冬の海― 「あのさぁ…わかってるだろうから、あまりしつこく言う気はないんだけど」 なら言わなければいいのに。相変わらずお節介の癖、直ってない。僕は黙って海を見つめてる。海を渡って吹く風は彼の絹糸みたいな髪を乱暴に乱していく。 「大輔くん、あれでも君の事心配して……」 「噂……本気にしてるんだ?」 謎めいた微笑。何を考えてるのか分りかねるその顔。彼の手が伸びて、僕の頬に触れる。冷たい指先、僕は一歩あとずさる。 「自分を大切にしないとね」 「……っ!!君に何がっ……」 手を振り解いて、砂浜を走る。冷たい風が痛い。額にも頬にも、滅茶苦茶に吹きまくられた髪が。いくらも走らない内に、僕は後ろから抱きすくめられた。寒いのは嫌いなんだ。だから今すぐここから逃げ出したい。 「手を離してくれないか…。頼むから」 |
嘘―
砂塗れの体を軽く叩いてから、玄関の内側へと。 「寒いのも砂塗れもどっちも嫌いなんだ」 君は何がおかしいのか口元押さえて、揺れているからほんの少しだけ僕は不機嫌になる。 「あのまま真っ直ぐ帰れば良かった……。」 「あー、ごめん。もう笑わないから。上がってよ」 何度目かの訪問なのに、それは数年前の記憶だからなのか、僕は少し勇気を振り絞らなくちゃならなくなる。慣れない他人の家の中に通されて、落ちつかなく僕はそわそわと辺りを見まわす。進められるままにソファに浅く腰掛けて、僕の正面に陣取る彼を見る。 「それで、君は僕に説教するつもりなのかな?だとしたら、見当違いだという事を先に言っておくけど」 「まさかそんな事……」 正面から僕の目を覗き込んで彼は続ける。 「きっかけは何だったの?」 「だから……あれは単なる噂だって……」 「あくまでシラを切るつもりなんだ?」 僕の何を知ってるのだろう。彼の目に見据えられると酷く落ち着かない気分にさせられる。 |