「なんで、こんなもん吸うんだ」






煙草














夏の暑気がそろそろと近付き、湿気が気になりだすようなころのこと。
職員室の脇に、小さな部屋があった。
机が一つ真中においてあり、あとは数人の人が入ればいっぱいになるくらいの小さな部屋である。
ここは主として問題沙汰を起こした生徒の「呼び出し」のための、いわば指導室であった。

「先生は、煙草お吸いにならないんですか」
「それは関係ないだろう」

忍者の修行をしている子らゆえに、悪い事は、自分たちの判断でうまく隠すようにしているが、
時々は運が悪かったかへまをしたかで見つかって、このように呼び出しを喰らう場合がある。
呼び出される生徒は、大抵の場合悪い事を覚え始めたが、それを隠す術がまだまだである
男子生徒の三年生や四年生。上級生にもなれば、ほぼ世の大人たちと同等である為、
そう簡単には見つからない。
くのいち教室の生徒が呼び出しに合うことはほとんどない。
今回「呼び出し」を受けた生徒は、三年生の、なんとくの一組の生徒だった。

「まだ十三だろう?こういうもんにはまだ早すぎる」

理由は、「煙草」。
日頃からこっそり懐に忍ばせていたのだろう。
昨晩同級生と廊下でぶつかったとき、それが床に転がり出た。
そこをたまたま野村が通りかかり発見したのだ。

「どのくらいになるんだ?」
「んー、二ヶ月?」
「常習か?」
「いえ、一日三回」
「十分常習だな」

悪びれもせずに言うのだから、最近の子供はわからない。

「で、なんでこんなもん吸い始めたんだ?」

元の質問に戻る。
は暫く考えた後、にこりと笑ってこう答えた。

「かっこよくなりたかったから」
「………は?」
「潮江先輩が吸ってるの、見ててかっこいいなっておもったんですよ。
様になってるって言うか。あたしも、あーいう風になりたかったんです」
「潮江、か…」

確かに。
あの生徒の十五とは思えない雰囲気と、煙草というのは見事に合っている。
あの生徒が、まあいろんな事に手を出しているというのは教師陣も把握していたが、
いざ注意しようとしたときには、まるで見越していたかのように巧みに逃げ出すのだ。

「実を言うと、これも潮江先輩がくれたんですよ?」

そういってがゆびさしたのは、例の煙管だった。

素人の自分が見てもわかるくらい上質のもので、漆塗りで丁寧に仕上げられた管の部分と、
上品に散りばめられた赤の石が、窓から差し込む日差しで輝いている。

給料を貰うような身分でもないものが、これほどの物をどうやって手に入れたのか。
しかもそれを簡単に人にやってしまうとは…。

最上級生一の問題児のことを思って、野村はついつい頭痛を感じてしまった。
しかしなんとか持ち直して(溜息をつきながらだが)話に戻った。

「まぁ、お前くらいの歳だとそう思うかもしれんがな」

じっと目線をあわす。

「お前には似合わんよ」

はきょとんとした顔で野村を見つめる。
それから、ジリジリと蝉の声を聞きながら何かを考えるように目線を下げる。
蝉音をバックに、ふたりの間に暫く沈黙が流れる。
すると、パッと顔をあげて、はにっこりと微笑んだ。

「わかりました!」

それはまあこの場に似つかわしくない位輝く向日葵のような笑顔で、
野村はその明るさに少し驚いた、いや、なぜか気圧された。
思わず固まる野村を尻目に、はそのまま笑顔を称えたまま言った。

「似合わないなら、仕方ないですよね」
「…あ?」
「他に、あたしがやって、様になるような事でも探します」
「…あ?おい、?」

それじゃあ失礼します、と頭を下げると、にこりと笑ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
それを引き止める言葉が出ずに、野村をそれを黙って見送ってしまった。
そしての足音が聞こえなくなって、がっくりとうなだれた。

「わかってるのかわかってないのか…」

そして先ほどのまばゆいばかりの笑顔を思い出して、少しだけ、心の底から思った。

「あいつはあの笑顔で食っていけるわ…」




























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