お誕生日記念第四弾〜日吉若編〜

 次の年明けまで残すところ1ヶ月を切ったある晴れた日の放課後。氷帝学園特別教室棟の屋上で、後輩たちの部活風景を遠くに眺めながらくつろぐ2つの影があった。
「鳳のノーコンも相変わらずやなぁ」
「だよな。でも宍戸が練習付き合ってるらしいから、そのうち何とかなるんじゃねーの?」
「なってもらわな困るわ。来年の全国への切符は、あいつら2年の成長が握っとんやから」
「2年って言えばさ、侑士」
「ん?」
「日吉の誕生日ってもうすぐじゃねーの?確か12月って聞いた気がするんだけど」
「あー、そう言うたら12月やって聞いたような気がするようなせぇへんような」
「何だよ、その微妙な返事・・・」
 不満げに睨まれ、あやふやな記憶ではあったがとりあえず肯定しておく。
「12月やったと思う」
「じゃあさ、また誕生日パーティーやろうぜ」
「ええなぁ。12月やし、スキーでも行こか?」
 忍足としては冗談半分で言った一言だったが、目を輝かせて賛同されてしまった。
「いいじゃん、それ。早速宍戸とか跡部にも予定訊いて話進めようぜ♪」
 そして止める間もなく階段を駆け下りていった。どうやらエレベータを待つ時間すら惜しいらしい。
「って、冗談で言うたのに・・・」
 忍足の呟きは、誰に聞かれることもないまま風に舞って青空へと吸い込まれた。



 一気に階段を駆け下り、そのままコートまで突っ走る。観戦用スタンドにいたのは3人。うまい具合に用のある人物が勢揃いしていた。
 駆け寄ってくる向日の姿に真っ先に気付いたのは、氷帝男子テニス部前部長の跡部景吾。
「何走ってんだ、岳人」
「あ、跡部。スキー行こうぜ!」
 突然の向日の発言に、跡部はもちろんのこと、その隣にいた宍戸までもが怪訝そうな表情で向日を見つめる。
「あーん?いきなり来て何意味の分かんねーこと言ってんだよ」
「えー、意味分かんねーって言われても、言ったまんまの意味だぜ」
 2人の後ろに座りながら、不服そうに言い返す。
「なぁ、行こうぜ跡部。今シーズン最初のスキー。あ、俺はスノボだけど」
 向日の熱心な説得に、渋々ながら折れてやることにする。
「・・・別に行ってもいいけどな」
「マジ?やった。みんなでスキー旅行決定ー!!」
 その言葉に、宍戸が驚きを返す。
「ってちょっと待て。『みんな』ってもしかして俺も入ってるのかよ」
「当たり前じゃん。もしかしなくても宍戸も入ってるって」
「じゃあ聞くけど、その『みんな』には俺以外に誰が入ってるんだよ」
 行かないと言ったところで、却下されるのは目に見えている。反対することは諦め、大体は想像できるメンバーについて尋ねてみることにした。
「みんなって言ったらいつものメンバーだぜ。まず侑士だろ、跡部、宍戸、ジロー、日吉だな。滝は寒いとこ嫌いだから行かねーだろうし」
「2年生は日吉だけかよ」
 『いつものメンバー』にはあと2人足りない。宍戸が問うと、向日はさらりと答えた。
「え、だって跡部が行くんなら樺地はついて来るし、宍戸には鳳がついて来るじゃん」
「おい・・・。何で俺に長太郎がついて来るんだよ」
「だっていつも一緒にいるし」
「いねーよ」
「いるって。跡部はどう思う?」
 後輩の練習風景を厳しい瞳で観察していた跡部は、視線を向日に戻す。
「あん?鳳はともかく、樺地が俺についてくるのは当然だろ。まぁ信頼関係の差だな」
 勝ち誇ったようなその一言に、宍戸が思わず声を大きくする。
「俺と長太郎だって信頼関係なら負けてねーよ!」
「ならやっぱり宍戸が来たら鳳はついて来るんじゃん」
 向日の鋭いツッコミに言葉がない。大きくタメイキを吐いて、話題を変えることにした。
「それはともかく、何で急にスキーに行こうって言い出したんだよ」
「え、何でだっけ・・・」
「あーん?訳もなく俺様にいきなり話を持ち掛けてきたのかよ」
 3秒ほど考え
「あ、違う。誕生日パーティーやろうと思ったんだ」
「誕生日?って、向日は俺と同じ9月だし、跡部と忍足は10月。ジローが5月で、長太郎は2月・・・だった気がする。樺地はいつだよ、跡部」
「1月3日だ」
「んじゃ日吉か?」
「そ。確か12月だって言ってた気がするからさ」
「曖昧だな、おい」
「大丈夫だって。侑士も多分12月だって言ってたから」
「余計に信用できねーだろ」
 宍戸が不信感を全面的に押し出したところで、跡部の逆隣から声が聞こえた。
「12月5日〜」
「起きたのか、ジロー」
「ん〜、まだ寝てる」
「って起きてんじゃん」
 後ろからのツッコミに、寝惚け眼を向ける。
「あ〜、向日。おはよ〜」
「夕方におはようはねーだろ。それより、12月5日って日吉の誕生日かよ」
「うん、そ〜。前に聞いて覚えてた〜」
「よく覚えてたな。1回聞いただけだろ?」
「日にちが一緒だったC」
「そっか、ジローの誕生日って5月5日だもんな。・・・って、5日って明後日じゃん」
「明後日だな」
 慌てる向日をよそに、跡部は落ち着いている。
「何でそんな落ち着いてんだよ。明後日だったら急すぎてスキー行けないじゃんか。せめて誕生日の前日には向こうに行って、パーティーの準備とかスキーとかしなきゃなんねーのに!」
「元々平日には行けねーだろ。明後日の夜出発して、日曜の夜に帰るようにすればいいんだよ」
「あ、そっか。さすが跡部」
「当然だろ」
 跡部景吾の辞書に『謙遜』という文字はない。
「んじゃ、明後日の夜に出発して日曜日の夜に帰ってくる、ってことで。いいよな、宍戸」
「嫌だっつったら変更すんのかよ」
「する訳ないじゃん」
「だろうな」

 こうして、当人の日吉はもちろん、他のメンバーの意向も聞かず、『日吉若誕生日記念スキー旅行』が決定したのだった。
 引退した3年生が旅行話に花を咲かせている間も、もちろん下級生たちは厳しい練習に励んでいる。
 特に今日の練習には力が入っていた。引退して以来、滅多に練習を見に来ない跡部がスタンドにいたからである。
 ちなみに宍戸はほぼ毎日顔を出しているので、スタンドにいるからといって、今更部員たちの士気が普段より上がるということはない。宍戸シンパの若干名を除いては・・・。
 その若干名の筆頭は、スタンドで盛り上がる先輩たちの姿を見て、隣にいた日吉に声をかけた。
「なぁ、日吉」
「・・・何だ?」
 普段から、口を開けば宍戸の名前しか出てこない鳳である。くだらない話を聞かされるだろうとは思ったが、放っておくと余計にうるさい。一応返事を返しておくことにした。
「宍戸さんたち、何話してるんだろうな」
「さぁな。俺の知った事じゃない」
「さっき向日先輩が『スキー』って言ったように聞こえたんだけど・・・」
「なら、冬休みの旅行の計画でも立ててるんじゃないのか」
「えぇっ!旅行って、宍戸さんも一緒に?」
 慌てる鳳に、大きなタメイキをひとつ進呈する。
「あのなぁ・・・俺が言ったのは単なる仮定だ。あの人たちが何の話をしてようと、俺には関係ない」
 話題の中心が自分の誕生日であることなど夢にも思わない日吉は、そう言って鳳にボールを渡した。
「それより、練習中だぞ。気を抜いてレギュラー落ちなんかして、愛想を尽かされても知らないからな」
「え、あ、ちょっと待てよ、日吉」
 鳳の静止も聞かず、1年生の待機しているコート端へと向かう日吉。慌てて追いかける鳳。その様子を見て「練習中に何やってんだよ、あいつは」と宍戸が呆れた声で言ったのはいうまでもない。

 練習を再開した鳳を見ていた宍戸は、重要なことを聞いていなかったことに気付いた。
 振り向いて、持っていく菓子についてジローと話し合っていた向日に問い掛ける。
「ところで向日」
「絶対ムースポッキーは持っていくC〜」
「あ、んじゃ俺カッパえびせん持っていこっと。え、何だよ?宍戸」
「何処に行くんだ?」
「何処って?」
「スキーだよ。何処のスキー場行く気なんだ?」
 その言葉に、慌てた向日が飛び跳ねる。
「ヤバい!全っ然行き先考えてなかったって!!」
「お前なぁ・・・」
 頭を抱える宍戸に、とりあえず落ち着け、と言われて座りなおす向日。
「行き先もだけど、今からだと予約とか取れねーんじゃねーのか?」
「う・・・。だよな」
 すっかりうな垂れた向日に、仕方がないという口調で跡部が助け舟を出す。
「カナダでいいんなら俺の別荘があるが?」
「え、ウソ。ホントかよ跡部」
「あん?嘘言ってどーするんだよ。まぁ、嫌だってんならいいけどな」
「嫌な訳ねーじゃん!頼む、跡部」
 またも跳ねる向日に、わざと大きなタメイキを吐く。
「ったく・・・しょーがねーな。特別に招待してやるよ」
 しょうがないという台詞とは裏腹に、表情は楽しそうだ。しかし、宍戸はあえてそれを突っ込まなかった。その理由は、場の雰囲気を壊したくなかったから。ではなく、もちろん「あとが怖いから」である・・・。
「よし、じゃあ日吉の誕生日パーティー会場は、カナダにある跡部の別荘で!!部活終わったら日吉たちに言おーぜ。侑士はもうすぐ来ると思うしさ」


 こうして、今度こそ本当に『日吉若誕生日記念スキー旅行』が決定したのである。
 跡部を含めた話し合いで決定したからには、当然、残りのメンバーの不平不満や拒否は認められない。とはいっても、向日に甘い忍足や、跡部に付き従う樺地、宍戸命の鳳からは特に文句は出なかった。
 最後まで行かないと言い張ったのは日吉である。しかし、日吉が行かないのに『日吉若誕生日記念スキー旅行』が決行できるはずもない。
 旅行が取り止めになることを危惧した向日は、誕生日前日の休み時間をすべて日吉の説得に費やし、最終的に旅行参加の約束を取りつけた。
 説得が功を奏したのか、付きまとわれる事に疲れたのか・・・真相は日吉のみが知るところである。
 かくして、氷帝学園テニス部・前レギュラーチーム一行は、金曜日の部活終了後にカナダに向けて出発したのだった。

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あとがき

ってなことで、日吉若誕生日記念SSです。
侑士の誕生日記念後書きで、次回は2月のチョタの誕生日・・・と書きましたが、
どうせなら、ってことで12・1・2月と続く2年生トリオの誕生日も書くことにしました。
樺地のSSをどう書くかが今最大の課題です・・・(苦笑)
まぁとにかく、
ピヨー☆誕生日おめでとー!!
・・・とはいえ誕生日当日のシーンは一欠けらもありませんが(苦笑)
その上、出来上がったのが12月11日・・・。 これは本当に誕生日記念と言えるのだろうか。(反語)
愛情は込めたつもりなんですが、如何せんピヨへの愛情はまだ少なめ。
景吾や宍戸さん程の愛情は込められなかったというのが実情です(泣)
でも、まったくパーティーシーンがないというのも何なので↓

「氷帝の天才忍足侑士。日吉の為に“日吉”のズンドコ節歌いますっ!」
「おー、侑士いけー!!」
「じゃあ俺、次に『きのこの歌』歌うC〜」
「その次にデュエットしませんか?宍戸さん♪」
「長太郎・・・激ダサ」
「お前ら、俺様の美声に酔いな」
「ウス」
「・・・あんた達、俺の誕生日なんか祝う気ないでしょう」

少しは誕生日記念らしくなったでしょうか?(全くなってないって)
では、次回は1月3日樺地崇弘誕生日記念でお会いしましょう(逃)


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