスのこと、未熟なあなたたちに知らせればあたしが囮だなんてすぐにばれちゃうじゃない。それじゃあ意味ないもの。プリンセスが目覚めるまでは、あたしがプリンセスだって演じとおさなくちゃ」 「それは…そうだけど!」 むかついたが百歩譲って美奈子の強調した"未熟"という言葉への反論は飲み込むことにした。最初に覚醒し一人きりで戦ってきた美奈子に比べれば自分達が戦士として未熟なことは悔しいけれど事実だ。けれど。 レイはきっ、と目の前の美奈子の目を睨んだ。真っ直ぐと。 「だからって貴女は、自分を大事にしなさすぎよ!」 レイの叫びに、ほんの刹那美奈子の双眸に漣のような揺れが走ったのは気のせいだろうか。直ぐに彼女はくすりと笑ったからレイにはそれがわからない。 「…あたしは、ヴィーナスだもの。戦士のリーダー。プリンセスを、星を守ることが、使命」 「本当に、そう思ってるのね」 「当たり前でしょ」 「…だったら。本当にうさぎを、あの子を守りたいって思うんなら!絶対に無茶なんかしちゃいけないんだわ!」 「…マーズ」 「あたしは火野レイ、マーズじゃない。うさぎだって亜美ちゃんだってまことだってそう。皆仲間なの、貴女も。仲間の貴女がひとりで傷つくこと、誰が望むって言うのよ!」 「…傷つこうが倒れようが、守るべきものはあるのよ。あなたはまだわかってないのね」 「わかりたくもないわ、そんなこと」 「だから、平行線なの。あたしたちは。…だからあたしは、あなたたちとは別のアプローチで戦うしかない。じゃあね、マーズ」 「待って、話はまだ!」 「仕事があるの、ラジオの公開録音。遅れるわけにいかないでしょ」 軽く手を振れば美奈子は踵を返し歩き出す。レイはその後姿を唇を噛んでただ見つめた。 「…うさぎはプリンセスとして目覚めたじゃないの。どうして一緒に戦わないのよ…」 あたしたちが未熟だからとか、そういう問題だけじゃないことはわかった。 何か切実な理由があって美奈子は自分達と距離を置いている。 多分それは「星を守る」とか「プリンセスを守る」とか言う理由とは別のところにあるのだと、直感めいたものがレイに知らせていた。それが何かまではわからないけれど。 「むっかつく…」 呟いたレイの表情が言葉に反して泣き出しそうなものだったことは本人以外誰も知らない。 「…美奈子。マーズ達と一緒に戦っても、いいんじゃないのか?君が一人で戦い続けるのは、あまりにも…」 つかつかと歩き続ける美奈子の腕の中にあるエナメルの鞄からひょこりと顔を出したのはぬいぐるみの白猫。彼、アルテミスが気遣わしげに美奈子を見上げ声をかける。 「いいの。決めたんだから」 プリンセスが背負う筈だった病による死という運命を、自分が肩代わりして背負うと決めたときから、自分は仲間達と一緒にいるわけにはいかなくなった。 一緒にいても悲しませるだけなら、側になどいない方がいい。 悲しい決意が真っ直ぐ前を向く視線に現れている気がしてアルテミスの胸は痛んだ。 「ね、アルテミス…マーズ、怒ってたね」 「多分、泣いてるよ彼女」 「どうだろ、あたしの自分勝手さに怒ってるんじゃないかな」 その方がいい、と軽く皮肉げに笑いながら美奈子は敷石の上を大きなストライドで歩き続けた。 --------------- 実写版+自己設定セラムン。美奈レイ友情万歳、負けず嫌い意地っ張りコンビ(笑顔) ちなみに美奈子は確かに最初に覚醒しているけども確実にレイちゃんの方が強さは上だと。美奈子と言えば倒れてるシーンってくらいやられ役定着してるしな。もっと強いとこ見せてほしいってくらいに(爆笑) |