今                      now





 うららかな春の日差し。
 忍術学園にもその暖かさは届く。
 学園の在校生は一年進級し、六年生だった者は卒業し、新入生は一年生になる。
 鉢屋三郎も、例外ではない。この春、忍術学園5年生になり、トラブルメイカーの1年生に振り回されたりなど上級生としての苦労も増えた。
 だけど、基本的に生活は変わらない。例のごとく授業が終わった後に学園の裏の林で気にもたれ昼寝をしていた。
「はーるだー…」
暖かい日差しに気持ちよくなってうとうととし始めたそのとき。
「三郎」
目を開けた先には、1人の少年、いや。少女。
…」
「雷蔵が探してた。今度は何をしたわけ」
「いつも俺が何かすると想っているのか」
「実際そうでしょ」
笑顔で厳しく返す彼女。
「ま、それじゃ帰るとするかね」
三郎は腰をあげて先を歩くの後を追った。



 、13歳。
級友でもなければくの一でもない。
忍術学園に住み込み、食堂のおばちゃんや事務の手伝いをしている。
だけどそれだけではない。たまに、同い年である三木ヱ門や滝夜叉丸と忍術の勉強をしているときもある。
実力は学園のくの一よりも上かもしれない。
基本の忍術なら大方使えるし、武術のほうも剣道が得意らしい。


林の道を歩く
三郎もその横に並んで歩く。
「雷蔵、一体何のようなんだ」
「明日の実習について相談があるんだって」
「ほーう」


 顔は、かなりいい。「可愛い」…という表現は的確ではない。確かに可愛い。けど、彼女は「端正」という表現がいちばん的確と思われる。形のいい眉に、意志を秘めた澄んだ瞳。長い睫。筋の通った鼻。桜色の唇。白い肌。
 に声をかけられた男は10人中10人、確実にほいほい彼女についていくだろう。
 焦げ茶のかかった髪は一つに纏めて、結い上げている。
 そして服装…かなりの容姿を持っているにもかかわらず、は今日の女のように着飾ったりしない。まるで少年のような格好を好んでしているのだ。


「あーあ、もう日が西に傾いてる」
「あっはっは。あそこ結構林の深い所だからなあ」
 のらりくらりとした三郎の態度には、はあ、とため息をつきつつ学園の戸を押した。
三郎もその後に続いて、後ろ手に戸を閉めた。


 は半年前にここへやってきた。
でもその前は俺が知らなかっただけでそれより前にも数年、今と同じように忍術学園で暮らしていたらしい。
だけど何か問題を起こして、大木先生のお宅で暮らしていたそうだ。


「雷蔵、多分図書室に居るから、行ってみて」
そう告げるとは食堂へと足を向けた。三郎はその後姿を見送って自分も図書室へと向かった。

 が障子を開けると、例の6年生5人組が机を囲んでいた。
立花仙蔵、潮江文次郎、七松小平太、中在家長次、善法寺伊作の5人だ。
!お帰り!どこ行ってたんだ?」
と、小平太がに飛びついてきた。
それをがさっとかわしたのでそのまま小平太は床に突っ込んだ。
ひどい!!せっかく俺がお帰りの抱擁をしようとしたのに!」
「お前のは抱擁じゃなくて体当たりなんだよ」
と突っ込む文次郎。
小平太がなにやら文次郎に向かってわめいていたがはそれを完全無視して残りの3人の横に座った。
「雷蔵が三郎を探してたんだ。だからそれを手伝ってた。裏の林にいたよ」
「林まで行ってたのか?」
仙蔵が目を丸くして言う。
「かなり奥の方にいたからね。ったく毎日毎日何であんなとこにまで昼寝しに行くんだか」
それもそうだがそこまで探しにいくだ。あの林は森といえるほどの林なのだ。
ちゃん、今日の夕食何にしようかねえ」
食堂のおばちゃんが奥から顔を出した。
その瞬間、小平太と文次郎が
「俺、エビフライ!!」
「俺、鯖味噌定食!!」
それについで
「僕は野菜炒め」
「私は石焼ビビンバ」
「……肉」
とそれぞれ主張。
そこへ
「じゃあ間を取ってキノコ御飯ってことで」
「「「「「間!!??」」」」」
「じゃあ、そうしようかねえ」
「「「「「おばちゃん、俺たちの主張は!?」」」」」
「じゃあ、ちゃん、手伝ってくれるかい?」
「もっちろんですよー」
女二人が爽やかな笑顔で5人を無視ったところで、適わない、と男5人が溜息をついた。



 は平凡に暮らしていればここにいるような事はなかった。
8年前、それからいままで。陸巳がその身で経験してきたこと。それが今の自分たちとをつないでくれた。
 皮肉な事だなあ、と思う。






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