屋上に立ち、仰ぎ見るのは夜の空。桜も漸く綻び始めた三月末、春先とは言えど夜になるとまだまだ寒い。吐く息が白く、群青に溶けてく。
たまに唐突にチーフが提案するこういったイベント事は嫌いじゃない…どころでなく、好きだ。
特に寒空の下、星を見ることは。頭の芯がきん、と冷える気がして僕は大好き。頭の回転が良くなる気がして。偽薬効果?そうかもしれないけど、寧ろそれでもいいや。

「こんな寒いのに天体観測かよ、全く明石もどうかしてるぜ…」
寒そうに首竦めつつぶうたれている真墨の、けれどその目は真剣に天を追っている。向くのは南天…流れ星を探している。
「あ、みて真墨、今流れたの!」
「嘘だろどこだよ!」
「あっち、あ、また!」
追いかけっこをするように流れる星を指差し騒ぐ二人の声。
乙女座流星群は然程流れる星の量が多い訳じゃないから騒ぐのも当たり前…なんだけど、それってぼやいてる人間の行動じゃないよね、真墨。ああ、菜月ちゃんに腕引っ張られちゃって、むきになってるし。
可愛らしくて和むなあ、なんて今は言わない。後で真墨をからかう材料に取っておく。菜月ちゃんは大喜びするだけだろうし、問題無し。
「ね、さくらさん、さくらさんも見たでしょ!?」
「…ええ、見ました。綺麗でしたね、とても。花火みたいで」
「ねー、しゅばっ、て燃えたよね今さっきの星!」
「っ、くそ!いいさ次は俺も見てやるからな絶対に!」
「大丈夫ですよ、まだまだ星は流れます…屹度、多分」
「ねー、そうだよねー」
「っ、なんだよ其処結託して、ってかさくらねーさん、何で語尾微妙に濁すんだか!」
「済みません、嘘は吐けない性質なんです」
さくらさんも巻き込んで大騒ぎ始める新人二人組。菜月ちゃんが嬉しそうに真墨とさくらさんの腕を其々片方づつ抱き込んでえへへーあったかーいなんてやってる姿も…日常になってきているけれど。
思わずくすくす笑いつつ、僕より少し前に立った人にチーフ、と呼び掛ければ何だ、とばかりに振り向いてくれた。
「こんな賑やかな中で星見るのって、初めてじゃないです?」
首傾げて笑ってみせれば、少しの間と瞬きの後に、応えが返ってきた。
「ああ、全くだ」
「でも、いいですよねなんか」
「ああ」
ひとつ頷けばいい夜だななんて笑いながら堂々とまた空を見上げた。

細くも眩くひかる月の光を背にして立つ、その人を見つめる。
この人が今ここにいるのは…会ったことのない彼等のお陰だ。僕はそっと祈りを捧げる。ありったけの感謝の言葉に、ほんの少しごめんなさいの気持ちを混ぜて。
屹度、あなたたちがチーフといた風景を、塗り替えているのだろう自分達を許して。許してくれなくてもやめる気はないですけど、もうチーフは僕達のものだから。大事な大事な僕達のチーフを、過去に引き渡す訳には決していかないんだ。
見上げた空に、つい、と赤く流れる星がまたひとつ。目にかかった瞬間反射的に手を組んだ。
流れる星に願うのは、決して死なないこと。全員、誰一人として欠けないこと。チーフの傍から、もう誰もいなくならないように。
彼等に感謝はするけれど、同じ轍は絶対に踏めないこともわかっている。守る為にわざと犠牲になるとか、そんな。僕たちがそれをやらかせばチーフの心の古傷をさらに深くえぐることになるから。
その為には強くならなくちゃ。…これは願い事とは違う、自分で努力したいこと、必須項目。いろんな意味で。
ふと、菜月ちゃんに腕を取られていたさくらさんが此方を向いた。目が合った瞬間に軽く微笑んでみせた彼女も…うん、多分似たようなことを考えてるんだろうな。
露を降らせ、ふとくちびるからこぼれおちたフレーズにその人が再び振り返った。ケンタウルスにはまだ早いぞ、蒼太。楽しそうに笑う人に、僕はただ満面の笑顔で返した。

---------------

ケンタウルス、露を降らせ。って18、9の時にはまりました賢治先生。
と言うか私、チーフ大好き過ぎですか。そうですか。だが私は謝らない。(お約束)






b a c k







PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル