THE DAYS-帰路
「あー楽しかった!」
鮮やかに彩られた何色もの飴が入った袋を片手に、足下ではカラカラと下駄を鳴らす。
振り向き様に向けられたのは全くの笑顔で、俺もつられてつい笑い返す。
最初はどうなることかと思っていたけど、今となってはまったくもって問題なしだ。
ふたりして夢中になって遊びまわって、気がついたらあっという間に時間が経った。
元来た道を辿る頃には、夕方になっていた。
今は雲がかかってよくわからないが、晴れていたらきっと西日の時間だろう。
道端で店を開いていた商人も、少しずつ店をたたんで帰り支度を始めていた。
「でも三郎、ほんとに良かったの?これから暫くずっと休みないんでしょ?
今日のうちに休みとっておかなくても…」
「バーカ。いいんだよ。俺はといるだけで休みになるんだから」
「バーカ」
ふざけて小突きあって、笑いながら帰路をたどる。
同じように家路につく野菜売りの母子とすれ違い、笠を被った行商の男と一礼をかわした。
「ねえ三郎」
「ん?」
横の、自分より頭一つ分小さいを見やると、なんだか言いにくそうに視線を泳がしていた。
「私ね、最近少し変だった?」
「変?」
少し胸が縮こまった。
「私ね、最近、三郎に対して…よそよそしくなかった?」
それを言うならおれだって。
も同じようなこと感じてたのか。
俺が、そんな風に感じさせてた…ってことか。
倦怠期なんて、馬鹿なこと何で考えたのだろう?
はこうやって、ちゃんと俺を思っていてくれてるじゃないか。
「気にしてない。今、こうやってて、全然楽しいからな」
「ほんとうに?」
「ほんとう」
普段の俺からは想像もつかないだろうな、そんな優しい笑みで
に笑いかける。
それでも、疑わしげには念を押してくる。
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんと」
「ほんとにほんとにほんと?」
「ほんとに、ほんとに、ほんとに、ほんと」
じっと、さらに念を押すように俺の目を覗き込んでくるので、
俺はそれに答えて、にっと、笑いかえしてやった。
「…良かった」
それを見て、は、ほっと、安心したように顔をほころばせた。
「私さ、実は…不安だったの。もし三郎が私のこと好きじゃなかったらどうしようって」
「え?」
「でも、そんなことないよね!私、何ばかなこと考えてたんだろ?」
「…そうだよ」
「ね、三郎?わたしのこと…好き?」
前と同じ、俺との関係は戻ってる。
けど、この違和感は何だろう?
どうしては俺にこんな質問を繰り返してるんだろう?
前は、こんなにこんな質問することなんて無かった。
それが今はまるで何かに不安がってるようだ。
もしかして…。
「お前、竜胆に会ったのか?」
一瞬だけ、の目が震えた。
「…会ってないよ」
嘘。
「会ったんだな?会って何があった?」
「何も無い…。だって、会ってないんだから」
「竜胆とはもう何も無いんだよ、俺には今お前だけなんだ」
「信じてる…信じてるよ」
「じゃあ何でそんなに俺がお前を好きかどうか聞くんだ?」
「それは…」
最悪だ。これじゃ元の木阿弥どころか…めちゃめちゃ気まずくなるじゃないか。
でも、俺の言葉は止まらず、どういうわけか次々に溢れ出す。
「竜胆と何かあったからじゃないのか?」
の肩を掴んで、問いただす。
「違う!それは違う。そうじゃない…!」
「俺、お前を不安にさせてばっかりか?」
「違う、そんなんじゃない…そうじゃない」
「じゃあ何で嘘なんてつくんだよ!」
「っわからないの!!でもそうじゃない!!」
「…!」
突然、大声を上げたに驚いて、思わず息を飲み込む。
「私は……私は…」
は下を向いて、何かに怯えるように視線をあちこちにさまよわせていた。
なんで、こんなに怯えてるんだ?
なんで、俺をこわがるんだ?
わけがわからずうろたえていたそのとき。
ゴロン。
突然、何かが足下に転がった。
「…え?」
赤い唇。
赤い血潮。
赤い炎。
赤い…首。
「いやあああああああああ!!」
さっき道傍で店を開いていた男の首が、自分たちの目の前に投げられたのだ。
「、見るな!」
の頭を思い切り抱きこんで引き寄せる。
男の顔は、首を胴体から切り落とされる激痛を訴えるようにこちらを睨んでいる。
は三郎にしがみついて、ガタガタと震えている。
誰だ。
どこから見ている?
神経を張り詰め、この首を投げ込んだ主の気配を察知する。
ふっとその気配が動いたのを感じ、瞬間的に地面を蹴った。
タタタンッ!
さっきまで自分たちが立っていたところを見ると、3本の小刀が地面に突き立っている。
「あぁー、外れたのかぁ」
ガサリと目の前の茂みが揺れ、大柄な男が現れた。
山賊なような風体。
そして、その顔は残忍に笑っていた。
「あんた、誰だ?」
「別にいいんだよぉ、んなこたぁ…。それよりさぁ…いいだろ?その首。
今まででいっちばん上手く切れた」
にたぁっと下品に顔を歪め、じりじりと二人ににじり寄る。
「で?俺たちの首も欲しいってか?」
陸巳を後ろ手にかばって、後ずさる。
「んんー、そうだな…」
男はボサボサに伸びたヒゲを手でさすると、またにやにやと笑い出した。
「お前の首はいらねぇが…そっちの女の首は、…欲しいかもなぁ」
そう言って男は自分の背から、血に塗れた斧を取り出した。
瞬間、陸巳の体の震えが止まった。
三郎がそのことに気付いたのと同時に、男は斧を振り上げて襲い掛かってきた。
「動くなよおぉ!きれえに落してやるからよぉぉおぉ!」
「くっそ!!」
男が斧を振り下ろそうとした瞬間、三郎はの手を取って駆け出した。
そのひは、あさからくもっていたのです。
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