止まない雨








居心地わるそうにもじもじする君はなんでこんなに頼りなげなのかな。
濡れた髪をタオルで拭って、そしてお茶を持って入ってきたボクに、一乗寺くん は真剣な表情で。

「服、洗って明日返すから……」

「そんな事気にしないでよ。いつでもいいんだからさ」

見なれないせいか、ひどく浮いて見える着替えに貸したボクの服。
君はいつもたいていモノトーンのものが多いから。
明るい色のシャツ、いつもより何倍も顔色が良く見える。

「制服吊るしといたからさ、完全には乾かないだろうけど。それで……どうする ?」

ボクの問いかけに一乗寺くんは、意味が掴めないという風に首を傾げる。
そうすると、真っ直ぐな髪がさらりと肩に落ちて、しかもまだ半乾きなせいで妙 に艶っぽくて。
女の子はさ、自分がどういう風に見えるかちゃんと分ってて、そういう仕草をし て見せるけど。
一乗寺くんはそんな計算とか、微塵もしてないんだろうなあなんて、いやむしろ そういうの分ってやっててくれるんなら どんなにかマシだろうって、ボクは単純でわかりやすい友人の顔を思い浮かべる 。
いつまでもボクが黙って、言葉を続けないもんだから、少し焦れたように君が口 を開く。

「どうって……何が……かな?」

「大輔くん達がデジタルワールドから戻るまで、何して待ってる?このままボク んちで時間潰してていいけど」

君が嫌じゃないなら。
それは言葉にせず、心の中で。
一乗寺くんは途端に真っ赤になって、俯いてしまった。

「一乗寺くん?」

「大輔には会わないで帰るよ。君にこれ以上迷惑掛けられないし」

あーあ。全く、嫌になるよ、君はいつもこうだ。
こんな雨の中、傘も差さずに掛けつけてきてくれる君を歓迎しないなんて、そん な事あるもんか。
ボクには、それを知った時の大輔くんの反応が、手に取るようにわかるのに、君 にはまるで。
そしてボクは、こんな風に表情がくるくる変わる君を見てるのが、どこか楽しい だなんて。
二人きりの時、こんな多彩な表情、見せてくれた事あったっけ?
人の気持ちを推し量る事、いつも一乗寺くんは、そんなとこが欠如してる。 そんな不器用な君もまた、それはそれでいいんだけど。時折垣間見える内面を知 るたび、惹き付けられてしまうボクだから。

「あのね。さっきまでボク、気分がすぐれなくて。気持ちの問題だったみたいな んだけど」

慎重に言葉を選んで、君の顔を覗き込みながら、言葉を続ける。まっすぐボクを 見つめる瞳。

「一人で居ると、また沈んじゃいそうだから。しばらく一緒に……居てくれない か……なあ?」

最後は計算尽くの笑顔で。事実、雨の日は、ほんと。苦手なんだ。
しばしの沈黙。その間見詰め合っちゃって、君の瞳はほんといつ見ても思慮深い 。
そして何度も何度も頷いて君は、僕なんかで良かったらって。それはいい意味に とってもいいんだよね?
君の意志でここに居てくれるっていう、好意にとってしまっても。

「良かった!じゃあ、ボクの部屋おいでよっ」

声が思わずひっくり返っちゃったけど、君もなんだかあわあわしてて、ボクのそ んな様子に気付いてもいない。
膝の上で行儀よくしてる手を掴んで、ソファから立たせて。
手を離すタイミングがよく分らなくて、仕方なく部屋に案内する間、ボクは少し 冷たい一乗寺くんの掌の感触を味わっていた。
濡れたせいで、一乗寺くんの髪からシャンプーの匂いが香ってきて、やばいなあ なんて、頭の隅で冷静に考えて。
こんな時は、ジョグレス・パートナー同士じゃなくて良かったって思える。
ボクの考えてる事、君にそのまま伝わっちゃったとしたら、ボクは恥ずかしくて 、2度と君を見れないだろう。
心臓の鼓動、どうか気付かれませんように。
ボクのそんな心配は無用だったと見えて、部屋のドアを開けるまでのほんの短い 距離で、君は何度か躓いて。
ほら、やっぱり手を離さないでよかったんじゃない?
体勢を崩した君の体を支える度、気をつけてねなんて律儀に繰り返すボクは、 いつからこんな思いやりのある人間になったんだろうか。
ああ、でもきっとこれは今だけ、君にだけ限定なんだろうな。



ねえ、それにしても、なんでそんな無防備に感情表に出しちゃうのさ、大輔くん の前じゃないのに。








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