手負いの雉に幸福な死を 「うちにはもう差し出せる子供はおりません!」 ママの悲痛な叫び声が耳の中に残ってる。ゆっくり服のボタンを開かれていって 、僕は唇を噛んで目を閉じた。袖を抜かれて、裸の胸を外気に晒す。震えて膝が がくがくして、今すぐ逃げ出してしまいたいのに立ち竦んで動けない。胸の突起 、摘ままれて声が漏れてしまう。 「ここ感じる?可愛いね」 耳元で囁かれる声、僕は息を呑む。俯いたまんま、頭をふって否定する。 「ねえ、我慢しないでいいからさ。誰もここには入ってこないから」 連れてこられた部屋はただ広く、机と椅子と長椅子しかなくて、どことなく寒々 しい。どこを見たらいいのか分らなくて、机に施された彫刻を見るとはなしに見 つめてしまう。腰を引寄せられて、抱きしめられる。上半身はなにもつけてない せいで、装飾過多な相手の服が肌を刺激する。腕を突っぱねて、逃れようと。で も力がまるで入らなくて、無駄に終わる。側の長椅子に引き倒されて、慌てて体 を起こそうとしても、すぐさま圧し掛かられ、見動きとれなくなる。声を出すの をずっと耐えてきたのを、ここまで来て僕はようやく。 「やめて下さい。お願い……します」 「やっと喋ったね。いいんだよ。もっと話して」 間近で見る相手の顔、金色の柔かな髪に取り囲まれて穏やかに微笑んではいるけ ど。ゆっくりと僕の服を取り払っていって。 掌で腹部をゆっくりと撫で上げられて、僕の肌が粟だった。敏感な部分に辿りつ いた手が僕の形を辿り、強い快感を引き出そうと。 自分の意思とは無関係に体を好きにされる屈辱が、僕の涙腺を刺激する。 二人目の子供も取り上げられようとした母がなんとかそれを回避しようと考えた 末、僕は人目につかないように、目立たないように育てられた。 屋敷の奥深く、まるで幽閉でもされているような数年を経て。それで逃れられた ものと思っていたのに。 あの日、母は取り乱してた。力ずくで僕はあの家からここへと連れてこられた。 泣き叫ぶ母の手から引き剥がされて。 そして身支度を改められて、僕は引き合わされた。僕の運命を左右するであろう 、これからの僕の主人に。 相手は僕と同じ年。この国の人々とは大きく違うその容姿。白い肌、金色の髪、 恵まれた体躯。 煌びやかな上等な服を身に纏い、輝かしい未来が約束されている。何故ならこの 一族は、国の運命をその手に握ってるから。 富を象徴するもの全てが、ここにはある。一族は子を成すと、国中から生活を共 にする子供達を集める。共に成長し苦楽を分ち、生涯の忠誠を誓うような優秀な 子供。 僕には兄が一人居た。何事においても人より抜きん出たものを持つその兄が、僕 は自慢だった。 いつも書物に埋もれてて、何でも良く分っていて、父も母も兄の事をこの上なく 愛していた。 家は貧しかったけれど、父母は自分たちに出来るだけの教育を兄には受けさせる つもりでいた。 だからある日兄は家を出た。僕がさっきくぐったこの屋敷の門を、兄が晴れがま しい気持ちでくぐった事は想像に難くない。 なのに半月と経たず、兄は家に戻ってきてしまった。物言わぬ変わり果てた姿と なって。その時の父母の嘆きはあまりにも大きくて。 僕はその間の記憶が曖昧で、誰が僕の世話をしてくれたのかさえ覚えていない。 はっきりしているのはその日を境に僕は外へ出ることを禁じられ、声を立てて笑 う事もなくなって。家の中はいつも重く沈んで、誰もが兄のことを忘れる事など 出来ないのに、その事に触れるのは禁忌となった。 窓の側に立つことさえ許されなかった僕は、そのむかし母の目を盗んで、兄と一 緒に木苺を摘まんだ初夏の夕暮れの庭を思った。 目を閉じると、木苺の実の脆ささえ指に蘇ってくるのに。いつも唇を噛んで、暴 れまわる醜い感情を押し殺した。 支配する側とされる側。彼と僕の違いはたったそれだけ。なのに、僕はといえば 。同じ年であるとは思えないような育ちきらない体格。 けして豊かではないこの国では、僕くらいの年頃の子供は皆痩せこけている。ま っすぐ落ちる黒い髪は陰鬱に青白い頬にかかり。 今も脱がされかけて骨ばった上半身を晒してる僕は、惨めで自分を呪った。 それでも。いくら嫌悪してもこんな屈辱的な運命から逃れられず。ただただ耐え るしかなかった。 追い上げられて、声を出して。震えながら僕は放った。胸の上に散った白濁した 液を見て、もう僕は涙を押さえられなかった。 「泣かないでよ。まだまだこれからなんだから」 その言葉に覚悟を決めた僕は極力、頭の隅に自我を追いやった。受け入れがたい 運命でさえ、僕は甘んじてその渦中に身を置かなければ。 胸の上から掬い上げられたぬるぬるしたものが、後ろに押し込まれた。異物感に うめく。指が僕を犯す。 ゆっくり抜き差しされて、僕はぎゅっと目を閉じて体を固くして。すると宥める みたいに、掌で僕の体を撫でさする。 胸の突起に引っ掛かる度にびくんと僕の体は浮きあがり、その度に奥まで挿入さ れる。少年期特有のしなやかで綺麗な指。 なんでこの人はこんな事がしたいんだろう?なんで僕を相手にこんな妙な事を。 体の中を掻き回される感触が耐えられなくて、長椅子の背を力いっぱい掴んだ。 それで異物感を逃そうと。すると綺麗な指がそれを留めるように、僕の手に伸ば される。 「力を抜いて。でないと傷ついちゃうから」 僕はなんで素直に頷く事しか出来ないんだろう。 そして出来る限りの精一杯の努力をする。自分にこれから酷い事をしようとして いる人間なんかの言う事を聞いて。 |