FLY AWAY    2








離れれば何もかも全てが物悲しい、触れ合う事だけがどこか僕を安堵させる。高石に寄り掛かって体を預けると、肩から回された手が僕の胸元辺り服の隙間を探って。途端に忘れたと思っていた不快感が蘇ってきて、その感覚に息が詰まりそうになる。痛みは消えて久しいのに、掴まれた感触があまりに現実味を帯びていて、僕はぎゅっと瞼をつぶった。

「嫌だ。高石、触るなっ……」

体を強張らせ、腕の拘束を解こうと身を捩る。高石は手を休める事無く、僕の抵抗なんて、少しの抑止力にもなってはいないようだった。ボタンが幾つか外されて、指が忍び込んでくる。

「やだっ!」

「大きな声出さないで」

「だって……」

そんな攻防を繰り広げて、ときたまはっきり浮かび上がる高石の焦りの見える顔に、体が竦む。触られたくない……、こんな風に僕の気持ちを無視して。涙が頬を伝う。最悪だ。バツが悪そうに、高石がそっぽを向いて僕から離れる。途端に体の隙間に夜風が忍び込んで来て、そのやるせなさに声を押し殺して僕は泣いた。おそるおそる伸ばされた高石の手が僕の頭をやさしく撫でて、そうされる事で余計に涙があふれた。しばらく涙を流し続けたら、中身まで流れてしまったみたい。

「ボクに触られるのなんて嫌だよね。無理にしようとしてごめん……」

どこかぼんやりとその声を聞く。そんな事ない。高石に抱きしめられて感じた浮遊感、僕の四肢から力を奪った不思議な感覚。いつまでもそうしていたいって思ったのに、何故か引き戻されてしまった。あまりにも不快感が勝って、それは僕をその圧倒的な両腕でもって快楽の淵から引き剥がした。

「そんな事ない。嫌だなんて。ただ……」

うつろに響く声。僕の心の準備が整ってなかっただけだから。そしてはたと気付く。僕は今何を言おうとしてたんだろう。触られるの嫌じゃないなんて、おかしな事言ってしまったって慌てて口を噤む。でも考えてみればどこかおかしい。その違和感にたまらず、疑問を言葉にする。

「なんで……さ、触りたがるんだ?僕は男なのに」

「男に触るのって、変?」

「変だろ!良く考えてみろよ」

じっと見つめられてドギマギしてしまう。僕は女の子じゃないんだから、触られても気持ち良くなったりなんか。

「好きなら触りたくなっちゃうんだよ」

どこかあきらめたような口調で高石が呟く。僕は、また顔が熱くなるのを感じる。高石はそんな僕に構わず続ける。

「好きって。そういう種類の好きだから」

「勝手だよっ!何でみんなして僕にそんな風に」

勢いで出てしまった言葉に高石が反応する。

「そうだよ!勝手だよ。でも他の奴と一緒にするなんて!他の奴がどんな風に君に触るのか知らないけど一緒にするな。」

高石は激しく言い放って、乱暴に僕の手をつかんで立ち上がった。勢いに押されて僕も立ち上がる。高石は花火を見上げてる人の波を掻き分けて走って行き、僕は引っ張られる。言葉を掛けるタイミングが掴めない。かなり怒っている風に見える高石を恐れて。駅の周辺は人もまばらで、帰るなら今だ。でもそう切り出せない。





「あっ!」

勢いこんで飛びこんだのは見た事のあるエレベータ。階数ボタンを押して壁に寄り掛かり、僕の方に向き直った高石は、肩で息をしている。僕も呼吸を整えながら高石を睨みつけ。軽い揺り戻しがあって、目的の階に着いた事を知る。高石が僕の手を引いて黙ってエレベータを降りる。僕は嫌な予感がして、その手を振り解こうと渾身の力で抵抗すると、高石は低く囁いた。

「人に見られたら騒ぎになる」

そんな一言で僕の動きは鈍り、うなだれて手を引かれ。ドアを開ける間、繋がれたままの手を見ていたら急に強い力で中に引っ張りこまれた。促されるまま靴を脱いで上がって、慌ただしく連れてこられたところは高石の部屋。あっと思う間もなくベッドに引き倒されてた。高石が乗ってベッドが軋む音が僕を竦ませて、恐れていた事が現実になった事を知る。

「さぁ、これで人目を気にする事無く君に触れられる」

「僕は嫌だと言った!」

反抗もここまで。手首を掴まれ唇を塞がれる。舌が忍び込んで来て、僕の体から抵抗の意欲を奪う。中途半端に外されてたシャツのボタンが今や全て。高石の視線に晒されて僕は震えた。高石の唇が胸に降りてきて、そこから赤い舌がちらりと覗く。

「いやだっ…やだ…」

喉の奥が張り付いたみたい、まともに声が出ない。舌が、高石の舌が僕を追いつめる。これのどこがあの酔っぱらいがした事と違うっていうんだ。腹の底からこみ上げてくる不快感が、再び僕の視界を歪ませる。

「……一緒だよ、君も」

抑えようとしても嗚咽混じりの息が絶えず漏れて、その苦しい息の下、侮蔑を込めて投げつけた言葉。高石が怒るのわかってて言う。

「僕の気持ちなんか……ひとつも考えない!」

紙のように蒼白になる顔、どうせ傷つけられるなら相手にもそれ相応の痛みを。

「無理矢理こんな事して満足なのか。つっ!?」

柔らかい胸の皮膚、激しい痛みが突き抜けて、高石が歯を立てたのだと知る。

「離せぇぇー!」

驚いて、僕は力一杯高石の肩を押しやる。

「大輔くんみたくやさしくなんかしないよ?」

高石が吐き捨てるように。じんわりと痛みが広がって、すぐに規則正しくずきずきと疼きだす。僕は暴力に屈して自尊心を捨て去り、涙で掠れた声で。

「本宮はこんな事、僕にしない」

僕は、心のどこかでは本宮にそういう事を望んでいたのだろうか?彼の不器用だけど思いの一杯詰まった仕草の一つ一つを思い浮かべる。

「へぇ……そうなんだ」

さも意外そうに高石がつぶやいて、僕ははっと我に返る。

「じゃボクの知らない誰かが、君にこんな事してるんだ?」

ボクはそいつらと一緒なんだもんね。唇の端、歪めてみせて、冷たくあざ笑う声を立てて。じんじんと痺れるように痛む箇所、高石の指がさらに追い打ちを掛ける。痛みから逃れる為か、それとも高石の言葉を否定したい為か、自分でももうはっきりとは分からずに僕は精一杯頭を振る。傷をえぐった指がそのまま、胸から腹部に向かって線を引くように滑る。体が無意識に跳ねてしまう。

「何か言いたい事あるの?」

何故だか僕は、さっき僕をからかった男たちの事を洗いざらい。途中声が震えて、言葉が続けられなくなるのを高石に促されながら。

「だから、さっき……。ふ〜ん……君っていつでも踏みにじられる存在なんだね」

僕は返す言葉も無く、ただ黙って。高石が僕の胸を手のひらで撫でてく。僕はぎゅっと目を瞑った。そして今度は高石が僕を踏みにじる。それは、先ほどまでのからかいなんかとは比較にならない程のダメージを、僕に与える事になるだろう。絶望にとらわれた僕の胸の上、高石の指は宥めるように、まるで肌の表面を羽根が霞めるように撫でて行く。我知らず体が跳ね上がって。高石がそんな僕の反応に気を良くしてるのがわかり、思わず僕は顔を背けた。

「ほんとの意味で触れられた事ってないでしょ。どういうものか教えてあげる」

胸の先端、高石の指が何度も掠り、それが妙な快感を呼び起こす。体の中心、ムズムズしだして、じっとしてられない。高石が顔を近づけてくる。高石の瞳、こんな風に近くで見つめたの、きっと初めてかも。陰った瞳の深い青。

「キスの時は目を閉じるもんだよ」

慌てて目を閉じた後、柔らかな暖かい感触を唇に感じて。頭の中の何かが弾けた音を聞く。 舌を絡み取られてる間、高石の手が僕の背に回り、強く体を引き寄せられる。思考は完全に溶け出して、ぐちゃぐちゃのどろどろ、唇の隙間から漏れ出す音にも似て。今や触れなくても分かる、張りつめた僕の中心が痛いほど。口の中の小さな器官がこれほどまでの快感を生み出すなんて。胸の奥の不快感も、傷ついた皮膚の痛みも、今だけは遠く忘却の彼方。舌で体をなぞられて全身に震えが走る。未発達ながらも必死に、僕の体は愛撫に応えようとしている。恐怖でもなく、嫌悪でもなく、ただ快楽の喜びに震えながら。








next




楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル