とにかく楽しければ〜番外編〜

 地球温暖化の影響か、ここ数年G.W近くになると梅雨並みの蒸し暑さがやってくる。本来なら一年中で最も過ごしやすい季節であるはずなのに・・・。
 今年のG.Wは特に暑かった。突然うちに転がり込んできた居候二人が、その全ての原因だと言っても過言ではないだろう。



「入学式ぶりやなぁ。元気にしとったか?新一」
 G.W.も終わりに近付いたある日の午後、突然一人の少年が工藤家のリビングに現れた。  まるで長期旅行にでも行くような荷物を床に下ろしたその少年は、東の名探偵工藤新一と並び称される西の名探偵で、自称工藤新一の親友の服部平次だった。
 実はこの二人、同じ大学に入学したものの、四月の入学式以来まったくと言って良いほど会うことがなかった。  というのも、人と付き合うのがあまり好きではない新一と違い、出会ったばかりの人にでも馴れ馴れしくしてしまう平次は、入学式直後から知り合いが増えつづけ、その上おだてられると調子に乗るタイプなので、気が付くと十ほどのサークルに入部していたのである。そんな状況に、学部が違うことも手伝って、この一ヶ月お互い顔も見ない生活だった。
「別に元気でもねぇけど・・・。何だよ、その荷物」
 不機嫌そうに問う新一から目線を逸らせながら、ハハハとわざとらしく笑う。
「いや、実はな・・・」
「何だよ、さっさと言えよ」
「実は・・・しばらくココに置いてもらわれへんかな・・・」
「は?」
 新一が思わず聞き返すと、今度は目を逸らさずに繰り返した。
「せやから、しばらく新一ん家に住まわせてくれへんか?って言うてんねんけど・・・」
 不審そうな新一の視線を、ひきつった笑顔で受け止めながら向かいのソファに座り込んだ。
「ほら、新一ん家大きいし、部屋も余ってるやろ?ホンマにしばらくの間でええから、置いて欲しいなぁ♪なんて・・・」
 「そうだな」と考え込むフリをする。新一としては部屋を提供することぐらいは構わないが、平次の態度が気になった。普段は言わなくて良いようなことまで言うくせに、今日は何か奥歯にモノの挟まったような話し方なのである。
 何かある、と東の名探偵は確信した。
「良いぜ、別に」
「ホンマか?」
「ああ。お前がいつも使ってる客間、あそこで良いだろ」
「何処でもええで」
 安心して咽喉が渇いたのだろう。キッチンに向かおうとした平次を、新一の声が引きとめた。
「でも、理由を聞かねぇとな。先月入ったばっかのマンションはどうなったんだ?」
「あ・・・」
「ん?」
「いや・・・それが・・その・・・」
 平次の視線が、リビングを一周して新一に戻ってくる。覚悟を決め、口を開いた瞬間、部屋の中を十数羽ほどの白い鳩が飛びまわり始めた。
「は・・・?」
 出鼻を挫かれ、思わず平次の口から力のない声が漏れる。新一は呆れ顔で部屋中に視線を走らせた。
 犯人は判っている。新一や平次の周りで、こんなコトをするような人間、いや、こんなコトが出来る人間は一人しかいなかった。
「快斗、さっさとハトしまえよ」
「黒羽、何処におんねん」
 二人がそう言うとすぐに、バラバラに飛んでいた鳩が一ヶ所に集まり出した。と同時に、パッと鳩が消え、一人の少年が姿を現した。
「さて、楽しんでもらえたかな?」
 キザな動作でウインクを投げてきたその少年は、普段は新一や平次と同じ大学に通う大学生、黒羽快斗。そしてその正体は、数年前から世間を賑わしてきた怪盗KIDその人であった。
 数々の事件で接触を繰り返してきた新一(コナン)とKID。当然ながらその関係は敵同士だった。しかし、ある事件で偶然にもKIDはその正体と目的を新一に知られてしまう。そしてすったもんだの結果、彼らの関係は敵同士から親友へと移り変わったのである。
「ったく毎度毎度・・・。もっとフツーに入ってこれねーのか?快斗・・・」
「これが俺のフツーなんだけどなぁ」
「そんなフツーがあるわけないやろ・・・」
「あれ?服部、来てたんだ」
「白々しいやっちゃなぁ。どーせ俺らの話聞いとったんやろ?」
「人聞き悪いな。俺が盗み聞きなんてすると思う?で、何でマンション追い出されたんだ?」
「しっかり盗み聞いとるやないか・・・」
「快斗のコレはいつものことだろ。それより、何があったんだよ」
 よく似た顔の二人に問い詰められ、観念するしかない状況に追い込まれた平次であった。
「それがな・・・ネコ拾ってん」
「ネコ?何でネコ拾ったぐらいで服部がマンション追い出されるんだ?」
「それも一匹ちゃうねん。十匹ぐらいおったかなぁ・・・」
「何時。何処で。どういう理由で拾ったんだ?」
「・・・取り調べ受けてるみたいやなぁ。新一、俺は犯人ちゃうで?」
「いいから答えろよ」
「二週間ぐらい前の雨の日や。ウチのマンションの近くに空き地あるやろ?あそこでな、ちっこいダンボールん中に十匹ぐらいの子猫が入っててん。ホンマに子猫やで、手のひら乗るぐらいの・・・。そのまま置いといたら絶対死ぬやろ?せやから、思わず家連れて帰ってしもてん」
「服部らしーな」
「続きがあるだろ?ただネコ拾ってきただけで追い出されたりしねーだろーから」
 ふと気付くと、新一の眼が、探偵のソレに変わっていた。
「拾ってきたんはええけど、さすがに十匹も俺一人で飼うわけにいかんから、里親探し始めてん。結構順調に里親見つかって、一昨日の時点で残り二匹にまで減ったんや」
「お前そーゆーの得意だよな。新一だったら三年ぐらいかかるんじゃねぇの?」
「うるせー。オレは元々人が苦手なんだよ。平次、それで?」
「一昨日、宅急便の応対しとるときにドアの隙間から二匹ともマンションの廊下に出て行ってしもてなぁ。急いで追いかけてんけど、一匹見失ってしもて・・・。でエレベータ乗ろうとしたら何でか止まってて、悪い予感がするなー思てたら案の定ウチのネコの仕業や・・・。間ぁ悪いことに、その日はたまたまマンション全体の電気検査みたいなんやる日やったらしーてな。何やらかしたかは詳しく聞いてへんけど、結果は丸一日マンション全体の停電、エレベータ全治一週間・・・。追い出されてもしゃーないやろ・・・?」
「馬鹿じゃね―の、お前。助けたネコに恩を仇で返されてどうすんだよ。でもま、服部らしーとは思うけどな」
「いいんじゃねーか。平次からバカな行動取ったら何にも残らねーだろーし」
「お前ら、好き勝手言うてるやろ・・・」
「そう怒るなって服部。褒めてるんだからさ」
「何処が褒めてんねん」
 快斗と平次が下手な漫才を続ける横で、新一は何か思い出したようだった。
「あれ?平次、その二匹の子猫はどうしたんだ?」
「ああ、忘れとった。一匹は昨日里親に渡してきてんけど、もう一匹はまだ里親見つかれへんから連れてきた」
 思わず辺りを見回してから、新一と快斗は顔を見合わせ、首を傾げた。
「どこに?」
 「ここ」と言いながら、平次はシャツのポケットから手のひらサイズの子猫を取り出した。
「ばっ、お前なんてトコに入れてんだよ!」
「よー寝とったし、荷物で手ぇ塞がるからココが一番安全かな、と。可愛いやろー」
「潰れたらどーするつもりだったんだよ、まったく」
「ホント、可愛いな。手放すの嫌になるんじゃねぇの?」
「そうやねん。娘を嫁に出す父親の気持ちってやつやな。新一、コイツ、ここで飼うたらアカン?」
「お前が責任もって飼うならいいけど?オレは事件やら何やらで留守にすることも多いしな」
「そー言われたら俺も事件とか色々あるし・・・」
「俺も仕事の下見とか下調べとか色々あるしな・・・」
 自然に話に入ってきた快斗に、新一が待ったをかける。
「快斗は関係ねーだろ?」
「え?ああ、言うの忘れてた。服部が新一ん家に住むなんてスゲー楽しそうだから、俺も一緒に住むことにしたから」
「はぁ?」
 この家の現主人の新一の意見も聞かず、勝手に住むことを決めた快斗に呆れつつ、半ば言っても無駄だと思いながらも、新一は一応反対してみた。
「ダメだ。んなことになったらオレ一人が苦労するの目に見えてるじゃねぇか。平次一人でも面倒なのに、快斗までなんて冗談じゃねぇよ」
「えー、いいじゃん。合宿みたいで。な、服部?」
「そうやなぁ。黒羽がおったら騒がしなりそうやけど、楽しいかもなぁ」
「じゃあ多数決取ろうぜ。三人で暮らすのに賛成な人!二人、と。反対な人」
「誰が何と言おうと反対。大体、ここはオレん家なんだぜ?おめーらが勝手に決めるなよ」
「はい。二対一で賛成の勝ち。んじゃ早速明日にでも荷物運んでこよっと」
「当番とか作らなあかんな。食事当番に掃除当番、洗濯、買い物もいるか」
 嬉々として集団生活について話し合う二人を尻目に、新一が溜息をついていたのは言うまでもない・・・。





 平次がポケットに入れて工藤家に連れて来た子猫。あの子猫のその後、気になりません?


ということで⇒<後日談>

「灰原、お前ネコ飼いたいって前に言ってなかったか?」
「確かに言ったけど・・・。それがどうしたの?」
「実は、平次のやつが子猫拾ってきたんだよ。でも留守の多いオレたちじゃ飼えねぇし」
「で私に押し付けようってワケ・・・」
「別に押し付けるわけじゃねぇけど。どうせなら可愛がってくれるやつにもらって欲しいだろ?」
「・・・別にいいわよ。私が飼えば、会いたい時にすぐに会えるでしょうし」
「やっぱバレてたか。平次のやつ、離れたくないってうるせーんだよ。それでウチの近くで里親探し」
「服部君らしいわね。・・・彼に伝えておいて。私が責任もって預かるから、会いたい時には何時でもどうぞ、って・・・」
「確かに、隣なら何時でもいけるよな」
「名前は決まってるの?」
「いや、やっぱ里親に付けてもらった方が良いからって」
「じゃあ、コナンにしようかしら・・・」
「げ・・・」
「あら、どうしたの?」
「頼むからそれだけはやめてくれ・・・」
「さぁ、どうしようかしら・・・」
「灰原・・・」

 新一は、相手が誰であっても苦労をする星の下に生まれてきたのだろうか・・・。
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あとがき

 さて、森見氏が自爆した(怒)リクエスト「新一・快斗・平次の三人が同居に至った過程」ということでした。一応言っておくと、この三人の同居話はシリーズものでして、題名は『とにかく楽しければ』です。
ちなみに、新一(&瑞樹自身)の誕生日記念に書いた小説は、この番外編のちょうど一年後の話となっております。
 さて、文中にありました「何故探偵と怪盗が親友をやっているのか」の部分。はっきり言ってふざけてますね(反省)。この場を借りてお詫び申し上げます・・・。
 ↑このお詫びもふざけている節が・・・。
 平次がマンションを追い出された理由、完全に瑞樹の創作ですので、あれで本当にマンションを追い出されるかどうかは知りません(苦笑)
 どうにかして平次が追い出される理由を作らないと、と必死に考えた結果のことですので、笑って読み流してくださいませ。

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