「?」
の部屋の障子が開いていたので、ひょいとのぞくと出かける準備をしていた。
「どこに行くんだ?」
あ、と初めて気付いたように振り返って、は軽く笑っていった。
「ちょっとね、里帰り」
「里帰り…?あ、大木先生んとこ」
「そう。今日中には帰ってくるから。行ってくるね」
THE DAYS-帰郷
「雅之助ー!」
懐かしいラッキョウ畑を、かつて見慣れた我が家に向かって走り抜ける。
学園で暮らすようになって、まだ半年も経っていないが、やはりそれだけ離れると
久々の里帰りも心が弾む。
の呼びかけに気付いて、大木雅之助は畑仕事を止めて、に手を振った。
「ただいま、雅之助!」
久々の再会の嬉しさに、は大木に飛びついた。
「おう!よく帰ってきたな!」
それを、がっしり抱えて、大木はをひょいと持ち上げた。
「雅〜、私、もう子供じゃないんだから」
「はっはっは、すまんすまん!でも成長したようにも見えんがな!」
「ひどっ!これでもちょっと背が伸びたんだから!」
仲良さげに笑いながら、大木はを下ろし、はあぜ道の上に足をつく。
「で?今日はもう泊まっていくのか?」
「ううん、日が暮れるまでに帰るよ。明日また授業とかあるしね」
「そうか。じゃあ、とりあえず家に上がれ上がれ。茶でも飲んでいくといい」
そういって、ふたりは半年振りに並んで家路についた。
「そういえば、おまえ、五年の鉢屋とつきあいはじめたらしいな」
ブッ。
突然の大木の言葉に、は思わずお茶を吹き出した。
「なっ…、なんで雅之助がその事知ってんの?」
「わっはははは!杭瀬村の情報網をなめるなよ!!」
豪快に笑う大木を尻目に、はこぼれた茶を拭きつつボソリと呟く。
「…ま、今回帰ってきた理由がそれなんだけどさ…」
茶を吸い込んだ雑巾を絞って洗い場に放り投げた。
「なんかね…、不安なの。最近、三郎が三郎じゃなくなったような気がして…。
私もそう。前までと違う。ずっと心にもやがかかったような…」
たらいに水がたまっていたらしく、パシャッと音をたてて水がはじけた。
はパタタッと水滴がその周りに散っていくのを眺めていた。
大木は、小さく溜息をつくを見て、少し頬を掻いて口を開いた。
「…」
「…ん?」
「ひさびさに、稽古でもつけてやる」
「ほら、左に隙が出てるぞ!」
「足下に意識が足りん!」
「そこで袈裟から打ち込まれたらどうする!」
日が西に傾きかけた中で、カァンカァンと木刀が打ち合う音が響きあった。
動き易いように軽く束ねたの髪が跳ね、大木の白い鉢巻も踊りまわった。
大木の力のこもった木刀も、持ち前の身軽さをたよりにすんでのところでかわす。
直後に繰り出された足払いも地面を蹴ってかわし、間合いを詰めて木刀を振ろうとしたが、
その間に大木が木刀を戻し、の攻撃を受け止めた。
そしてそのまま太刀ごと振り払い、は地面に投げ出された。
受身を取って、そのまま立ち上がろうとするが、足に力が入らず、そのまま倒れこんでしまった。
「はぁー…」
くたくたになった体を地面に放り投げて、は大きく息をついた。
「どうじゃ、少しはスッキリしたか?」
大木は、上からに笑いかけた。
西日のせいで逆光となり、表情は良くわからなかったが覗いた白い歯がそう判断させた。
もそれに対して、にいと歯を見せて笑ってみせた。
「もうそろそろ帰らなきゃ」
「おお、もうそんな時間か!」
は井戸で顔を洗って、汗を拭いて、上着を着なおして帰る準備を始めた。
「日が暮れないうちに学園に着くようにな」
「これで走ったら明日は足腰立たなくなるってーの!」
アハハと笑いあってから、は荷物を手に帰路についた。
「!」
の後姿に、大木が呼びかける。
「気晴らししたくなったらいつでも帰ってこいよ!」
呼びかけに、は振り返って大きく手を振った。
そして、しばらくそのまま歩き、また元のように学園に向かってかえり始めた。
その姿が見えなくなると、大木は、転がった二本の木刀を片付けに納屋に行った。
納屋の奥に木刀をかけると、その下の布で覆われたものに目を向けた。
少しほこりを被った布をそっと指でつまんで上に持ち上げる。
その下から出てきたのは、鈍く輝く手斧だった。
鉢屋…、お前に、が救えるか?
大木は、差し込む夕日に紅く輝く斧をじっと睨んでいた。
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