お誕生日記念第二弾〜跡部様編〜
その日、朝練が終わって教室に入った鳳は、殺気立ったクラスの女子たちに取り囲まれた。
女の子たちの気迫に押される鳳に、そのうちの1人が早口で捲くし立てる。
「鳳君!跡部様はどこ?」
「え・・・跡部先輩?」
いまいち状況が飲み込めずにいると、別の女子が更に問いかける。
「そう!跡部様!まだ教室にもいないし学校中どこを探してもいないの!」
「鳳君なら何か知ってるでしょ?」
「教えて!」
「え・・・ご、ごめんっ!」
「あーっ!鳳君っ!!」
真剣な表情の女子たちに迫られ、鳳は思わず逃げ出してしまった。
「何なんだ?一体・・・。跡部先輩?」
人気のない音楽室付近まで走ると、自分と同様に逃げてきたと思われる日吉と樺地に出会った。
「日吉、樺地。もしかして、女の子たちから逃げてきた?」
無言で頷く2人。
「教室に入るなり跡部さんの居場所を教えろと詰め寄られた」
声に不機嫌さが滲み出ている。鳳が『俺も』と言うと樺地も賛同する。
「跡部先輩、教室にいないらしいんだけど。どこにいるんだろ」
「どこかに隠れてるんじゃないのか?油断するとプレゼントに押し潰されかねないだろうからな」
「プレゼント・・・?」
首をひねる鳳に、呆れた視線を投げかける。
「今日は何月何日何曜日だ?」
「10月・・・3日、金曜日」
「で、明日は何の日だ?」
「・・・あっ、跡部先輩の誕生日。そっか、明日は土曜日で会えないから・・・」
「気付くのが遅すぎる」
「そんなこと言われても・・・。あ、予鈴」
「やっと教室に帰れるな」
「それにしても、跡部先輩どこに隠れてるんだろ。女の子たち学校中探したらしいけど・・・」
「さぁな。俺の知ったことじゃない」
「まぁそうだけど・・・」
本鈴がなるまでに教室に戻ろうと足早に廊下を進む2人が、何か言いたげな樺地の様子に気付くことはなかった。
──ほぼ同時刻、氷帝学園上空──
「・・・さすが跡部やなぁ。自家用ジェットで自宅から別荘まで直接行くとは思わんかったわ」
「すげーよな。あ、見てみろよ侑士。あれ、氷帝学園じゃねぇの?」
「そうちゃう?この辺であんな広い建物ウチの学校ぐらいやろ」
「それにしても、今頃鳳たち大変だろうなー。な、宍戸?」
「何で俺に聞くんだよ」
「だって・・・なぁ、侑士」
「氷帝バカップル代表やもんなぁ」
「あ?何だよ、それ・・・。ったく。オメーらと一緒にすんじゃねーっての」
「何だ宍戸、違うのか?」
「跡部までバカなこと言うなよ・・・」
「そ〜だよ跡部〜。宍戸と鳳はバカップルじゃないよ?」
「お、珍しいなジロー。起きとったんか」
「ん〜今起きた。だって宍戸と鳳はラブラブカップルなんだ・・・ZZZ・・・」
「おい、ジロー!ロクでもねーこと言いながら寝るんじゃねー」
「あぁ、そっか。悪かったな、宍戸。これからはお前らのことラブラブカップルって言うようにするからさ」
「そうやなぁ。呼び方改めなあかんな」
「オメーらも真に受けてんじゃねーよ」
「んじゃあバカップルでいいんだな?」
「そういう意味じゃねーだろ」
「お前ら、あんまり暴れてると外に放り出すぞ?1時間もすれば着くんだ、ちょっとは大人しくできないのかよ」
「え、バンジー用のゴム付けてくれるんならいーぜっ!」
「って岳人、それは間違うてるで・・・」
「オメーら一生2人で漫才してろよ・・・。頼むから俺を巻き込むな」
──再び氷帝学園・昼休み──
自分たちのクラスの女子には『跡部の居場所』を知らないことを納得してもらったものの、他のクラスの女子たちに質問攻めに合う可能性が残されている。そんな危機感を抱いた2年生トリオは、長い昼休みを部室で過ごすことにした。
「跡部先輩、結局学校来てないんだって」
「あの女どもの騒ぎを予想するのは容易だっただろうからな。それが賢明だ」
「それで、ちょっと気になることがあるんだけど・・・」
「何だ?」
「宍戸さんも休んでるんだよ。別に跡部先輩の欠席とは関係ないとは思うけど・・・」
気になるんだよな、と呟く鳳を見ながら、日吉が何かを思い出した。
「そう言えば・・・」
「ん?何か知ってるのか、日吉」
「知っている訳ではないが、クラスの奴らが忍足さんと向日さんも休みだったと騒いでいた」
「えぇっ?忍足先輩と向日先輩も?」
「ここまでくると策略的なものを感じるな」
「感じるどころか思いっきり仕組まれてるだろ・・・。一体みんな何やってるんだろ」
悩む鳳とどうでもよさそうな顔の日吉の前に、一通の手紙が差し出される。
「樺地?何、この手紙・・・。あ、もしかして跡部先輩から!?」
「ウス」
うなずく樺地から手紙を受け取り、便箋を開く。
氷帝男テニ新部長と新副部長へ
跡部おらへんから女の子ら大変なことなってるやろ?(笑)お疲れさん。
「笑い事じゃないだろ、この人はまったく・・・」
「忍足先輩らしい手紙だよな・・・」
跡部も(俺らもやけど)今年で卒業やからなぁ。
1・2年の子らとか外部進学の子らとかが眼の色変えてプレゼント渡しに来ると思うんやわ。
その子ら全員相手するん大変やから、俺ら全員今日は跡部の別荘で潜んどくから。
場所は言われへんけど、とりあえず日本のどっからしいわ。
あとの事はよろしく。くれぐれも死なんようにな(笑)
ほな、部活頑張りや。
By.跡部景吾
「『By.跡部景吾』って・・・書いたの完璧忍足先輩だし。それにしても、みんなで別荘に避難か。やることが派手だよなぁ」
「あの人たちの考え付きそうなことだ。それより、この『あとの事』という文句が気になる」
「俺はそんなことよりもっと気になることがある!」
握りこぶしを作って主張する鳳に、冷めた視線を投げかける。
どうせ大したことは言わないだろう、と思いながらも仕方がないので一応問うてみる。
「何だ?」
「そんな大事なことを宍戸さんは何で俺に内緒にしてたんだろう」
バカバカしすぎて怒る気にもならない。とりあえず大きな溜息を吐くことで不機嫌さを伝えておく。
「お前に言うとすぐに秘密でも何でもなくなるからだろ」
「えー、俺そんなに口軽くないって」
「どうだかな」
日吉の言葉に不服そうな鳳を無視し、そろそろ予鈴の鳴る時間であることを腕時計で確認する。
「それじゃあな」
「あれ、もう行くの?」
「次は移動教室だからな。これでもゆっくりなぐらいだ」
見ると、樺地も立ち上がっている。
「樺地も?」
「ウス」
「そっか。じゃあ俺も戻ろうかな。1人でいてもつまんないし」
「勝手にしろ」
なるべく人通りの少ない廊下を選びながら教室へと向かう。
「先輩たち今頃何してるんだろうな」
「さぁな。この間みたいにバカ騒ぎしてるんじゃないのか」
「・・・だろうな」
3人の脳内には、宍戸の誕生日同様にバカ騒ぎをしている5人(主に2人)の姿が鮮明に描き出されていた。
──午後3時ごろ、日本国内某所跡部景吾別荘──
『リビング』と聞いて一般的に思い浮かべるであろう広さの3倍ほどのリビングルーム。せっせとパーティーの飾り付けをしている人影が3つ。退屈そうにそれを眺める人物が1人。周りの動きなどまったく気にせず、優雅に紅茶を飲みながら読書をする人物が1人。当然のことながら、誰一人として後輩3人から『バカ騒ぎをしている』と決め付けられていることなど夢にも思っていない。
「侑士、何かスゲー凝った飾りつけじゃねー?」
「せやろ。跡部の誕生日やから派手にしなあかんと思て、昨日100円ショップ行ってパーティーグッズ山ほど買うてきてん」
「100均かよ・・・」
「ええやん。色々売ってて楽しいで?」
「そりゃ楽しいのは楽しいけどよ。ま、いっか。派手に飾りつけよーぜ」
「ハデ〜。跡部の誕生日だもんね〜。ハデハデ〜」
「よっしゃ。ちゃっちゃと飾りつけ終わらしてパーっと派手にパーティーしよか」
「わ〜い。パーティパーティ」
「騒ぎまくろうぜい」
「・・・オメーら、限度ってもん知ってるか」
宍戸の呟きが3人の耳に届いたかどうかは定かではない。
──三度氷帝学園・放課後──
男子テニス部部室。本日の練習も終わり、鳳・日吉・樺地を除く部員は既に帰宅している。
「はぁ、今日も疲れたー」
「体力ないんじゃないのか?ノーコン以外にも弱点があったとはな」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「さてと。そろそろ閉めるぞ」
「あぁ」
日吉が鍵を掛けるのを待ちながら、すっかり暮れた空を見上げる。自分の真上を飛んでいる飛行機が、かなり大きく見えた。
「今頃先輩たちは盛大なパーティ開いてるんだろうなぁ」
「だろうな」
「俺たちも誘ってくれれば良かったのに・・・」
「しょうがないだろう。部のトップ3が揃って部活を休むわけにはいかないんだからな」
「それはそうだけど・・・。あれ?」
「どうした?」
急に立ち止まった鳳の視線の先を追うと、正門付近に一台の車が停まり、その横に1人の初老の男が立っていた。
「あれって、跡部先輩の執事さんじゃないか?」
「多分そうだと思うが・・・」
「どうしたんだろう」
近くまで行くと、執事は3人に対して深々と頭を下げた。
「樺地様、日吉様、鳳様、お待ちしておりました」
「え、俺たち?」
驚きの所為で思わず叫んでしまった鳳の声にも動じず、静かな口調で『はい』とうなずく。
「景吾様から伝言を預かっております。これを」
手渡されたカードを開くと、跡部の字でたった一言が記されていた。
泊まりの準備をして別荘まで来い。
跡部
「今から30分後に当家にお集まりください。それでは、おまちしております」
それだけ言うと呼び止める間もなく車で走り去ってしまう。
後には、いまいち展開の飲み込めない3人が取り残された。
──ほぼ同時刻・再び跡部景吾別荘──
「飾りつけも終わったし、そろそろパーティ始めてもええねんけど・・・」
3時間以上かけた飾り付け作業の結果、リビングは原型をほとんど留めてはいなかった。
3時間以上といっても、向日とジローは途中ですっかり飾り付けに飽き、結局最後まで飾り付けをしていたのは忍足1人である。
忍足が1人で飾り付けしている間、ジローはいつも通り夢の中へ、向日は持参した漫画を読んですごしていた。残りの2人はそれぞれ時間をつぶしていたが、30分ほど前から席を外している。
「何だよ、侑士。何か言いたげな顔して」
「跡部って確か誕生日はオーストラリア行くって言うてたやんなぁ?」
「あー!そうだよ。宍戸の誕生日んトキにそんなこと言ってた」
「そしたら今日中に向こう行ったりするんちゃうん?」
「跡部が戻ってきたら聞いてみないとな!」
そこに、一目で湯上りと分かる跡部と宍戸が戻ってきた。
「あれ。2人とももしかして風呂入ってたのかよ?」
「あぁ。お前らに付き合うのもいい加減疲れてたからな。ここには露天風呂造らせてあるから、お前らも後で入っていいぜ」
「露天風呂?スゲーじゃん」
「いや、それもええんやけどな。跡部に聞きたいことあんねん」
「なんだよ」
「自分、オーストラリア行く言うてたやんか。今日から行くんちゃうん?」
「あぁ、あれな。止めた」
あまりにもさらりと言われたので、言葉の意味が飲み込めない。
「は?何を止めたん?」
「オーストラリア行きに決まってるだろーが」
「せやけど誕生日は向こうで過ごすって・・・」
「うるせー。俺が止めたって言ったら止めたんだよ。何か文句でもあんのか?あーん?」
「いや、別にないです・・・」
「ならつべこべ言うんじゃねーよ」
料理のことでコックと話してくる、と跡部が席を立つと、不可解な跡部の行動に首を傾げる忍足に宍戸が救いの手を差し伸べる。
「跡部が旅行止めた理由、教えてやろーか?」
向日と2人で、首を思い切り縦に振る。
「オメーらが誕生日パーティやるって言ったからだよ」
「え、俺らの誕生日パーティの為にオーストラリアへの旅行止めたってのかよ」
「はっきりとは言わねーけどな。素直じゃねーけど、アイツも俺たちと騒いでるのが結構好きなんだろ。日吉たちも連れてくるらしいぜ」
「へぇー。何か意外かも」
「でも、友人としては嬉しいコトやんなぁ」
「俺もうれC〜」
「うわっ、ジロー。急に起きてくんなって」
「跡部みんなのこと大好きだもんね〜」
「え、そうなのか?」
「そうなん?」
「んなこと跡部が聞いたら怒り出すぞ・・・」
「あん?俺様が何だって?」
急に入ってきた跡部に、場の温度が急降下し、次の瞬間一気に上がった。
「跡部ー、明日は盛大に誕生日パーティやろうなー」
「うわ、気持ち悪い。抱きついてくんじゃねーよ」
「跡部!俺お前のこと誤解してた。2度と高慢ちきな女王様なんて言わねーから」
「そんなこと言ってたのかよ」
「跡部〜。俺スゲープレゼント持ってきた〜。明日渡すね〜」
「ジローまでしがみつくなって。とりあえず重いから忍足、どけ」
「つれへんなぁ。でもそんなん言うても跡部の心は分かってんで」
「あ?何がだよ」
「俺らのこと大好きなんやろ?ジローに聞いたで」
「なっ・・・」
跡部の頬が赤く染まる。その原因が照れなのか怒りなのかは誰にも判断できなかった。
「忍足、ジロー!2度とそんなこと口にすんなよっ!!言っとくが向日もだからな」
そう言い捨てるや否や踵を返してリビングを出て行く。力任せに閉められたドアは盛大な音を立てた。
その後、跡部が立てこもった部屋のドアは、日吉・鳳・樺地の2年トリオが到着するまで開けられることはなかった・・・。
あとがき
ようやく(現在10月4日午後11時12分)書き上げました、『跡サマお誕生日記念SS』。
苦労した・・・わりには出来の方は・・・・・・。
ハハハ。と笑って誤魔化してしまえ(笑)
出来は悪くても愛はたっぷり練り込んであります!
そのわりに跡部の出番少ないんじゃあ・・・。とか突っ込まないで下さいね。
出番が少なくても、台詞が少なくても、このSS執筆の原動力は跡部への愛ですから!
次は忍足侑士くんですね・・・。一体どうなることやら(苦笑)
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました&お時間取らせてすみませんでした。
では最後に、跡部様お誕生日おめでとうございました☆(何となく過去形・笑)