「オフサイドについて説明した方が?」
「うわあ、噂に名高いアレ?どうせ無駄だしやめてよ」

二つ折りにしたネクタイをベルトを鳴らす様に引っ張る。する筈のないぱちんという音が聞こえた気がして一瞬身が竦む。

「無駄な事は嫌いなんだよね」
「ウソつけ」

ここでこうしている事自体無駄の塊じゃないか。僕はぴんと張った緑色の紐から目を離せずにつぶやく。

「ウソつけってさあ、ウソつくなって意味なんだろうけど・・」
「かせよ、それ」

無駄な緊張状態を解除しようと、僕は高石の持っているネクタイを奪い取る。こいつはわかっているんだろうか、すっかり手なずけたつもりでいるんだろうか、僕がこいつに付き合っているのは、割合的にはわずかであっても逆らうのが怖いからだって事もあるんだと。

「あ〜」
「手を使わないんなら必要ないだろ」
「えーと、バスケじゃムチは使わないんだよ?」

馬鹿か、と鼻で笑えた自分は成長したと思う。

「いいから、手を出せよ。君がちゃんとルールを守るなんて思えないからな」

素直に差し出された両手首を、薄暗い中安物っぽい艶を浮かべた緑のネクタイでぐるぐると二回。随分余るので更に二回。赤ちゃんみたいなピンク色に染まった指先が、節が目立ちだした大きな手にそぐわなくて可笑しい。

「何さ、何企んでんのさ」
「怖いか?」
「脚は使っていいんだよね?・・ってこの体勢」

そうだな、かなりみっともない。必殺・・何だったっけ、くだらな過ぎて憶えてもいない。説明したくもないけれど、僕は高石の両足で引き寄せられ、その足は思いきり開いていて、僕はその間に挟まる形になった。

「邪魔だよね、この手」

高石の声が少し上ずって聞こえる。柑橘系の匂いがかすかにする手が僕の顔を掠って頭の後ろにまわる。何だよ、という自分の声はゼッケンと体操服の間にくぐもって消えて、高石の期待を間近に感じて、どうしてまた彼は、何を間違って。

「ねえ、してくれるんだよね?」

頭のてっぺんに湿った息を感じる。そのままやんわり押し付けられて、徐々に重くなる高石の。

「ねえってば」

すごく恰好悪いと思う、ボールを両足で挟んで引き倒すなんて。とりあえず世界で一番格好良いと言われる選手で想像してみたけど駄目だった。それにサッカーもバスケもボールを使うんであって、こういうのは違うんじゃないかな、野球だったら、なんて考えるともう。

「あのさあ、ヤだったら・・やっぱその、アレかなあ、今日は体育館でちょっと走っただけだけど、やっぱり」

僕達はどっちもあまり下品な事は得意じゃない、取りあえず言葉にするのは。だけど実践となると。

「息を止めれば大丈夫」

笑いを堪えられなくて噛んでしまうかもしれない、とりあえず高石はそっちを心配した方がいい。







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