音がする。
心の奥でぱちぱち弾ける音。
まさか本当にそんな音が胸の奥でしている訳もない(そんなの病気じゃない!)
の、だけど。
耳を澄ませば聞こえるの。ぱちん、ぱちん、ぱちん、って。
あれみたい。グラスに注いだサイダーがはじけてぱちぱち立てる音。

いつも明るくスマイルでいるのがポリシーで、いつも元気に笑っているのが大好きで、そんな自分のことがだぁいすき。
…なんだけど。
時々疲れちゃうこともある。理由もなく。
スマイル分のエネルギーがどっかパイプが詰まってぱったり供給されなくなっちゃう感じ。
突然ね、すとんって。自分でもわかんないくらい唐突にストップしちゃうの。
で、どっかで行き場がなくなって、もやもやしちゃう。
例えば、いつもの直らない寝癖に、絶望したくなってみたり。
例えば、ジャムのふたが上手くあけられないって、それだけでわんわん泣き出したくなっちゃったり。
…大声出さないけどね。
だって、皆心配するもの。
だって、あたし、ひとりじゃないんだもの。

本当の本当に辛くてどうしようもないときには仲間がいる。
あたし、ちゃんと知ってるんだから。皆は本当の本当に頼りになるし助けてくれるのも知ってるよ。
だけど、結構頻繁に訪れる、こんな感情をいちいちぶつけるのはあたしがやなの。
こんな気持ち、男の子にはないのかな。女の子だからかな、あたしが。
女の子でいること、好きなのに、こういうときにはたまに厭になってみたりして。
あぁ、何だろう。

「早輝」
じっとしてるのも何だし、と部屋から外に出たところで大きな影とぶつかりそうになった。
…正確にはドアと走輔がぶつかりそうになってたんだけど。
「…そーすけ?」
なんであたしの部屋のドアの前に居たんだろう。
「ん」
そう言って突然あたしの目の前に差し出してきたのは、こないだスーパーで見てちょっといいなーなんて思ってた新製品の桃のゼリーで。
「その…なんだ」
「なに。わかんないよ」
「とにかく食え!」
「ええ?」
「ほら、美味いもの食うと幸せな気持ちになんだろ」
挙動不審のまんま、あたしの手にゼリーを押し付けて走輔はばたばた部屋に戻っていった。
「…もう、ほんとわかんないよ走輔」
手に残った桃のゼリーにはスプーンがついてなくて、そんなところもなんだか走輔らしい気がしてちょこっと笑った。




せっかくもらったんだし、とキッチンにスプーンを取りに来ると連が洗い物をしていて、軍平が手伝ってお皿を拭いていた。
軍平って結構いろいろ手伝ってるのよね。見えないところで。ちょっと偉いなと思うとこ。
「あれ、早輝」
「どうした」
「うん、走輔がくれたんだけど、スプーンなかったから」
手の中のゼリーを軽く振ってみせたら連が噴き出して軍平が「あいつ…」とか呟いて軽くおでこをおさえてた。
「なぁんかそういうとこ、すごーく走輔らしいよねー」
「あはは、そうっスね」
笑いながら連がはい、とスプーンを手渡してくれた。黄色のチェックの柄のスプーン。あたし専用。
全員分の色を範人とふたりで選んで買ったお気に入り。皆使ってくれてる、軍平だって最初見たときは抵抗あるような顔してスプーンを睨んでたけど、その後は当たり前みたいにして使ってるんだ。
受け取って、ありがとう、って言って椅子に座る。
ふたをあけたらとろりとしたピンク色が見える。甘い桃の匂い。人工的に作ってるのかもしれないけどすごく好きな匂い。うっとり目を細めちゃう。

「甘いな」
見上げるとお皿をしまい終えたらしい軍平がこっちを見てた。
「軍平、桃もだめなの?」
軍平が眉を上げてちょっぴり苦笑気味に笑う。
「いいやだめじゃない。果物は嫌いじゃないからな」
「甘過ぎなければ軍平は結構色々食べるっスよね、早輝のケーキも美味しいって食べたし」
「…あれは俺でも食えたからな。あれは」
…軍平の視線が遠くを見るようなものになったのはどうしてだろう。隣の連もにこにこしながら首傾げてる。
「ああ、夏の匂いっスね。夏休み、って感じ」
椅子を引いて、連があたしの隣に座った。
「桃が?」
「俺はそんな気がするっスよ、夏休みになると出してたから」
「夏休みに桃食うのが定番ってことか」
軍平も椅子を出して座る。あたしを真ん中にしてこの三人で一列に座るのって、珍しい気がするなあ。
「ううん、うちの水菓子で出してた」
「ああ。家、割烹旅館だったっけか」
「うん」
だからなんだか懐かしい気がする、って言って連が笑った。
「匂いは記憶と直結するものだからな」
「鮮やかに思い出すっスね」
「プルーストのマドレーヌの例を挙げるに及ばず、な」
「わざわざそんな小難しいこと言う必要ないっスよ、普通に俺達色々知ってる事例で同じことが沢山あるんだし」
「桃とか」
「早輝のケーキとか」
「…ケーキならいいんだけどな。ケーキなら」
「なーんか、連と軍平って地味に仲良しだよね」
「あはは、地味にって何、早輝」
「…当たり前だろう、仲間なんだから」
なんでもないいつもの会話なんだけど、不思議にほっぺたのあたりが緩むのはなんでだろう。
「ね、連、軍平。スプーン持ってきて?」
「スプーン?」
「早輝、もう持ってるだろうそこに」
「じゃなくて。連のと軍平の。あたしのとおそろいのじゃなきゃやだよ」
まだ口をつけてない桃のゼリーを指差してにっこりと笑ってみせる。ちょっぴりいつものスマイルに近付いたかも。
「一緒に食べよ、ね?」

三人で頭突っつき合わせておそろいのスプーンで食べた桃のゼリーは、連が言うように夏休みの味がした、気がした。
桃の匂いをかぐ度にあたしはこれを思い出すのかな。連が夏休みを思い出すみたいに。
ちっちゃい容器に三人でスプーン突っ込んで、走輔にもらったゼリー食べたこと。
そんなこと思ったら、サイダーの泡の音が柔らかく耳に響いたみたいな気持ちになった。
どうしてかな。あんなにどうしようもなく止めたいのに止められなかった音が、なんだか包まれるみたいで心地良いかも、なんて。

「あ」
「どうしたっスか早輝」
「いけない、あたし、走輔にありがとうって言ってなかった」
「なら、後で言えばいいっスよ。走輔喜ぶっスよ屹度」
「ああ。後で言っても間に合うだろう。彼奴のことだ、喜ぶ気持ちの方がでかくて気にしないだろ」
軍平がぽん、と頭に置いてくれた手が、なんか凄くあったかかった。




連と軍平と手を振って別れて、走輔の部屋の前に行こうとしたら頭突っつき合わせてこそこそしている二人組にぶつかった。
「…どうしたの範人、走輔も」
「あ、早輝」
「おう早輝」
「なにしてるの?」
「いやあ、作戦会議と言う名の駄目出し?」
「なにそれ」
「なんでもねーよ」
「それより早輝、はい。持って」
「…なんで?」
「花束。いっぱい抱えると華やかな気分にならない?」
「…これ、範人のバイトの花じゃん」
「そうだけど、まあ気分味わうには良くないかなって」
「気分?」
「綺麗なものいっぱい抱えてると気分も釣られるってこと。僕そうだけどな」
「…ありがと、範人」
それってどうなのって思わないこともないけど。笑えて仕方がない。へんなふうに。
ほんと、何の作戦会議してたの、このふたり。
「走輔も、ありがとうね」
なんだかふてくされた顔して見てた走輔に、満面の笑顔でお礼を言ったらびっくりした顔してた。
あはは、変な顔。思ったけど言わない、あたし空気の読める子だもん。代わりに言うのは別のこと!
「ゼリー美味しかったよ、ありがとう」
「おお、幸せな気持ちになるだろあれ」
「あれ、走輔も食べたの?」
「食ってねーよなんかでも早輝の好みそうだなーって思ってさあ」
「ってね、自分のおやつ用にこっそり買ってたの早輝にーって回したんだよこのひと」
「あ、てめ範人!」
つかみ合ってぎゃーぎゃー子どもみたいに騒ぐ二人組みがおかしくてあたしはお腹抱えて笑っちゃった。
「うん、もう炭酸とか言ってらんないよこれ」
サイダーの泡の音もかき消されるくらいに賑やかなんだもの!
「ん、どうした早輝、炭酸飲みたいんなら明日買いに行くまで我慢しろよ今持ってないからな!」
「走輔どっかに隠してそうだけどね」
「ばっ、隠してねーよ!」

いっぱい笑ったら、どっかで詰まってたスマイル分のエネルギーが上手く回り出したみたい。
ああ、今まで上手く回ってなかった分があふれ出しそうなくらい。
また明日からは満開のスマイルができると思うのよ!



拍手お礼でした。
つまりは早輝ちゃんが世界で一番お姫様、という話です。(ええええ

走輔は優しい子なんだけど、女の子にどう接していいかわかんない感がばりばりだと思います。
連さんはオカンの面目躍如というか。
意外に軍さんが早輝ちゃんの扱い上手い気がするんですよねえ。
本編での早輝ちゃんの軍さんへの懐きっぷりは異常だと。けしからんもっとやれ。
範人君と早輝ちゃんは双子っぽいのね。きゃあきゃあ騒ぎつつ。

ゴーオン五人大好き。
ウイングスも大好きなので、もうちょっと修行してからがんばります。



b a c k







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