観覧車が嫌いだった。
狭い場所が苦手な訳じゃない。高い所は寧ろ好きな部類、ビルの屋上やセスナはわくわくする程楽しいし、番組の収録でやったスカイダイビングなんか最高に爽快で何度だってやりたいくらい。けれど、観覧車だけは駄目だった。どうしても。
何故だか、胸が締め付けられるように痛む。

「前世で報われない恋でもして、その相手と観覧車に乗ったりでもしたのかしらねェ…美奈子」
事務所の社長はそう言って笑った。
あたしのプロ意識は知ってるから、笑える。あたしが、どんなに苦手なものだろうと仕事ならば笑顔でこなせること、知ってるから。
それでも極力、嫌いなものは避けられるようにしてくれてる辺りは有り難かった。いい事務所に入ったなと思う。

でもどうしてなんだろう。
たかが観覧車、そんなものに自分の心が左右されることが…気に食わなくはあるのだ。
ざわざわざわと心がさざめきたち、何故だかものがなしく、切なく、あたしの胸を痛める。たかが鉄筋でできた乗り物のくせして。
…社長の言ってること、当たってたりするのかな。未だ恋愛なんてしたことないからよくわかんないけど。
でも少し違うような気もする。この胸の落ち着かなさは、もっと何と言うか、心臓に直結した、なにか。
そう、例えば、運命。
そんなものに似てる、ふと思った。
逃げられない、のかな。そしたら。そんなのも、気に食わない。

そういえば何か大事なことを忘れている気もする。とても大事な何か。
レコーディングのスケジュールもラジオの公録の日も覚えてる、取材の日も忘れてない…そのあたりはあたしが忘れててもマネージャさんや社長が忘れる筈もない。勿論あたしだって忘れたりしない、これでもプロ意識だけは誰にも負けない。小中学生に人気のアイドルだけで終わるつもりはさらさらない。
でもだけど。
心臓の奥底から、ふつふつとなにかが泡みたいに耳元に囁く。
「このままでいいの?」
…でもあたしには、今のあたしには何がどうこのままなのが悪いのかいいのか判別なんてつきはしない。
なにがいけないの。囁くくらいなら教えてよ。叫びだしたくなるけれど。

観覧車。光の凝った午後。
並んで食べた、ショートケーキ。
「イチゴは最後だよね!」
弾んだ声、逆光で顔が見えない、あれは誰だった?

思い出せなくて苦しくて、ブーツで何処か蹴り飛ばしてやりたいと思ったけど傷が付くからやめた。代わりに階段下りる最後のとこでヒールを殊更高くかん、と鳴らして下りた。

「美奈子ちゃん!」
「美奈子!」
誰かがあたしを呼ぶ声が聞こえる。
ひとときだって忘れていていいものでなかった、それを思い出すのは…もう少しだけ、先のこと。

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セラムン最終回、リセット後且つ皆のこと思い出す前の美奈子。
最終回後全員集合の彼女達の幸せな話とか、見たい。物凄く。





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