picture・・ 暗い室内に TVの明かりがベッドを照らして、 なのにそう離れていない テーブルのある空間は 別世界のように闇に飲まれている ただ携帯の様々な発色が 海みたいに揺らめいていた 熱のせいかこの距離を歩くのが 何十秒、何分にも感じられた。 ディスプレイは 私の想像した名前を映しているのか。 正直、もう期待と不安が ごちゃまぜに入り混じった 不快に近い心持ちで 心臓が壊れるんじゃないか、 涙も止まらないし 誰か助けて欲しい。 そう強く思った 一秒後には覚悟を決めて 目を閉じて息を吸って 思いっきりすばやく電話をとった 「もしもし」 その声は瞳を閉じていたせいで 耳元にダイレクトに そして 残りの感覚全てを刺激して 体に響いた かかしじゃないのはすぐ分かった 彼とは全く違う、甘くてだるい音色の声だった。 えっと、分からない、よなぁ? ・・・エンジだってば 気付いた瞬間に 先にそう言われてしまった けだるくそれでいて高い声は huvcoolエンジだった その唐突な事実に 何で今エンジと電話で繋がっているのか さっぱり分からず混乱してしまった びっくりした、と 苦笑いのような変な顔を作りながら とりあえずは言葉を出した。 だよねぇと彼は いたずらっ子ぽく笑う 今、ちょうどTV映ってると思うんだけど そう言うと彼は数回咳をした 電話の向こうからはガヤガヤと 何かの溜まり場にいるような 賑やかな声が聞こえている 煙草がけむたくてむせているんだろうか 確かエンジは煙草をあまり吸わない 言われて再びTVに目を移す 三人の真ん中にいるエンジが アップになってインタビューがすすんでいる 音量を最小限にしぼっているから まるでTV電話しているみたいな 不思議でちょっと楽しい気分になった 楽しい、なんて 久しぶりに こんな感情が沸いていることに自分で驚いた。 1ヶ月間 起きているのか寝ているのか 果ては生きているのかも分からないような 感情に起伏のない、何もない 生活を送っていた ブラウン管にかかしが映ると また涙腺を痺れさせる感情が戻ってくる 気持ちが急旋回して沈んでいくのが 嫌というほど分かる 出てるね、今見てました、と その落ち込んだ気持ちのまま エンジに話し掛ける すごく失礼だなと自分でも思った でも 心の中にはかかしがいっぱいで 電話の相手が違っていることに 落胆する部分もあって 気持ちを持ち上げることはなかなかできなかった それとは別に頭には 疑問に思う事があった 何故電話をしてきたのか。 番号を知っているのか。 だけど後者は 比較的すんなり解決することができた あの10月の公園で別れた日 私はかかしの携帯をポケットから探して エンジの番号を探し、自分の携帯からかけた さすがに別れた相手の携帯を勝手に 発信させるのは嫌だったし 自分の電話からかけるのがごく自然な気がしたから それでナンバーが残ったのだと思う だとしたら前者は きっとエンジに気をもたせようと してかけたと思われたに違いない 自分で言うのもなんだけど 私はそんなナンパ者じゃない、 第一 器用じゃない。 少々怒りに似た感情を覚えた 軽く見られるのがどうしようもなく嫌だった なるべくトーンを下げて、下げすぎて ハスキーになった声で どうして電話してきたのか聞いた エンジはごく普通に ダメだった?寝てた? と返事した それから ナンバーが残ってたから、と 理由にならない理由を挙げた 予想通りの返答に更に頭にきて 唇をかんで黙っていると 「まぁ、かかしの携帯パクってでも絶対、かけてたけど」 そこだけ真顔が浮かぶようにポツンと聞こえた 一瞬背後のざわつきが遠のいたのは エンジの声が小さく囁くように聞こえたのは 熱のせいだろうか いちいち言葉の意味を探るうちに 一気に血の気は下がっていった 俺は音作ってないから 今の時期でも一泊くらいできるわけ たとえば。。。大阪見物とか! 無邪気な悪ガキみたいに笑うエンジは 電話の向こうからでもすごい存在感で 私に有無を言わせなかった。 案内しろってことか それぐらい私にも分かった 分かったけど次の瞬間には 頭の中は何で?のオンパレードで 目が白黒してる間に 一方的に日を決められてしまった それはまるでTVの砂嵐のようで 口が開いたまま窓に目をやると もう空が薄紅色した雲でいっぱいになっていた picture・・・ つづく トップ