フォーチューン
「小さい頃に、」
そろそろと、夕闇の足音が聞こえ始めた頃だった。
突然に、仙蔵が喋りだした。
「幼馴染の、女の子がいたんだ」
「幼馴染?」
仙蔵が自分の昔の事を喋りだすなんて珍しい。
そう思いながら聞き返した。
伊作がすいと火をつけると、蚊取り線香から細い煙の筋が昇り始めた。
「でな」
仙蔵はそのまま喋りつづけた。
「色素の薄い子だったんだよ」
「…ふう、ん」
「そう、一年坊の、猪名寺だったか?あいつと似た感じで、色素の薄い子だった。
曾祖父さんだったか、もひとつ上の代の人が異人だったらしいけど…、
顔つきとかは、日本人だったんだけど…、髪とか、目の色はそっちの人まんまだったなぁ。
年は…、一つ上だったんだけどな、全然そうは見えなくて…、むしろ年下って感じだった。
仙ちゃん、仙ちゃん…ってさ。私の家の、私の部屋の縁側まで毎日来て、遊ぼう仙ちゃん、て」
「………」
「んでさ…、私が、ここに来るとき、私も行く私も行く、って俺の袖引っ張って泣くわけ。
ほんっと…ガキでなぁ…。休みには戻ってくるからって説得すんの大変だったんだ」
クシャ…。
紙と紙が擦れる音がして、見ると、仙蔵の手の中で手紙が握りつぶされていた。
「……」
ぱた、と半紙に滴が落ちた。
「……仙蔵…」
少し伸びた爪が、紙越しに手のひらの肉にぎりぎりと沈む。
「……っ、夏に、戻ったときに…、言ったんだぞ…、俺が卒業したら…一緒に…っ」
仙蔵の手首を、一筋の赤がつたった。
はっと見ると、爪が沈んだ個所から、血の玉が浮かび上がっている。
「仙蔵っ!」
爪を離そうとして、手首を掴んだ。
しかし、仙蔵はそのままの体勢で、伊作のほうへ倒れこんできた。
その拍子に、伊作の肩の骨に、仙蔵の頭が当たった。
「っテ…。おい、仙蔵…大丈夫か?」
仙蔵は、ゆっくりと体を起こして、俯き言った。
「…………………だと…」
「え?」
低い呟きに、伊作が聞き返す。
仙蔵は顔を上げると、目をはらして、床を睨みつけた。
「切られたんだと…」
「………っ」
「山道で…っ、ここに、来る途中の山道で…!賊の輩にっ、ボロボロに犯されて…、
手前の都合だけで、クソ供に切られて、殺されてたんだっ!」
ドン!と拳で伊作の胸を殴りつけた。
「私に…、御守りを贈ろうとしていたのを、忘れてたから、追いかけて、その途中で…」
仙蔵は、伊作の襟元を避ける程に強く握り締めた。
そして、そのまま頭を伊作の胸において、崩れおちた。
「…!」
嗚咽を抑えようと、体を強張らせる。
伊作は、そっと、仙蔵の頭を撫でてやった。
「私が…、私が…っ」
「うん」
「…!」
「うん」
「うん」
「うん」
「うん」
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