GO AHEAD !





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入学式後はとにかく慌ただしくて、英語なんかあるし、算数は数学だし、部活決めたりだとか色々ごちゃごちゃ。学園天国は逃れたものの、ボクは一乗寺くんと同じ班になっちゃって、何って掃除だけどさ、それで、掃除の時間になると大輔くんがやってくるんだよね、女子数人引き連れてさ。半分は大輔くんを呼び戻すため、半分は一乗寺くんを見物に、だろうな。キミが来れば一発なのにってヒカリちゃんに愚痴ったら、三分の一はボクを見に来てるってさ、勘弁してよ、全く。でも、その日はちょっと勝手が違った。

「なあなあ、いちじょうじ、けん、だよな?」

いきなり呼び掛けられて、一乗寺くんは当たり前だけど声の主の方を向いてさ、ボクも知ってる子、名前は知らないんだけど、確か大輔くんと同じサッカークラブの。

「えーと、あのさあ、きみ」

それっきり後が続かないらしい、もうひとりの誰かに小突かれて身悶えするみたいに言葉を絞り出そうとしてて、あーあ、同じ年の相手にさ、まあわからなくもないけどさ。

「サッカー部、入るんだろ?」

もう一人が助け舟を出す。

「大輔のヤツ、何も言ってなくてさあ」
「えーと、なんていうか」

交互に顔を見合わせながら、きっとまだスター扱いなんだろうな、無理もないよね、だってあの試合に居たわけだもん、この子達。

「・・・。」

あーあ下向いちゃった、困ってるよ、ってことはサッカー部入らないってわけか。事情はよく知らないけど、あれから活躍したって話も聞かないし。

「てゆうか。入ってくれよ、な?」
「ゆっちゃ悪いけど、ここのサッカー部・・」
「八神さん抜けたら、なあ?」
「高石からも・・って。お前等・・」

・・・立てた聞き耳に釣られて、一歩どころか三歩も四歩も足踏み出して、いや、そういうのって歩くっていうんだよね、とにかくボクは一乗寺くんの横にどういうわけだか、ああ、もう。

「うん、まあ。大輔くんつながり」

大輔くんって便利・・いや、なんていうか。とにかく感謝だよ、しがない転校生だったボクと仲良くしてくれてありがとう。

「な、今日提出だったけど、まだ間に合うからさ」

そうなんだ、ボクがなーにも考えずに「第一希望男子バスケット部」って書いて提出したプリント。学園天国じゃなかったせいで、彼がなんて書いたのかわかんなかったし、聞く理由も余裕も時間もなく。

「でも一乗寺くん、足はもう大丈夫なの?」

交互に畳み掛ける二人組の言葉を遮って、だってさあ、ただホウキを足許で小刻みに動かして困ってるだけなんだよ、そりゃ天才少年の遍歴を話すわけにもいかないのはわかるけどさ、何とでも言い様があるじゃない?ていうかボクっておせっかいだ・・。

「は?足って何だよ、高石」
「足の故障でずっとサッカークラブだって出てなかったんでしょ?大輔くんから聞いてない?」
「えーー??」

二人のダミ声が揃う。音に鈍感なボクでも、気持ちいいもんじゃないなあ、まあ、誰でもこの時期だいたいそうなんだろうけど。

「まさかあの時の?」
「大輔のやつ・・」
「そういうわけじゃない、本宮が悪いんじゃ・・」

一乗寺くんが慌てて口を開くけど、遅かった。

「あーーーーー。悪かったなあ・・」
「あいつ、あんな・・」
「だから・・っ」

わーつるかめつるかめ、睨まないでよ、ボクのせいなわけ?いえ、すみません、ボクのせいだね、ここはなんというかやっぱり彼に御登場頂くしかないか。

「すごかったよねー炎のスライディング」
「違う、あれは・・」
「怪我したの、どっちだっけ?」

グレイのズボンに包まれた脚をホウキにもたれてしげしげと見遣る。これでわかんなきゃ勝手にしてよ、ボクは馬鹿な子は嫌いだからさ。すぐしおれちゃう花も、自意識過剰の上目遣いも、自己満足のパフォーマンスも嫌いだから。

「・・こっちだよ」

二人組みが固唾を飲んで見守る中、一乗寺くんは軽く自分の右足を叩いた。

「あれはただの裂傷で・・よくあることだよ、本宮のせいじゃ・・」
「もう片方は膝だっけ?」

物わかりが悪いってわけじゃない、打てば響くとはいかなくても。ボクを片目で睨んで、仕方なく一乗寺くんは頷いてみせる。ウソをついてる心苦しさも、はた目からは辛い告白と同じ。

「大輔のヤツ、そんなこと一言も・・なあ?」
「だよなあ?」
「大輔くん、何って言ってたのさ?」

もし、なにか事情があるとしたら大輔くんが知らない訳がない。一乗寺くんとサッカーをしたいってことにかけちゃ、大輔くんが第一人者なんだから。

「えあ?大輔?」
「あいつは・・あんま無理言うなって」
「それってオレらのレベルがアレだって話かよーってなあ?」

一乗寺くんのホウキを持つ手にぎゅっと力が入ったのを見のがさないボクって・・何だろう、僕達の下宿の階段は何段あるか、君は憶えているかい、ワトソン君?

「つーか・・治ったら考えといてくれよな?」
「なんならマネージャーとかさあ、そういうの中学ってありだっけか」
「知るか、バーカ」

果てしなく小突きあいながら、退場したそうにもぞもぞ。一乗寺くんは考えておくよ、と聞かせる気があるんだかなんだかな声で言うと、ホウキを動かし始めた。自分は関係ないと言いたいのかな、ボクとしては窮地を救ったって大袈裟だけど、助け舟くらいは出したつもりだったのに。

「またね、大輔くんによろしく〜」
「おう、高石はまたバスケか?」
「そうだよ〜」
「お前もサッカーすりゃいーのに」
「うーーーん。脚がもつれるからね〜」
「何だよ、そりゃ」

二人組はちょっとほっとしたみたいに笑って、邪魔したなってポケットに手ぇ突っ込んでぶらぶら教室を出てった。ホウキにもたれて一息ついてる間に、話題の主は黙々と机を引きずってて、掃除はもうほとんど終わりらしい。なんだかなあ、ボクばっかり気を遣ってるみたいなのって思い込みかなあ?確かに余計なお世話だったかもしれない、ううん、余計なお世話だ、でもさあ。

気がついたらボクは一乗寺くんの緑色の袖のあたりを掴んでて、若干の抵抗を心地よくなんて感じながら、廊下の角を曲がってた。







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