セーラー服と期間中







「あ~あ、全く。割に合わないよ。」

ソファにもたれて、床に脱ぎ散らかした服の上、高石がぼやく。下半身が重くて頭がだるくて起き上がるどころじゃない僕はそのままソファに突っ伏していて。

「確かに、一乗寺の方が体の負担は大きいよ。それは認める、悪いと思ってるよ。でもさあ。」
悪いなんて微塵も思っていない声で高石が続ける。
「君が三回で僕が一回だよ?不公平だと思わない?」
「・・思わない。」
我ながら地獄の底から響くような声だと思う。
「それにさあ。」
「・・僕はアレを着た。」
アレって?とでも言いたげに青い目が丸くなる。
「あ、アレね。」

楽しかったよね、またやろうね、なんて軽く流されて。
「どうするんだ、これ。」
だるい腕を伸ばして、その言い訳のしようもなくぐちゃぐちゃになった服に触る。

「汚さない様に細心の注意を払ったんだけどね~。ま、僕はよく知らないけどさ、制服って丈夫に作ってあるものなんでしょ?クリーニングに出せば元通りになるんじゃない?大輔君が暴れちゃって、とかね、目撃証人もいる事だし。」
問題は解決、とばかりに淡々と言ってのけて、高石が僕に向き直る。
「で、さっきの続きなんだけど。」
「さっきの、って。」
「服の件を入れて僕が二回でしょ。」

H.Rで意義申し立てでもしてるみたいな真面目な調子で喋りなから高石がにじり寄って来る。

「まだ一回分の不均等が緩和されてない訳だよね、一乗寺はこれについてどう思う?」

ずれたソファのカバー、くしゃくしゃのくすんだ金髪、無邪気そうな青い目、清涼飲料水や4WD車のCMにでも出てきそうな顔で、ハダカで、着ていたTシャツが脚のあたりに絡まっていて。

「何?何がおかしいのさ。」
笑うと体のあちこち痛いんだけど、それでも。
「いや、なんでもない。」
「ふうん?」
「なんでもないったら。」
「ま、いいけど。それで一乗寺はどう思うのさ。」

「どうって。」
「もう一つぐらい、お願い聞いてあげてもいいと思うでしょ?」
畳み掛けるように近付いてくる高石の顔は妙な迫力があって。言葉に詰まっていると、嬉しそうに唇を重ねて来る。お願い、とやらがコレで済む筈ないよな、と身構えていると、目をじっと覗き込まれて。
「ねえ、今日、泊まっていきなよ。」
「お願いってそれなのか?」
うん、何だと思った?ってまた、尖らせた唇が触れる。
「それって。三つの願いの最後がもう三つの、っていう・・。」
「ひどいなあ、まるで僕が22世紀に帰って行くドラえもんの四次元ポケットを、形見にってむしり取ってく奴みたいじゃない。」
「君は、まさしくそういう奴だよ。」
「はあ。僕って誤解されやすいんだよね・・。」
「自分で言ったくせに。」

一乗寺、君の紋章何だったっけ、と情けない声、伸び上がって唇に触れる。「優しさ」とは違う気がするんだけど、まあ、構わないか。



「もうじき母さん帰ってくるんだ。」
「え?」
「あの人、とんでもない時間まで起きてるし、君、最中声大きいしね、エッチな事なんか何もできないよ?それでもよかったら、泊まってってよ。」
「別に・・そういう事をしたい訳じゃ・・。」
「じゃ、決まりだね!」


飛び上がって、そのへんの服をひっかけて、急に高石が目まぐるしく活動を始める。電話は後でいいか、まず片付けなきゃだね、それからお風呂、それから、え~と。





取り敢えず家に連絡を入れて、急だったので言い訳に困ったけど、本宮と高石の名前を出せば、家は、ほぼフリーパスだから。浴槽に浸かって一息ついてると、思ったより疲れてたみたいで眠ってしまいそうになる。

「うん、そう、一乗寺くん来てるんだ、泊まっていいでしょ?もう電話しちゃったし。うん、大丈夫だよ。それでさあ、今どこ?新宿?じゃあさ、帰りにデパ地下で何か美味しい物買ってきてくれないかなあ?」

洗濯機の音と、高石の声。お気遣いなくって言わなくちゃ、と思うんだけど、立ち上がるのも億劫で。

「ええ?そんなの聞いてないよ!」

何があったんだろう、高石らしくない。わかったよ、もういいよ、お寿司特上4人前とってやる!母さんには残しといてあげないから!なんて怒鳴って。

「・・高石?」

浴室のドアが開いて、頭から湯気立ってます、って状態の高石が入って来る。

「ちょっと人がイイ子になろうとしたらコレだよ?僕、拗ねるよ?もう。」
しゃがみ込んでため息ついて、浴槽の縁に頭を乗せる。
「お母さん、どうかしたのか?」
「・・飲みに行くんだってさあ~。あ~あ。」
「いいじゃないか、お母さんだって色々お付き合いが・・。」
「よくないよっ!せっかく・・」

意外だった。考えてみれば高石はお母さんと二人暮しな訳だし。大勢(って言っても三人だけど)で食事ってやっぱり。
なんだかじんときて、高石の頭をなでる。しょげてる顔が可愛くて、ちょっと覗いてる耳にキスしたりして。・・湯当たりしたかな。今日泊まる事にしてよかった、なんて。

「一乗寺。」
「何?」
「耐えられると思ったんだけど・・駄目だったんだ。」
「それでお母さんに怒鳴ってしまったんだ?」
「いいや、入ってきちゃった、ここに。」
「え?」
一瞬イヤな予感が頭をよぎる。
「イイ子になるって難しいよね。」
うってかわって満面の笑みを浮かべて、高石が立ち上がる。

「一応努力はするけどね、今回不可抗力だし。あの人、とことん飲むからね。」

あ、クリーニング、一乗寺の制服も出しておくから、留守番しててねって。

「・・あ、いってらっしゃい。」
てっきり一緒に入るの何のという話になるのかと思ってた僕は、ばたんと閉まった浴室のドアをぼんやり眺める。・・なんて言うか。疑い深くなってるな、高石に関して。体を流して脱衣所に。洗濯機が一旦止まって濯ぎに変わったみたいで。取り敢えずタオルを巻いて風呂場を出る。居間のテーブルの上にお札とメモ。


『おすしやさんが来たら払っておいてね!』





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