とんとん。
障子の外で、壁を鳴らす音が聞こえた。
脇にあった灯りを持って、障子を開けてやると、目の前に、よく見る同級生の顔があった。
「よう」
「……潮江………」
すい、とそのまま閉めようとすると、隙間に文次郎が足を滑り込ませた。
「待ーてーよ。すまん、今晩泊めてくれ」
「はぁ!?何言ってんの?」
「はい騒がない騒がない」
油断していると、そのまま体も入ってきた。
そのまま遠慮のかけらもなく、ずかずかと部屋に入り、ごろりと布団に転がる。
「ちょ、布団乱さないでよ、じゃなくて!なんっでくの一寮にあんたがい・る・の・よ!?」
「バカ、騒ぐなってんだ。バレたらどうするつもりなんだよ、お前は」
「あたしは関係ありませーん、潮江クンが部屋に無理矢理押し入ってきましたーって言う」
「友達甲斐の無いやつめ」
「うるっさいわねー、そんなの言われたって気にしないっての。ほら早く出て行ってよ!」
「だぁ、もうそこ引っ張んな、いてえ!今日の見回り木下先生なんだよ!勘弁してくれ!」
「そんなことあたしには関係ないわよ、ほら!はーやーく…」
そのとき、独特の香りが、の鼻腔を掠めた。
「廓、でしょ」
文次郎は悪びれもせずに首を縦に振った。
は顔を歪めた。
「バカじゃないの、あたしまで巻き込まないでよ〜」
は呆れてがっくりと項垂れた。
文次郎はそれを見て愉快そうに、喉で笑った。
そんな彼は整えていた布団の上で、完全にくつろいでしまっていて、は彼を追い出すことが
どうでもよくなってしまい、ふらりと背を向けて、文卓に向かった。
「わーかったわよ、仕方ないわね。でもあたしの邪魔しないでよ」
そう言って、は文卓の前に腰を下ろしなおした。
「何だ、寝ないのか?」
「明日までの課題やってなかったのっ!邪魔しないでよね!」
と、それっきり文次郎の方には振り向かなかった。
サラサラと筆を進めて、半刻ほど経った。
一段落ついたので、筆を置いて思い切り伸びをした。
あと少しすれば、明日の授業で困ることも無いだろう。
あと一息、と文卓に並べて立てた本の一冊に右手を伸ばした。
そのとき、ぱし、と後ろからその手をつかまれた。
驚いて、振り向くと文次郎だった。
今まで、大人しくしていたので、すっかり眠ってしまったものだと思っていた。
「お前いつまでやってるつもりなんだよ」
「じゃーましないでよ、あとちょっとで終わるんだから」
離してよね、と手を振っても、文次郎には一向に離す気配は無い。
それどころか、左の肩にまで腕が回ってきた。
普段の彼からは想像もできないほど穏やかな所作で、違和感を感じる。
「ちょっと、やめてよ」
悪戯に髪を弄る指先がくすぐったくて身を捩った。
「お前」
流れるように文次郎が言葉を漏らした。
「今日、抱いてきた女に似てるな……」
その言葉の意味を聞き返す間もなく、思い切り体を引かれた。
危ない、と思ったが倒れこんだ先は、床ではなかった。
背中が温かい。
それが、文次郎の胸の中で、腰に彼の腕が回り込んでいることに気付くのに、少し時間がかかった。
の体は、完全にこの男に捕らえられていた。
「ばっ、な、何してんのよ!」
「あん?べーつーにー?」
「別にじゃないでしょ、ど・こ・触ってんのよ!」
「静かにしろよ、色気のねえ女だな」
「うるさいわね、関係な…ッ、きゃっ!」
文次郎は軽々とを持ち上げ、布団の上に下ろした。
その上に自分の四肢で檻を作り、を閉じ込める。
の体の上に文次郎の影が落ちた。
「ちょっ、冗談ならいい加減にしてよね」
「冗談でこんなことすると思ってんのかよ」
今までにないほど、真摯な眼差し。
こんな潮江は知らない。
見た事のない、男の顔の文次郎にに、の胸が高鳴った。
真っ直ぐに見ていられなくなって、ふいと、顔をそらす。
そんなに、文次郎は、にい、と笑い、首筋に顔を埋めた。
「っ!やぁっ、ちょっと、潮江やめてよ…!」
「騒ぐなよ。いくら離れた一人部屋でも、声出しすぎたら聞こえっぞ」
「そういうの、脅しって言うんだよ…」
「知るか」
「ちょっ、バカ、潮江!やめ…ッ、ふぅッん…」
の口を、文次郎は唇で塞いだ。
深さを変えて角度を変えて、文次郎は何度も何度もの唇を啄ばんだ。
優しくも、荒々しいそれには息苦しくなって、抵抗がおろそかになる。
その隙を見逃さずに、夜着の帯をしゅるり抜き取った。
驚いたは、思わず膝を文次郎の腹に叩き込んだ。
それを、文次郎は難なく手で受け止める。
「大人しくしとけってのに」
「ばっか…!できるわけないでしょう!って、きゃ!」
文次郎は、構わずの胸を揉みしだきはじめた。
もう止める意志のない文次郎を見て、は抵抗するのを止めた。
「馬鹿潮江〜…」
いやらしい水音が、静かで、薄暗い室内に響く。
は、顔を背けて、唇を噛んだ。
「声出せよ」
ぐるりとの中で指を回す。
「ひぁ…っ!」
やっとあがったの泣き声に文次郎は満足そうにわらった。
が、すぐにその笑みは薄暗い静寂に吸いこまれた。
「さっきのは間違い」
「…え…?」
「お前が、今日抱いてきた女に似てるっての」
ゆっくりと中から指を引き抜き、は思わず声を漏らす。
「お前に似た女を選んで、抱いてきた」
は霞がかった頭で、何とかその声を聞き取った。
「どうゆう…意味……」
熱に浮かされたような目で聞き返したに文次郎は軽く笑みを結んだ。
「言葉のまんまだよ」
文次郎はぐいと、の脚を担ぎ上げた。
「や、待って…、あたし、初めて………」
「あん…?安心しとけ、痛くしねえからよ」
「うっそ…いったー!!!んぐっ」
「だっから、静かにしとけって…」
「だって…、ふっ、痛い〜〜…」
ぼろぼろとの目尻から涙がこぼれた。
女泣かせんのは好きだけどよ、
好きな女、こんな風に泣かせて、何やってんだろうなぁ…。
「潮江…?」
はっと気付くと、の双眼が文次郎を覗き込んでいた。
文次郎は、吸い込まれるようにの唇に自分のそれを合わせた。
そして、舌を割り込ませ歯列をなぞり、それからの舌を追いかけた。
も、それに応えるようにおずおずと舌を絡める。
最初よりもずっと穏やかなそれは、を少し驚かせた。
名残りおしむように、離れるときに銀糸がつたった。
「痛くしねえから…」
耳元で、囁くような、けどとても綺麗に空気を震わした。
「…ん…」
ぶっきらぼうな一言に、なぜか、安心させられた。
腕を、文次郎の背中に回し、たよるように抱きしめる。
それを肌で感じて、口の端で笑うと、文次郎は自分をゆっくりとに突き入れた。
鋭い衝撃のあとの鈍痛に、は顔をしかめた。
「く…っ、は、大丈夫か…?」
「……………全然、痛い、抜け、そして死ね…」
ぎゅっと文次郎の背中に爪を立てて、涙を目に浮かべながら、いつもの悪口を叩く。
そんなを見て、文次郎は喉の奥で笑った。
「バーカ。んなお前見てやめられっかよ」
そう言って、文次郎は腰を突き動かし始めた。
「色魔、変態、ケダモノ、死ね、帰れ」
は布団に丸まって顔をうずめたまま、悪口を羅列する。
文次郎はそんなを枕に煙管を咥えていた。
「いや、だからぁ、したかったんだって」
「もーいい〜…。あーもー、いったー…」
「……最後は善がってたくせに」
「あー!もう、馬鹿潮江っ!」
「イデェッ!」
その日、文次郎の頬が腫れていた理由は、数年後の彼らの祝言の日に明らかになったという。
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