夢の終わり









『あの頃の事はあまり良く憶えてないんだ』

賢ちゃんは少しだけ寂しそうに、悲しそうに見えた。口元は微笑む形に両端持ち上げていたけれども。ぼくと賢ちゃんが初めて出会って、そしてデジタルワールドを一緒に旅してた事。幼い君にとってそれは過酷な日々で、挫けそうになったり涙流したり。それでも君は成し遂げて、ひとつの世界を救ったんだ。君とぼくが確かにそこに存在した証。





「ワームモン?」

僕のパートナーは近頃寂しそうに物思いにふける。名前を呼んでも気付かない。何が君の心を悩ませているんだろう。僕に出来る事はないんだろうか。思いのほか軽いその体を抱き上げて、膝の上に抱える。

「ねえ、最近どうしちゃったの」

答えはない。大きな瞳が僕を見上げる。しまいにはその瞳が涙で一杯になって、今にも泣き出しそうに見えるのに。何も言わない君。君の悩みを知ることの出来ない僕。何もかも分かり合えていたと思ったのは、錯覚だったのだろうか。僕達の絆は、他の選ばれし子供たちに比してこんなにも儚く脆いものだったのか。寂しい僕は、その温もりを少しでも確かなものにしたくて、君の体を引寄せた。そんな事しても君は僕に何も言ってはくれなくて、寂しさは余計に募るだけだというのに。





「ねえ、賢ちゃん。こんなに悲しいのは何故なんだろう」

寝静まった夜の闇の中。こうして眠ってる君の傍らで闇に目を凝らしていると、いつも思い出すんだ、あの時の事。食べるものも体を包む毛布も何にもないあの場所で、ぼくは君を守ってこうして。傍らで眠るその寝顔を見てるだけで、ぼくは自分がちっぽけな存在なんかじゃなくて、まるで。そう、ぼくは君を守るだけの力を持ち得ていると思えた。立派な堅い体と、強い腕を感じた。それは根拠のない妄想ではない。そうでなければ、ぼく達は生き残れなかった。

「そうでしょ?賢ちゃん」

答えは無くて、静かな寝息。じっと見つめていても目覚めはしないぼくの大事な、大好きな。白い額に垂れかかる髪を、爪でそっと払う。ぼくの爪はほんの少し不器用、だから傷付けないように、細心の注意を払って。そうしたら、賢ちゃんは身じろぎしてぼくの名前を呼んだ。ひどく悲しそうな声音で。顰められた眉が苦しそうで、きっと夢の中でさえ安らぎは訪れてはくれないんだ。ぼくはどうしてやさしい指を持っていないんだろう。そうしたら、賢ちゃんに触れて、ぼくの温もりで安らぎを与える事が出来るだろうに。お互いの体温を感じて、それを分け合って慰める事が可能なのに。そしてぼくははっとなる。ぼくが望んでいた事が何なのか、はっきり悟ってしまったこの瞬間に。



上掛けをめくると、横たわっている全身が露わになる。また少し痩せたみたい、最近食欲がないって言ってた。頑張って食べなきゃ大人になれないよ。

「賢ちゃん……」

君の名前を呼んで揺り起こして、それはほんの少しの逡巡。だけどこの思いは特有の甘酸っぱさを伴って、ぼくの意識を朦朧とさせる。固く閉じられていた瞼が、ゆっくりと開く。ぼくの姿を認めて、賢ちゃんはその腕を伸ばす。溜め息と共に吐き出される言葉.。

「…ああ…スティングモン……。」

首に巻きつけられる賢ちゃんの腕の感触。ぼくは賢ちゃんの望む事を。細くしなる体に回した腕に力を込める。そうすると賢ちゃんは微かに震える。首元に感じられる、熱い吐息。密着した体をいったん離して、しばらく見詰め合う。熱に浮かされたような瞳がぼくを映す。僅かな間さえもどかしいというように、賢ちゃんはパジャマのボタンを外していく。細い首、鎖骨のくっきりと浮き出た胸元。ぼくの目はそこに吸い寄せられる。滑らかな白い肌、荒い呼吸に上下する薄い胸板。そしてぼくは、この光景を見るのは初めてじゃないと漸く思い出した。





乾いた大気、吹きすさぶ砂嵐の中。仲間とはぐれて、賢ちゃんはもう一歩も前には進めないというところまで弱っていた。足を引き摺りながら、なんとか風と砂を避ける事の出来る、ごつごつとした岩山に穿たれた小さな横穴に辿りついた。奥まで這うようにして潜り込んで、そこで力尽きた。賢ちゃんは倒れるように眠りについて、ぼくはこんな非力な自分に何か出来る事はないかとあちこち探したけれど。食べるものも飲むものも何も無くて、せめて自分が風を防ぐ楯になれればと強く願った。強く目を瞑り祈って、意識が一瞬遠のくような。爪の先にまで漲る力。気が付けば、ぼくは賢ちゃんの上に覆い被さっていた。こんなに小さくてまだまだ幼い体なのに。賢ちゃんの腕、こんなに細い。ぼくはその腕をそっと持ち上げて、柔かな肘の内側を味わった。砂まじりの汗の味。自分でもそれと気付かずに、ぼくは腕の中に大事に抱えていた。賢ちゃんの全てを、柔かな肌を。






「憶えていたの?」

賢ちゃんの前髪を、さっきより自由に動く爪でそっと梳きながら。頷いてそれに 応える、愛しい小さな顎。

「ねぇ、あの時みたいに…スティングモン」

滑々の肌に顔を寄せる。口吻でそれを味わう。ぼくの頭に置かれた賢ちゃんの手が熱い。そこから、体温を持たないぼくに熱が伝わる。あたたかな温もり、惜しみなく与えられて、それでも冷める事は無く、体の中心から熱は放射され、ぼくはその熱に炙られる。





悪夢に魘されて目を覚ましたら、僕はスティングモンの腕の中。知ってるよ、君は僕のパートナー。砂漠の夜は思いのほか冷える。弱っていた僕は眠りについてしまえば、そのまま目を覚まさなかったかもしれない。大きくて頑丈な体が、吹きすさぶ風から僕の体を守る。でも…君の体はひんやり冷たいから。僕の顎は震えて、歯がカチカチと音を立てる。それに気付いた君は、僕を抱く腕に力を込めて。そして……。長くてくねる柔かなものが、僕の体の上を這う。それは微かな湿り気を帯びていて、僕はそれに触れられると体が変なふうに震えてしまう。しまいには服の中に潜り込んで、普段そんなふうに触られた事が無いような動きで。巻きつけられたスティングモンの口吻によって、僕は目の眩むような快感を与えられる。締めつけられて息が詰まる。これほどまでに強い刺激を僕は知らない。心と体がバラバラになってしまいそうなほどの感覚をどうにか堪えた。熱い体持て余して、スティングモンの背中に腕を回して、僕はこれが何を意味するのかも知らずに、目の前の体にただしがみ付いていた。






目の前の白い体はあの頃とは違う。腕も脚もすらりと伸びて、ぼくの体に巻き付いてくる。潤んでぼくを見つめる瞳は、明かに一つの行為を示唆している。もう子供じゃないんだ。あの頃のままの、お互いの熱を引出して終われるぼく達じゃ。ぼくは震える賢ちゃんの腕をシーツに縫いとめて、長く伸ばした口吻で記憶の中の肌との違いを検分し始めた。敏感な胸の突起、余計に感じ易くなったみたい。爪でやさしく弾くと声が上がる。下腹部の成長を確かめて。





「あっ…駄目…出ちゃ…」

伸ばされた口吻が僕に絡みつく。絡みついた先端が、窪みをこじ開けて僕の中に入ってこようとする。体を強張らせた僕の抵抗をものともせず、中に侵入してくるやわらかなそれ。狭いそこに自在に蠢いて突き進んで潜り込んで、ちくりとした痛みを与える。痛みはすぐに消えて、僕は苦しいんだかいいんだか、なんだかよくわからなくなる。こんな時のスティングモンは容赦なく僕を追い上げて、やさしさの欠片も感じられないのだけど、それを僕が望んだのだから。涙が溢れてきて、息が詰まる。体がびくびく撥ねて自由にならない。そんなところに何かが入るなんて。そんなところが感じるなんて。

「う……ああっ!」

一気にのぼりつめる感覚、でも溢れさせることはない。僕のそこに差しこまれた口吻が流れを堰き止め、余すところなく吸い上げて、そうされることが余計に僕を昂ぶらせる。抜き去られたスティングモンのそれは、内部に湛えたもののせいかさっきよりも太くぬめっていて、いやらしく蠢いた。それを見せ付けるかのようにくねらせて、スティングモンはさらに僕の脚を開かせる。

「ここ…いいよね、賢ちゃん」

僕は頷く。ここから先は、僕にとっても彼にとっても未知の領域で、僕達は本来何も知りはしない。それでもスティングモンが僕の体を探求するのは至極当然の成り行きで、それに関していえば、一連の行為はあの砂漠の夜以来の暗黙の了解なのだから。

ぬるつく口吻が、普段外気に晒した事のない奥まった部分を掠める。僕は思わず身を竦める。湿った感覚が周囲を刺激して、あっと思う間もなく気味の悪いぬめりが僕の中に入り込んで来る。さっきまでのとは明かに違う異質な痛み。入り口付近を探ってたそれが、徐々に奥まで伸ばされる。僕の体は逃げを打つ。しかし抵抗は意味を為さない。その気になれば、彼はその口吻を伸ばして、僕の内臓を突き破る事さえ可能なのだから。

「あっ…うあ…やだ…」

下腹部がぶるぶると震える。中で自在に蠢くぬるつきが内部から僕を割り開く、押し上げる。その感覚に怯えながらも、逃れようのない快感に打ち震える自身を見てしまう。口吻が中でくるりと回転したと同時に、全身に電流が流れたみたいに僕は大きく仰け反った。スティングモンはそれで、どうすればいいのかを悟り、僕の体は何度も大きく撥ねた。強過ぎる快感に僕は付いていけずに弱々しく抵抗の意を表す事しか。しまいには汗みどろの体は大きな痙攣に見舞われて、悲鳴と共に僕は終わってしまっていた。それはまさに、終わると言う言葉がふさわしい幕切れ。力が入らない体はぼろぎれのよう。2度目の射精によって、僕は汚れてしまった。余韻を楽しむかのように、スティングモンは今だ僕の中で蠢かしていたけれど、僕は微かに震える反応を返すだけ。ベッドに突っ伏して、痺れたような指先でシーツを掴む。荒い息を整える。それから僕は泥のように眠る。夢も見ずに。髪を梳かれる感触が徐々に遠のいて、僕は完全な闇の中へと落ちて行った。





「賢ちゃん…寝ちゃったんだね?」

ぼくの声はもう届かない。でもいいんだ。君がぼくを望んだからぼく等は同じ場所、同じ時間、同じ瞬間を生きる。ぼくを忘れないでいてくれて、すごく嬉かった。目覚めたら、デジタルワールドへ行こうね。ぼくは君を守るために闘い、何だってやってみせるから。君をいつでも近くに感じて、そしてぼく等は熱を分け合う。固くて頑丈な体で思うまま動く、ぼくは君だけのパートナー。  





END






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