なんではわかってくれないんだよ
おれはね、ずっと、のことがね
男と女のディスタンス
「こへー」
「あ、」
偶然、町で小平太を見かけた。
小平太も呼び止めたあたしに気がついて、手を振ってくれた。
見ると、立花仙蔵と善法寺伊作も一緒である。
「、今日はどしたの?」
「おつかい兼買出しっ。おつかいはもう済んだから、あとは自分の買物だよ」
「へー、あ、じゃおれも付き合っていい?」
「え、いいの?仙蔵と伊作は?」
「私はもう帰るとこなんだ。小平太とは偶然会ってね」
ずい、と小平太を押しのけて仙蔵が前に出た。
「俺も。新野先生からおつかい頼まれてて」
伊作もその後ろからそれを見て、苦笑しながら言った。
「そうなの?じゃあ、つきあってくれる?こへ」
「うんうんっ、じゃ、仙ちゃん、いさっくーバイバイッ」
そして、二人は、反対の方向に去っていった。
あたしたちはにぎやかな大通りの、女向けの装飾品や着物などの店を回ることにした。
ふたりのカラン、コロン、と下駄の音が、群集のざわめきの中に響く。
ふと、小平太の前に立って歩いていたあたしの目に一つの簪が目に入った。
「あっ、見てみてこへ!あれ!この簪ー」
「えー、どれどれ?」
あたしは下駄を鳴らして、その店に駆け込み、その簪を手に取った。
翡翠色を基調に、寒色で極め細やかな細工が施されていて、いくつか宝珠がはめ込まれている。
「へー、綺麗じゃん」
気付くと、後ろから小平太が覗き込んでいた。
「でしょう?あーあ、あたしもこういうの、一個くらい持っててもなぁー」
同室の子も、こういう綺麗な髪飾りを2、3個持っている。
恋人に買ってもらった、と嬉しそうな顔で話す彼女の顔は今でも覚えている。
「いいよねぇ…」
と独り言のように呟いたら、
「あ、じゃあ俺買ってやろーかっ!?」
小平太がそう言って、あたしと簪を示し合わせた。
小平太が買ってくれるなんて言ってくれるとは思ってもみなかったので、
あたしはすこしびっくりしてしまった。
「えっ、悪いよ!」
「いーのいーの。だってさ、前に氷菓子奢ってもらったりしたし」
小平太は既に自分の財布を取り出していた。
一回言い出したら、聞かない奴だし…、ここは甘えちゃおっか。
「ありがと。こへ」
「えっ、いいっていいって!ほら、これ!」
そう言って、小平太はあたしに簪の包を手渡した。
「ね、開けていい?」
「あ、うん!」
あたしは、早速包を開けて簪を取り出して、髪に挿してみた。
手鏡で位置を整えて、小平太に振り返る。
「どう?似合う?」
「え、あ、うん!似合う似合う!!」
「ほんと?ありがと!」
「…やっぱも、そーいう飾り物とか好きなの?」
「そりゃまー、女の子だしねっ」
「ふぅン…そっか」
その相槌に何か含まれてそうな気がしたが、よくわからなかった。
まあいいかと思って、前に向き直ると、太陽が西に傾きかけている。
「さってと、こへはあとどっか寄るとこある?」
「あー…ない、よ。そろそろ、帰る?」
「ん、かえろっか」
「おかえりぃ、小平太」
「あ、仙ちゃん」
部屋に入ると、仙蔵がどっかと座ってくつろいでいた。
「仙ちゃん、何で俺の部屋に居んの?」
「ん?いや、長次に本でも貸してもらおうかと思ってね」
「でも、長次明日まで帰ってこないって。俺でよかったら貸そうか?」
「お前のもってるような本じゃ暇つぶしにもならん」
「仙ちゃんそれってめちゃくちゃ失礼だし!」
「ははは。それより、どうだった?とはどこまでいったんだ?」
「は!?」
仙蔵は、にやにやと、さも面白そうな顔をして小平太の顔を覗き込む。
「二人きりで町を歩いて、簪まで買ってやって。あれ結構な値段だったんだろ?」
「仙ちゃん…、まさか…」
尾けてたのか!
よりにもよりけり、まさか、この男に尾けられていたとは!
小平太が、驚きと恥かしさに口をパクパクさせるのを見て、仙蔵は「金魚みたいだ」と笑った。
「まあ、私もそこまでしか見てなかったんだがな。どうだった、ん?恋人気分を満喫したことだろ」
「こ、ここここ恋人って!いや、お、おれたち、そんなんじゃなくって!!なんていうかその」
「分かってるさ、あいつはお前の気持ちにぜーんぜん気付いてないからな」
「えっ」
動揺のあまり言葉にもならない言葉を口走りつづけていた小平太は、口を止めた。
仙蔵は、にんまりと上目で笑みを浮かべた。
「まあ、ふつうのお友達以上、ってとこまではいってるが、恋愛感情とまではいってないな。
というか…、お前、あいつに「男」として見られてないぞ」
「!!」
小平太は
それを見て、仙蔵は満足そうに笑って見せた。
「ま、『先輩』よか、ずっとチャンスが多いんだから、せいぜい頑張る事だね」
ぽんと、小平太の肩を叩き、仙蔵は部屋を出て行った。
仙蔵独特の、静かな足音は消え去った。
「あーもーっ、そんなことわかってらいっ!!仙ちゃんのばかーっ!」
小平太はやけになって、部屋の真中に大の字になってひっくりかえった。
暫くの間、ぶつぶつと仙蔵への怨み言を言っていたが、ふと夕陽が差してできた
自分の影を見て思い出す。
が、先輩を追っかけていったときも夕焼けだった。
去年の卒業式。
は好きだった先輩に思いを伝えないまま別れようとしてた。
は、ちゃんと自分の気持ちの整理もつけて、「もう会わないことにした」って言ってたのに…。
俺は、肩を押しちゃった。
ほんともう、自分で自分は馬鹿だなぁって思ったよ。
なんで他の男との恋路を応援してんだよってさ。
そもそもおれとか、きっと「友達」としてしか見られてないだろうなぁって思ってたもん。
「けど、人に言われるのって余計つらー…」
この気持ち、いつかに届く日ってくるんだろうか。
そんなことを考えながら、小平太はそのまま寝こけてしまった。
<<<続>>>
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