ロードワークの途中、坂を上りきった場所でひとつ息を吐けば鮮やかな黄色が目に飛び込んできた。 其処には大きな煉瓦造りの洋館があり、四季折々の花が目を楽しませてくれるのだが、この花の存在をすっかりと忘れていた自分に暁は小さく苦笑する。花がつかずとも葉で大体の樹木の判別はつくし、分かりやすい部類の木なのだが。 其処此処で今を盛りと咲き誇る満開の桜に見惚れていたのが敗因だな、そう肩を竦めれば再び走り出す。 帰りには花屋に寄って帰ろうと思いながら。 「で、こんなに沢山買って来られたんですか…お花」 色とりどりの花に埋もれるようにしてサロンに帰ってきた暁の姿を見て目をまんまるくさせたさくらが慌てて彼の腕から枝を受け取った。 自分達のチーフが花に埋もれて帰ってきたと言うだけで驚きなのに、それは花束でなく、花枝なのだ。しかも沢山。よくまあ平静に近い声が出せたものだ、とさくらは自分で自分を少し褒めたくなった。 「ああ、欲しくなってな。つい」 「それにしてもえらく無雑作に買ってきましたねーチーフ」 しかも凄い量、と笑いつつほい、と手際よく花瓶を用意していくのは勿論蒼太。美しい花は嫌いではないらしく活ける手伝いまで買ってでているあたりが彼らしい。 「別に無造作って訳じゃない。それに、悪くないだろう?」 「そりゃ悪くはないですけど…どうしたんです?まさかサロンをお花畑にしたかった訳でもあるまいし」 「ね、ね、菜月、これ知らないよー?チーフこれ何のお花ー?」 菜月は見たことのない花に興奮気味で、自分の鼻を近づけてはくんくんと匂いを嗅いでいる。彼女の興味を引いているのは球状にちいさな花の集まった、ほわほわとした可愛らしい花の枝だ、彼女の纏う同色の。 「それはミモザって言うんだ。…本当はそれだけにしようと思っていたんだがな」 くしゃり、菜月の髪を撫でながら笑う暁の顔は本当に楽しそうだ。 「あ、さくらさんその桜にはこっち使いましょうよ」 染井吉野の大きな枝を抱えたさくらに、蒼太が足元の大きな壷を示した。そう言う蒼太の腕には見事な白梅。 「備前焼ですか…渋いですね。じゃあそちらの梅は…」 「んー、ちょっと外してボーンチャイナなんてどうです?これとか」 「…あ、結構合うものですね」 後ろで花鋏を使いアレンジも施しつつこちらも楽しそうに活けている二人を尻目に真墨がやれやれと言うように肩を竦めた。 「で、どういうとりあわせなんだこれ。ミモザに梅に桜に…林檎?全部木の花だって以外共通点もありゃしないばらっばらな」 「本当はミモザだけにしようと思っていたんだ。…ロードワーク中に見つけてな。その時、菜月の顔が浮かんだんだ」 「え、菜月の?」 自分を指差す菜月の表情はぱあっと明るい。チーフが自分を気にかけてくれているのが素直に嬉しい様子…普段から「自分に居場所をくれた人」だと子犬のように懐いているのだ。 暁も楽しそうに頷き返した。 「だが菜月の花だけ買って帰るのも…不公平と言うか、なんだかつまらん気がしてな」 「え、それじゃあ」 「もしかして、これ全部僕達のイメージ、なんですかチーフ?」 蒼太の問いには照れくさそうな笑みと頭を掻く仕草が返る…肯定しているようなものだ。 「えーと、菜月はこのミモザなんだよね、じゃあ桜がさくらさんで」 「否、桜は蒼太だ」 「え、僕ですか」 言われた蒼太が目をまんまるくする。周囲も同様、皆桜といえばさくらを連想したらしい。 「寒い時は出てこない癖に暖かくなると途端にはしゃいで咲き出すだろう、蒼太らしいなと思ってな」 「えー、ひどいですよそれ」 むくれ気味に笑う蒼太の肩にぽん、と手を乗せながらくくくく、と笑う暁。まーいいですけどね桜綺麗ですし、とまんざらでもない様子なのは暁の言い草と言動に慣れている所為かもしれない。 「えー、じゃあじゃあさくらさんはー?」 「さくらは、梅だな。寒い時期に凛と花開く辺りがそれらしい」 「あー、成程!言われてみれば!」 暁の言葉に、ぽんと手を叩く蒼太。 「…有難う御座います」 「あ、いいなあさくらさん、チーフに褒められてるー」 照れ笑うさくらにじゃれつくように菜月が飛びつく。ふたりとも可愛らしいなあと目を和ませるのは蒼太ばかりではない。 「ええと、菜月がミモザですよね、となると…」 抱きつく菜月を支えるように立つさくらが首を傾げた。蒼太も目をぱちぱちと瞬かせる…これは存分に作為も入って居る気もするが。 「え、真墨林檎?なんでまた」 「いや本当は蒲公英にしようかと思っていたんだがそれではあまりにも」 「待てよ俺は雑草かよ!」 「蒲公英を莫迦にするなよ、生命力は強いし何より食える」 「あんた食えりゃなんでもいいのかよ!」 きーきー突っかかる真墨にマイペースな暁。いつものことだがこの侭では有耶無耶になるなー、とばかりに蒼太が挙手した。…ちなみに女性陣はいつものことだとほっぽっていたりする。 「もしもーし脱線中失礼しまーす、でもってなんで林檎ですか、真墨」 「ああ、実が食えるから。真墨は確実に花より実を取るタイプだろうと」 「やっぱり食えりゃなんでもいいんじゃねーかよ!」 「あー…」 「まあ、真墨はそんな感じが確かにしますよねー」 「真墨食べ盛りだしねえ、いっぱい食べるもんねええ」 「其処全員揃って納得しまくってんじゃねー!!!」 「だって可憐だから林檎の花ー、とか言われるよかよっぽど納得行くじゃんか」 「そんな理由だったら鳥肌ものですよね」 「よねー!」 「菜月お前までー!」 四人の会話に耐え切れず暁が腹を抱えて笑い出すのも時間の問題。本日のボウケンジャーは平和そのものである。 しかし私が書くとどうしてこう「パパと子ども達」の図になってしまうのかボウケンジャー。 本編もそうだからと言うツッコミには一応小銭入れキックを(番組違) |