「すいません」
「はーい」

利吉さんが暖簾をくぐると、すぐに店の奥から女将さんが飛んできた。

「三日ほど泊まりたいのですが、いいですか」
「はいはい、何日でもよろしいですよ。
 ちょーうど紅葉が見えるいいお部屋が空いてますわ。
 そちらはお連れ様?」

そう言って女将さんは利吉さんの後ろに隠れていた私を示した。

「はい、妻です。今度祝言を挙げまして。この町に住もうと思っているのですが
 その前に家や職を探してから、と思いまして」

利吉さんはニッコリと笑顔を浮かべたまま、打ち合わせどおりのことを喋った。
それを見て、女将さんはほのかに顔を赤く染めた。

「あらぁ、そうなんですか。ここはいい町ですよ。人が多くて活気があるし
 治安もいいし、日照りも水害も少ないから凶作なんてなかなか無いから。
 それにしても奥さん、羨ましいわ。こんな素敵な旦那さん!ほほ…。
 あ、それではお部屋の方にご案内致しますね。こちらへどうぞ」









私と利吉さんは、女将に連れられて宿の廊下を歩いていった。
……それにしても、利吉さんすごい…。
前々から飛びぬけてカッコいい人だとはわかってたけど…。
すれ違う女性という女性が皆利吉さんのほうを振り向いてる。
女中もお客さんも関係なく、さっきの女将さんみたいに頬を赤らめて…。
利吉さんと一緒にいる私は眼中に入ってないんだろうなぁ。
そんなことを考えていると、部屋についたらしい。

「こちらでございます。どうぞごゆっくり」

戸を開けて一歩中に入ると、窓のすぐ外の立派な紅葉が目に入った。

「うわぁ…、綺麗!こんな見事な紅葉、なかなかありませんよ」
「そうだな。ちゃん、私は店を開ける場所を探してくるから。
 それまでここで大人しくしていてくれるかい?」
「えっ、じゃあ私も…」
「いや、いい。それと、この町にいる間はどこにいても気は抜かないでくれ。
 私と君は夫婦。宿にいる間も言動にはくれぐれも気をつけて」
「は、ハイ…」
「よし。それじゃあ、行ってくる」

そう言って利吉さんは戸を閉めていってしまった。
部屋の中に、ポツンと私ひとりだけ残される。

「…あたし、これでいいのかな?」

なんとなく申し訳ないような気分になったけど、とりあえずは言われたとおり
大人しく荷物の整理でもはじめる事にした。




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