FLY AWAY 4 「ボクは君に恋してる」 どこか夢の中にいるみたいな妙な気持ちで聞く。 「そんな事気付いてなかったでしょ、君は」 曖昧に僕は頷いた。 「大輔くんしか見えてないもんね」 高石の手が僕の腰に回り。勢い良く押し倒されて混乱のうちに体をまさぐられる。身に付けた服が再び剥がれる。乱暴な仕草でも、僕はもう恐怖は感じていない。 「ボクだけを見てよ。ボクの事を考えて」 唇を塞がれる。舌が潜りこんで。もう高石が僕を傷付けることはない。傷つけられたとしたところで、大した痕には残らない。僕の胸の上でその指はひたすらやさしく、未知の感情を呼び起こす。どこが違うのか僕にはもうわかる。高石は、ひたすらやさしく僕を駆り立てる。もう忘れられない、いったん覚えこまされた快感。 抱き合ってキスして、お互いを求め合う。激しい高ぶりが僕を押しつぶして何もわからなくさせる。わからないままに僕は高石にしがみついて、解放を待つ。僕は波に浚われるままに、翻弄されて溺れて、メチャクチャにされたい。何も考えずにすむように、僕を乱して欲しい。僕は高石の名を何度も呼んで、白く弾けさせるまで頭を振り続けた。吐き出した後も高ぶりは治まらず、僕は高石に抱きしめられながら震えていた。荒れ狂う波が静まらないうちに、想像もしなかった痛みが体を貫き、頭の中の霞を払う。起き上がりかけて、自分の身に何が起きているのか知る。 「いやだっ!何を」 声を出す事すら、痛みに挫けそうになる。 「君と一つになりたいんだ。いいでしょ?」 そんな事言われたって。体が強張って、高石を押しやろうと闇雲に伸ばした手を掴まれて、メチャクチャに揺さぶられる。痛み、苦しみ、混乱の内に、誰か他人を体に受け入れるという事がどういう事なのかを知る。苦しくて逃げをうっても、力強い腕に捕まえられて逃げられない。さっきまでの気持ちはどこかへ吹き飛んで、たまらなく怖くなった。 混沌が恐怖を連れてきて、声をあげる事もままならず、僕は高石に好きにされて。一際激しく打ち付けて、僕の上に倒れ込んできた高石の体の重みに、僕はようやく苦しみから解放されたのだと知る。荒く息を吐く高石は、何だか見知らぬ大人の男のようで、胸の痛みに僕は喘いだ。両腕で庇うように体を抱きしめて、丸くなる。余韻はいまだに僕の体のそこかしこに残り、拭い去る事は不可能に思えた。 「……ごめん」 高石の手が肩に触れる。僕は高石の顔を見る事が出来ず、ただ背中を向けて壁を見つめて居た。背後で溜め息と共に空気が動く。一人取り残されるのだろうか。それもまたいいかもしれない。今日一日で自分の身に起こった出来事の数々を、ゆっくり噛みしめて、後悔と屈辱に塗れたい。そんな自虐的な考えに捕われて、僕は微笑んだ。と、同時に涙が零れる。間抜けで弱い自分を憐れんだ。高石が戻ってきて、僕に触れる。慌てて手の甲で頬を拭った。先ほどまで受け入れさせられて、まだ少し痺れて痛む奥まった部分に、高石の手が触れる。高石は僕の強張ばった体をやさしく拭き清めながら、好きなんだと呟いた。 「君を手に入れる為ならどんな事だって」 聞きたくなくて、僕は目を閉じた。 ********* まどろみの中で僕は探していた。腕を伸ばすとそれは僕のすぐ側にあり、僕は安堵の息を吐いた。次の瞬間、はっきり目が覚めた僕が見たものは。見慣れないTシャツを着た僕の隣、高石が眠っている。 「着替えさせてくれたのか……」 いつのまにか朝で、気温は序々に上がってきていて、今日も暑くなりそうだった。 「あっ!」 大変な事に思い至る。家に帰らなくては。連絡も入れずに一晩夜を明かしてしまった。今ごろ騒ぎにでも。僕はベッドから起き上がり、高石を乗り越えて床に降りる。ぐっすりと眠る高石の寝顔を見るとはなしに。くちゃくちゃに寝乱れた髪、瞼を閉じてるせいかいつもより幼くみえる。額に浮いた汗、僕は無意識に手を伸ばした。触れると同時に青い目と出会ってしまい、僕はうろたえた。慌てて手を引こうとして、その手を掴まれる。掴まれた手は高石の口元まで引き寄せられて、軽く音立てて口づけられた。その瞬間、体の奥から駆けのぼってくる倦怠感にも似た妙な感覚に、僕は脱力する。 「おはよう」 高石の両腕が伸びて、僕の首の後ろで組まれた指先。そのまま引き寄せられて唇が触れる。舌を絡ませられる前に、なんとかその呪縛を解いて。 「家にっ!帰らなきゃ」 その前に無事だって事を。じっと僕を見つめる高石の目、感情が読めない。再び近づいてくる唇を押し退けて。 「だからっ。聞けよ」 無視して重なる唇。舌が潜り込んできて僕の言葉を奪う。髪を掻き回され、意識が遠ざかる。僕は抗いたいのかそれとも更なる快感をねだっているのか、自分でもわからないまま、高石にしがみついた。笑みを含んだ高石の声。 「連絡はしておいた。ゆうべのうちに」 だから……。高石の言葉は掻き消える。だから?何だろう。慌てて帰らなくていいって事、このままキスに溺れていたって。 目も眩む絶頂を迎え、今一度、弾けさせた後、僕の体は完全に動かなかった。ぐったりとベッドに横たわり高石を目で追って。しばらく僕の体を撫でていた高石が起き上がる。 「汗流そうか。おいで、立てる?」 そして縺れるように、二人抱き合って頭からシャワーを浴びる。自分で出来るからと言ったのに、高石は僕を浴室に連れて来て、縺れた髪、ベタベタする体、隅から隅まで。飛沫を浴びながら、またキスをして、高石の手が全身くまなく這い回るのを感じる。滑る水の感触さえも、今の僕を追い立て、今まで経験した事のない感覚。 つるつる滑る壁に手をついて、意識してないと滑って無様に頭ぶつけそう。石鹸塗りたくられたせいで痛みなんて微塵もなく、後ろからぐいぐい押し込まれて、一際高い声が上がってしまう。 「立ってられな……」 掠れた声で訴えると、壁に押しつけられ激しく突き上げられる。僕の立ち上がったそこが、壁に挟まれてぬるぬると。抑えようにも抑えきれず、肺の奥から押し出されるように息が漏れる。こんな時、僕は動物みたいだ。本能の赴くまま。 「ああぁっ!」 体の中、奥まった所、熱く弾けた感覚。自分では制御出来ず、歓喜に震える僕の体。 |