あたしはじっと読んでいた本から顔を上げた。
「三木っ、あたしと三木が海でおぼれたとするよ」
「はあ?いきなりなんだよ」
縁側に腰をかけて火縄銃を磨いていた三木ヱ門も顔を上げる。
「それで、そこに一枚板が流れてくるの。それには一人しか乗れないんだけど、
三木ならそんなときどうする?」
カルネアデスの板
「………って、いきなり言われてもなあ」
「いーから答える!自分が乗る?あたしを乗せる?」
「そこは陸から近いのか?」
「遠いんじゃない?」
「流れは速いのか?」
「さあ?」
「サメとかいるのかよ」
「どうだろう」
「そんなんじゃ答えようがねえよ」
「えーっ、答えてよ!!」
「あーもー時と場合によるよ」
「じゃあ時と場合によってはあたしを海に沈めるって事?」
「何言ってんだ!んなわけないだろう!!」
「っちょ、なに本気で怒ってるの」
「怒ってない!」
「怒ってるじゃん。もーいいよ、三木の怒りんぼ!」
あたしは立ち上がってさっさとその場を去った。
ぽつんと取り残された三木ヱ門は、頭を抱え込んでしまった。
男は最愛の人と旅行に船で出掛けた。
ふたりは相思相愛で、誰よりも理解しあい、互いにかけがえのない存在であった。
まさに、素晴らしい航海だった。
しかし、突如の嵐によって船は沈没してしまった。
ったく、三木の奴なーんであんなに怒ったんだろ。
っていうか冗談じゃん?からかっただけじゃん。
頬を膨らませて闊歩するの前に一年は組の三人が現れた。
「あっ、さん!」
「乱太郎、きり丸、しんべえ!」
「あれ、なんすか、その本」
きり丸がの手の本を指差していった。
「これ?あ、そだ。これから質問するからちょっと答えてくれる?」
「えー、僕の好きな食べ物はね〜、」
「しんべえ違う違う」
「あのねえ、自分と自分の恋人が海でおぼれたの。そこへ一枚の板が
流れてきました。それに乗れるのは一人だけです。あなたならどうしますか?」
きょとんとした顔の三人は、次にう〜んと考え込みだした。
「私なら…、相手を乗せます。だって私は泳げるけど、女の人は辛いと思うし」
「俺もドーカン」
「僕も〜」
だよなあー、と三人は顔を見合わせた。
はふむふむと一人頷いて、三人と別れまた学園内を闊歩していった。
男と恋人は海に投げ出された。
嵐は激しくなるばかり。このままでは二人とも海の藻屑になってしまう。
そこへ一枚の板が流れてきた。
二人はそれにしがみついたが、恋人が手をかけると板は沈みかけた。
それに気付いた男は無意識のうちに恋人を
突き飛ばした。
「あっ、仙蔵さーん」
前方で井戸で水浴びをしていた仙蔵を呼びかけた。
振り返り、端正な顔に笑みを浮かべる。
「どうしたんだ、」
「あのね、海で自分と自分の大事な人が溺れてるの。そこに板が一枚
流れてくるんだけどそこには一人しか乗れないの。さて仙蔵ならどうする?」
仙蔵は面食らったような表情をした後、ふっ、と微笑んだ。
「私は、そうだな。私がその板に乗るかな」
「どうしてぇっ!?」
驚いては大きな声をあげる。
「私はその人が居ない人生なんて耐えられないだろうし、それは
その人にとっても同じ事だと思うよ。永遠の生き地獄を味わってもらうより
私を憎んでくれてもいいから、一瞬の安楽に…従って欲しい。後の辛い事は
全部私が請け負うから」
仙蔵の笑顔はどこか寂しそうだった。
「そっか、そういう考え方もあるのか。ありがと、仙蔵さん!参考になったよ」
は仙蔵と別れてまた歩いていった。
佇む仙蔵は空を仰いで呟いた。
「私たちにとってはそう遠くない問題だな…」
呼吸と波が落ち着いてから、男は自分のしでかした事に気付いた。
最愛の女性を自らの手で荒れ狂う海に葬り去ったのだ。
男は震えていた。
じきに板は陸へと辿り着いた。
「おーー」
「あ、三木」
屋根の上から三木ヱ門が手を振っていた。
「…。上ってくる?」
「ん、行く」
梯子を昇って三木ヱ門の隣に腰を下ろした。
胡座をかいて猫背気味に空を見上げる三木ヱ門。
「あのさ、さっきの質問なんだけど」
人々は彼を仕方なかったのさと責めたりしなかった。
しかしある一人が彼を許さなかった。
彼自身だ。
彼は毎晩のように恋人の夢を見た。
暗い海の中に彼女は沈み逝くのだ。
彼に助けを求めながら。
とうとう冬のある朝、彼は自らに判決を下した。
「二人とも助かる方法は…その時になってみないと考えつかねえよ」
「は?」
「だから、二人とも助かる」
あちゃ。
考えても無かった。
絶対どっちかが板に乗れないもんだとしか…。
「はさ、それじゃ満足じゃねーかもしれないけど、俺これだ!
ってのは今じゃどうにも思いつかないから」
三木ヱ門が頭を掻くと綺麗に結った金髪がすこし浮く。
くつくつと笑っていると三木ヱ門が不思議そうな顔で見返す。
「いや、まさか、三木が真面目に考えるとは…」
「おまえ、俺を何だと思ってんだよ」
「まあまあ。ほら、髪結いなおしてあげるから」
三木ヱ門の後ろに回ってその金色の髪を結いなおし始める。
「〜、おれは滅茶苦茶考えたんだぞー!」
「わかってるわかってる!三木はちゃんとあたしも守ってくれるよね〜」
君の腕は私の手を掴んでくれるよね。
罪の報いと幸せの為に彼は一体どうすべきだったのか。
果たしてこの問いに答えはあるのか。
果たして彼は………………
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