お誕生日記念第一弾〜宍戸さん編〜


   <件名>Happy Birthday☆
   <本文>宍戸さん、お誕生日おめでとうございます!
         宍戸さんの誕生日を祝うことが出来てすごい嬉しいです。
         今日の放課後は空けておいて下さいね。
         2人で宍戸さんの誕生日をお祝いしたいので・・・。
                             長太郎


「よし、出来た。あとは日付が変わった瞬間に送信すれば・・・」
 心からの祝いの言葉を贈りつつ、自分の気持ちを伝える文章を考えながら、携帯と格闘すること1時間弱。打っては消し、消しては打ちを繰り返し、ようやく宍戸へのメールを打ち終えた。
 9月28日午後11時47分。あと13分で29日、宍戸亮の誕生日がやってくる。
「宍戸さん、プレゼント喜んでくれるかな。もしかしたら『うれしいぜ、長太郎。今夜は2人で・・・』なんてことがあるかもしれない。あ、じゃあどこかのスィートルームでも予約しておいた方がいいのかなぁ・・・。いや、家に泊まってもらうって手もあるし・・・」
 十中八九無駄になるであろう予定を立てている間にも、当然刻一刻と時間は過ぎていく。
「・・・ってことも考えられるよな。花束も渡したいけど、宍戸さん怒るだろうし」
 ふと置時計が目に映った。
「!?」
 時計の針は、0時3分を示している。
「え!?日付変わってるし」
 慌ててメールを送信する。
 日付が変わった瞬間にメールを送り、誰よりも早く宍戸の誕生日を祝う予定だった。それが、4分も過ぎてしまったのである。
 1時間もかかってようやくメールを打ち終えたことで、油断してしまった自分を叱咤する。しかし、いくら悔やんだところで時間が遡るはずもない。
「大丈夫・・・だよな。うん、絶対俺のメールが1番のはずだ」
 そう自分に言い聞かせながら、放課後の計画を確認しつつ眠りについた。


「宍戸さん。一緒にお昼食べませんか?」
 昼休み、鳳は宍戸の教室を訪れた。
 朝はテニス部の朝練のために会うことが出来ず、移動教室が多かった所為で休み時間にも会いに来ることが出来なかった。
 3年生が引退して以来、鳳が宍戸に会える時間は大幅に減っているのである。
「ちょうど良かったな、長太郎。今、跡部たちと屋上行くところだったからよ」
「もうちょい遅かったら入れ違いになるとこやったな」
「あれ、忍足先輩いたんですか?あ、跡部先輩も・・・」
 宍戸しか見ていなかったので気付かなかったが、宍戸の周りには跡部、忍足、向日、樺地の面々が揃っていた。
「あーん?鳳、何か文句でもあるのか?」
 氷帝テニス部前部長、跡部景吾に逆らえる筈もない。鳳はすごすごと屋上へ向かう先輩たち(+樺地)の後ろに続いた。

 屋上に出ると、初秋の風が顔を掠める。
 校舎が高台に建てられているので、屋上から街並が一望出来る。鳳はここから眺める景色が気に入っていた。
「跡部ー、やっぱりここにいたけど。どうする?」
 向日の声に振り向くと、エレベータホールの陰に芥川慈郎が寝ていた。
「放っておいたら放課後まで寝るだろうからな。1回起こしとけ」
 向日と忍足がジローを起こすのに苦心しているのを見ていると、宍戸に袖を引っ張られた。
 視線で促され、宍戸についてエレベータホールの反対側に回る。
「何ですか、宍戸さん」
「あのよぉ・・・」
 宍戸にしては珍しく、なかなか用件を言い出そうとしない。
 鳳がもう一度聞きなおそうとしたとき、言い難そうに宍戸が口を開いた。
「昨日の夜、って日付変わってたか・・・。お前、メールくれただろ」
「はい。送りました」
「で、放課後空けとけって書いてたじゃねぇか」
「はい、それが何か?」
「実は放課後・・・っ」
「2人で何の内緒話や?放課後がどうとか聞こえたんやけど」
「忍足!重い、どけ」
 文句を言いながら、突然圧し掛かって来た忍足を押しのける。
「放課後っちゅうたら、鳳も部活終わったら来ぃや」
「え、何処にですか?」
「せやから跡部ん家で宍戸の・・・」
「っちょっと待った!!」
「な、何やねん宍戸・・・。いきなり大声出して。心臓止まったらどうしてくれるんや」
 胸を押さえながら大袈裟に驚いてみせる忍足を睨みつける。
「向こう行ってろ。お前がいると話がややこしくなるんだよ」
「亮ちゃんヒドイっ。ちょっと若いからって鳳に乗り換えるなんて」
「いい加減にしねーと本気で殴るぞ」
「ちょっとした冗談やんか。ほな、あとは若いもの同士で・・・」
 最後までふざける忍足の姿が見えなくなると、宍戸は鳳に向き直った。
「宍戸さん、放課後がどうしたんですか?」
 不安そうに問う鳳を、真剣な表情で見つめ返す。
「長太郎。今から順序立てて説明するから、黙って聞けよ」
「・・・はい」
 宍戸は、鳳の返事を聞くと大きな溜息をひとつ吐いてから話し出した。
「日付が変わってすぐ、跡部から電話が掛かってきたんだよ。で、今日の放課後跡部ん家に集まる約束して・・・」
「えぇっ!じゃあ、俺のメールは・・・」
「だから黙って聞けって言ってんだろ!」
 「すいません」と小さく謝る鳳を見ながら、再び溜息が出てしまう。
「それでその電話のあと携帯の充電が切れて、充電しながら寝たんだよ。だから・・・」
「だから?」
「お前のメール見たの今朝なんだよ」
「ってことは放課後は・・・」
「約束した以上跡部ん家に行くしかねーだろ」
「そんなぁ・・・」
 1週間かけて立てた完璧──と自分では思っている──な計画が思いもよらない形で崩壊し、鳳は泣きそうな表情になってしまう。
「だぁっ、んな顔すんな。激ダサだろーが」
「だって、宍戸さん・・・」
「しょーがねーだろ。お前のメールより先に跡部の電話がかかってきたんだからよ」
「それは・・・そうですけど」
「とにかく、今日は諦めろ。ほら、昼休み終わるから飯食うぞ」
 そう言うと、まだ納得のいっていない鳳を残して、跡部たちのいる方へと歩いていく。
「話終わったんか?」
「・・・まぁな」
 その一言だけで宍戸の様子がいつもと違うことに気付いた跡部は、樺地に何かを耳打ちし、宍戸をからかおうと口を開きかけた忍足を眼で制した。
 つまらなさそうに口を噤んだ忍足。その様子を見て今は何も言わない方が賢明だと悟った向日。既に食べ終わって午後の夢の中にいるジロー。沈んだ様子で黙々と食べ続ける鳳。何も言わず箸を動かす宍戸。それら全てを観察する跡部(+その後ろで控える樺地)。
 異様な雰囲気の中、昼休みは終わっていった。



「1番!氷帝の天才忍足侑士歌いますっ!」
「おぉー、いけー侑士ー」
 午後5時をまわった頃、跡部邸カラオケルームでは『宍戸誕生日祝い』と称した宴会が繰り広げられていた。
「どうした、宍戸。主役が浮かない顔してんじゃねーか」
 シャンパンの入ったグラスを手渡しながら、宍戸の隣に座る。
「別に何も。ひとつ言わせてもらうとしたら・・・こいつら俺の誕生日祝いでも何でもなく、ただ騒いでるだけだろ」
「まぁそう言うなって。それに、こいつらが騒がしいのはいつもの事だろ」
「それもそうだけどよ・・・。それにしても、この騒音の中よく眠れるよな、こいつ」
「それもいつもの事だろ。ジローはいつでもどこでも眠れるのがウリだからな」
「・・・何のウリだよ」
 天使のような寝顔で眠りつづけるジローを見下ろしながら、フッと鳳の顔が浮かんだ。
 怒ってるんだろうな。忍足に誘われてはいたけど来ないだろうな。そんな思いが頭を掠める。
「そろそろだな」
 腕時計を見ながら跡部が呟く。
 「何がだ?」と聞く間もなくドアがノックされた。跡部付きの執事が顔を見せる。
「ぼっちゃま、樺地様他2名がお見えになりました」
「通してくれ」
 執事が一礼をしてさがってから数分後、鳳・日吉の2人が樺地に連れてこられた。
「ご苦労だったな、樺地」
「ウス」
 樺地に労いの言葉をかけ、ドアに近いソファに移動する。当然、隣には樺地を座らせた。
 日吉は憮然とした表情でドアの前に立ち尽くし、鳳はといえば、宍戸の視線を感じ気まずそうに俯いていた。
「何なんですか、跡部部長。樺地に無理矢理引きずってこられたんですが」
「見りゃ分かるだろ。宍戸の誕生日祝いだ。お前も参加していけ。それと、俺はもう部長じゃないんだが?」
「・・・・・・。帰らせてもらいます」
 無表情で言い捨て身体を翻した日吉を、いつの間にか傍に来ていた忍足が捕らえた。
「よっしゃ。次は日吉とデュエット行くで!岳人、キンキキッズの歌入れてくれ」
「ちょ・・・。離してもらえますか、忍足さん」
 抗議の声も虚しく、すっかりハイテンションな忍足によってステージへと連れ去られて行く日吉。それを呆然と見送る鳳に、跡部が声をかける。
「鳳、お前の席はソコだ。しっかり今日の主役をもてなせよ」
「え・・・そこって・・・」
 跡部の示した場所は、もちろん宍戸の隣であった。
「つべこべ言わずさっさと座れ」
「は、はい」
 ソファの一番端っこに座った鳳に、グラスを取りに立った宍戸が問い掛ける。
「何飲むんだ、長太郎」
「あ、宍戸さん。自分でやりますよ」
「じゃあやれ」
 そう言ってグラスを渡すと、さっきよりも近い位置に座り直した。
「宍戸さん、お・・・」
 鳳が何か言おうとした、まさにその瞬間、目を覚ましたジローが乱入してきた。
「宍戸〜、俺と一緒に歌お〜」
 そしてそのまま宴会がお開きになるまで、鳳が宍戸とまともに会話する機会はなかった・・・。




「ほな次は跡部のお誕生日会やな」
 跡部邸前。完全燃焼してやけにすっきりした表情で言う忍足に、跡部が鼻で笑って言い返す。
「ばーか。俺の誕生日はオーストラリアの別荘で過ごすって決まってんだよ」
「えぇっ!そうなん?」
「土曜日だから学校休みだもんな。あ、でも侑士。前日の金曜日とかにやったらいいじゃん」
「お、それええなぁ。そしたらバースデーイヴっちゅうことで金曜日に決定!!」
「勝手に決めてんじゃねぇよ。それより・・・樺地」
「ウス」
 本人そっちのけで盛り上がる忍足と向日を無視して、宍戸にプレゼントを渡す。(正確に言うと、樺地が跡部のと自分のを2つ渡した。)
「この俺が直々に選んだんだ。大事に使えよ」
「おぉ。跡部も樺地もさんきゅ」
 跡部たちから少し離れた場所に立っていた日吉も、それを見て鞄からプレゼントを取り出す。
「宍戸さん、良かったらどうぞ・・・」
「え・・・」
 思わず驚いた表情でまじまじと日吉の顔を見つめてしまう。
「迷惑なら持って帰りますけど」
「いや、そうじゃなくて・・・。お前、樺地に無理矢理連れて来られたって言ってたから、くれるとは思わなくて・・・」
「学校で見かけたら渡そうと思って一応用意していたんです。どうぞ」
「さんきゅ。ありがたく貰っとく」
「宍戸〜、俺からもプレゼント〜。はい、あげる〜♪」
「・・・お菓子詰め合わせとかじゃねーよな?」
「違うよ〜」
「んじゃあ貰っとく。さんきゅー、ジロー」
 プレゼントを渡し終えたジロー・日吉・樺地の3人が帰っていくのに気付いて、ようやく忍足が岳人との勝手な打ち合わせを中断した。
「すっかり忘れとった。宍戸、誕生日おめでとう」
「あ、俺も俺も。おめでとー宍戸。はい、これ」
「・・・向日のはいいけど、忍足のは何か嫌な予感がするんだけどな」
「酷いなぁ、宍戸。めっちゃ苦労して手に入れたもんやのに」
「それが怖いって言ってんだよ」
「ええからええから。まぁ存分に楽しんでや」
 意味ありげな笑いを残して、向日と共に帰っていく。その後ろ姿を見ていた宍戸に、跡部が声をかけた。
「俺はもう戻るぜ。気をつけて帰れよ、宍戸」
「あ、あぁ。今日はさんきゅ。また明日な」
「お疲れ様でした、跡部先輩」
 跡部の姿が消え、あとに残された宍戸と鳳。気まずい空気が流れる。
 鳳がプレゼントを渡してさっさとこの場を離れようかと思案していると、宍戸の声がその空気を破った。
「さーてと、そろそろ行くか?」
「え、何処にですか?」
 歩き出す宍戸の背中に、不思議そうな鳳の声が問う。
「宍戸さん?何処行くんですか」
 鳳が追い付いて再び問うと、消え入りそうな声で返事が返ってきた。
「俺の誕生日、祝ってくれるんだろ?2人で・・・」
「はい!」




「宍戸さん、来年の誕生日は1日中2人で過ごしましょうね」
「・・・ノーコン直したら考えてやらなくもないけどな」

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あとがき

 まずは一言。
 宍戸さん、お誕生日おめでとうございますっ!!(笑)
 ってことで、お誕生日記念SS第1弾、宍戸さん編でした。
 何となーく少女漫画チックになってしまった気がするんですが・・・気のせいではないんでしょうね、やっぱり。
 実は瑞樹、最近、宍戸さんラブ度が高いです。
 コミックスを読んでいても、ある巻のあるコマを見て「宍戸さん美人やなぁ」なんて思っちゃったりしてます(笑)

 そんな瑞樹ですが、跡サマへの愛はもちろん忘れておりません!
 お誕生日記念SS第2弾(があったら・・・)は跡サマ編ですっ!!
 『破滅への輪舞曲』の出来を期待しながらこそこそと書きたいと思います。
 出来上がるかどうかは未定ですが、もしUPしていたら生温い目で見守ってやってください・・・(汗)

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