この世界が朽ち果てるまで 2 息を呑んで言葉を失う、君の様子にボクはとても嬉しくなって。やさしく髪を撫 でて、額に口付ける。一乗寺くんは大きく目を見開いて、その表情だけで訴え掛 けてくる。 「そろそろ始めるよ?心の準備はOK?」 頭を振って否定の意を伝えてくるけど、君がどんな気持ちで居るかは、あまり関 係無いから、ボクは自分のやりたいように。服のボタンに手を掛けると、竦む体 。掠れた声が徐々に上がる。 「いや・・・だ・・・やめて・・・くれっ」 無視して次々とボタンを外して、白い胸を露わにさせる。木々の間から月明かり 、君を照らす。濃い影を纏いながら、綺麗なすべすべの柔らかい肌が粟立ってる 。乱暴に胸の先の敏感な所を刺激する。小さな悲鳴が上がる。後ろに押し倒して 、狭くてなだらかな斜面、転がして。これで完全に死角。ボク達は誰にも見つか らない。君はここで、隠している全てを曝け出せばいい。泣いて叫びながら、体 を震わせて、君の中の醜いもの全て、出してしまえばいい。 妬みや嫉みや、そんな醜い感情のドロドロした塊。それらがきっと、ボクのこれ からの人生に影を落とす、やがてボクが死ぬ時にそれは必ず影響して、僕はきっ とまともな死に方はしないだろう。死んだ後も安らかになんて眠れない。でもい いんだ、ボクは幸福な死と引き換えに、欲しい物を手に入れる。暗闇の中、不安 そうに佇んで、手探りで足を踏み出そうとしている迷える魂。目をそばめて光を 直視しようとしている身のほど知らずな愚かな弱い生き物を。なんでボクは欲し いと願うんだろう。 放物線を描いて放たれる。月の涙みたい。……自分の感傷癖、あんまり陳腐で笑 っちゃう。ボクと君は繋がりながら、ゆらゆらと揺れる。痛みに涙を流しながら も君は、長く尾を引く悲鳴と共に快楽の証を吐き出して。捻じ込まれて傷を負っ た場所から、流れ出す暖かな液体。鉄臭い独特な匂いが辺りを満たして、それに 酔いそうになる。切れた部分、そっと指を這わせて押さえると、悲鳴が漏れる。 「謝るなんてしないからね」 それだけしか言葉が出てこない。 ボクは子供だ、だから君の事なんか微塵も考えもせず、自分を満足させるしか。 余韻に浸る間も与えずに、君を追いたてる。激しく突き上げて、掠れた声が上が るまで。 ちぎれた草を体のそこかしこに。痛めつけられた人間特有の夢見るような瞳。ぐ ったり横たわる体、腕の拘束を解いても、身動きすらしない。髪をそっと撫でて 、頬や顎や、ずっと触れたくて堪らなかった君に触れる。 「傷……ついちゃったね」 小さな声で呟くと、一乗寺くんは視線だけで僕を見る。 「こんな傷、生きていればいつかは癒える」 低く抑揚のない声で君が語り出す言葉を、ボクは聞く。 まるでこの世ではない、どこか違う世界から響いてくるようで、ボクは耳を塞ぐ 事もかなわない。君は続ける。 「……死んでしまったら、それは望めないけど。開いた傷口から、あとからあと から血が流れて、それを止めようと手のひらを当てても、まるでそんなの何の意 味もないみたいに。……綺麗に清められた後も、傷は塞がる事無く、そのままの 形で残るんだ」 破綻している?君はそれだけ言うと、瞼を閉じた。涙が頬を伝う。しばらくの間 、押さえ切れない嗚咽が響いて、ボクは彼が泣き止むのをずっと待っていた。 傷つけられた小動物は、危害を加えられる環境にあっても、逃げる事まで頭が回 らない。悲しい習性、自分の境遇を哀れんでいつまでも泣いてる君を、ボクはい つまでも抱きしめている。月はボク達の頭の上で白く冴え渡っていた。 end |